「もはや定型文」ゲーム契約の生成AI禁止条項、弁護士が見た業界の温度差
「今年に入ってから、契約書に生成AIを禁じる条項を入れるのがほぼ定型文になった」。
ゲーム業界専門の弁護士がそう証言しています。
Voyer Law所属のヘイリー・マクレーン氏によると、担当する契約のほぼすべてに生成AI禁止条項が盛り込まれるようになったといいます。
数年前まではごく一部の慎重なパブリッシャーだけが求めていた条項が、今では大手からインディースタジオまで標準装備になっているというのです。
契約書の裏側で起きているこの変化は、プレイヤーが日々目にする「このゲーム、AIっぽい絵だな」という違和感とも無縁ではありません。
この記事では、なぜここまで急速に禁止条項が広がったのか、その裏側にある業界の温度差を追いました。
先に結論をまとめると:
– カナダの弁護士ヘイリー・マクレーン氏によれば、パブリッシング契約の生成AI禁止条項はこの1年で「ほぼ定型文」と言えるほど一般化しました
– 背景には、生成物に著作権が発生しないという法的リスクと、プレイヤーの拒否反応という2つの理由があります
– 一方でGDC 2026調査では業界従事者の36%が実際に生成AIを業務利用しており、契約上の建前と現場の実態にはズレも見えます

Xで広がった「もはや定型文」という証言
このマクレーン氏の証言を伝えるAUTOMATONの投稿が、Xで大きな反応を集めました。
「ゲーム業界で『生成AI使用禁止』を盛り込む契約書、ここ1年で急増傾向との証言。
もはや定型文、大手から小規模パブリッシャーにも波及」という一文には、3,048件のいいねと62万回を超える表示がついています。
【ニュース】ゲーム業界で「生成AI使用禁止」を盛り込む契約書、ここ1年で急増傾向との証言。もはや定型文、大手から小規模パブリッシャーにも波及https://t.co/rEzdFQGa7N pic.twitter.com/ZBg0OhxhD5
— AUTOMATON(オートマトン) (@AUTOMATONJapan) 2026年8月14日
ただ、この投稿だけでは「なぜ禁止なのか」「実際どこまで浸透しているのか」までは分かりません。
マクレーン氏本人の発言をたどってみると、もう少し込み入った事情が見えてきました。
調べて分かったこと
なぜ契約書にAI禁止条項が急増しているのか?
マクレーン氏がGamesRadar+の取材で語ったところによると、インディーからAAクラスまで幅広い案件を手がける彼女のクライアントは、いまや「ほぼ全員」が契約に生成AI禁止の一文を求めてくるといいます。
理由の1つは著作権です。
マクレーン氏は「生成AIは著作権を付与できないし、譲渡もできない」と指摘しており、AIで作った素材には権利の裏付けがないため、他社に無断で使い回されても対抗できないリスクが残るというのです。
もう1つの理由はプレイヤーの拒否反応です。
『Palworld』の広報担当ジョン・バックリー氏は、自社が生成AIを避ける理由について「ゲーマーがそれを望んでいないから」と説明しています。
『Manor Lords』のパブリッシャーであるHooded Horseも、生成AIによるアート素材を明確に禁じる方針を取っているとのことでした。
契約書という法務文書の中身が、結局はプレイヤーの空気を映す鏡になっているとも言えそうです。
この「AIへの警戒」は、技術そのものへの誤解とも絡み合っているようです。
ある投稿では、生成AIという呼び名自体が「企業がデータを集めて学習させている」という実態を見えにくくしていると指摘されていました。
開発当初は「生成型検索エンジン」だったので、そのままの名前で販売すべきだった。
— ほげ (@100100hoge) 2026年8月14日
そしたら
「企業がデータを収集して投入してる」
という肝心な部分をみんな意識できた筈。
AIって名付けたせいで
「勝手にAIが勉強して進化してるんだー」
と誤解してる人多いのが問題。 https://t.co/j2kvM5VSI3
禁止条項と現場の実態にズレはないのか?
一方で、契約の建前と現場の実態には距離もあるようです。
GDC(Game Developers Conference)が2026年に発表した「State of the Game Industry」調査では、2,300人超の業界従事者のうち36%が実際に業務で生成AIを使っていると回答しています。
内訳を見るとスタジオ所属者では30%にとどまる一方、パブリッシャーやサポート、マーケティング部門では58%に達しており、「作る現場」より「届ける現場」でAI活用が先行している構図が浮かびます。
同調査では回答者の半数が「生成AIは業界に悪影響を与えている」とも答えており、使いながらも警戒しているという、ねじれた状態がうかがえます。
こうした温度差の存在は、Xの反応にも表れていました。
「自分の周り以外はそういう所もあるのか」と一度は疑い、結局は誇張だったと結論づける投稿もあり、AI活用の実態そのものが人によって見えている景色が違うことをうかがわせます。
割と自分の周りでは元々「生成AI使用禁止」傾向だったけど「ゲームアニメ系デザインイラスト業務は既にバリバリ生成AI使ってる!人間デザイナー廃業!」と自信満々なAIユーザーちらほらいたから
— 絵描キノ裏 (@kinoura10000) 2026年8月14日
「自分の周り以外はそういう所もあるのか?)と思ったけど、どうやらまた生成AIユーザーの嘘だったようだ https://t.co/0SR7VXgQs3
禁止一辺倒でもない例もあります。
スクウェア・エニックスが2026年に発表した賞金総額10億円の開発コンテスト「SQUARE ENIX GAME CONTEST 2026」では、生成AIの使用自体は認めつつ、使用したツールの開示と権利関係の保証を応募の必須条件としています。
「使わせない」のではなく「使うなら明かさせる」という、もう一つの落としどころも同時に存在しているわけです。
Shiritomo GAME編集部の考察:「禁止」は法務対策であると同時に、信頼のブランディングでもある
SNS上の反応を見ていると、生成AI禁止条項は単なる法務リスク対策にとどまらず、「このスタジオはAIに頼っていません」という信頼のブランディングとして機能し始めているようにも見えます。
食品表示の「無添加」表記が消費者の安心材料になったのと似た構図です。
ただしGDCの調査が示すように、開発現場よりもマーケティングや流通の現場でAI活用が先行しているのが実態です。
今後は「禁止か解禁か」の二択ではなく、スクエニのように使用を認めつつ開示を義務づけるモデルが、企業がプレイヤーの信頼を保ちながらAIと付き合う現実的な落としどころとして広がっていくかもしれません。
まとめ
生成AI禁止条項が契約の「定型文」になった背景には、著作権リスクとプレイヤーの拒否反応という2つの現実的な理由がありました。
ただし現場では3人に1人がすでにAIを使っており、禁止と活用がせめぎ合う状態がしばらく続きそうです。