300個・月10万円・リボ払い——TikTok発「スクイーズ沼」が映す衝動買いの設計図
「300個」と「月10万円超」。
この二つの数字は、集英社オンラインが報じた20代女性「にょろさん」(仮名)が、スクイーズという握り玩具に費やしてきた記録です。
給与を上回る支払いはクレジットカードのリボ払い(毎月一定額だけ返済し、残りは繰り越して利息が発生する支払い方式)に回り、貯金はゼロになりました。
きっかけは昨年末、TikTokで流れてきた1本のASMR動画(心地よい音や質感を楽しむための動画コンテンツ)だったといいます。
低反発ウレタン素材でスイーツやフルーツを模したスクイーズを握ったときの、むにゅっとした感触と音。
それだけの短い映像が、彼女の生活を静かに侵食していきました。
この告白を報じた集英社オンラインの投稿はXで瞬く間に拡散しましたが、興味深いのはその後です。
「これは特殊な一人の体験談だ」で終わらず、同じようにTikTokをきっかけにスクイーズを買い足したという投稿が、実際にXへ日常的に流れていることが見えてきました。
集英社オンラインの告白と、重なるように見つかったTikTok発の購入報告
まず一次情報として、集英社オンラインの公式アカウントが投稿した記事告知そのものを見てみます。
〈スクイーズ依存症〉「300個収集、支払いは給料超え…」TikTokで話題の“かわいい玩具”に生活を支配された20代女性の告白https://t.co/9VGQ3EZcgB
— 集英社オンライン (@shueisha_online) 2026年7月5日
「スクイーズ依存症」という強い言葉とともに、300個収集・支払いは給料超えという具体的な数字が並ぶ告知は、多くの目を引きました。
ここで気になるのは、この告白が”よくある一人の特殊事例”なのか、それとも”TikTok発の消費行動が実際に広がっている一例”なのか、という点です。
そこでXを調べてみると、TikTok Shop(TikTok内で商品を購入できるEC機能)でスクイーズを購入したことを報告する投稿が複数見つかりました。
TikTokショップでまた買い物してしまった😌😌😌
— あやさぶちゃん (@ayasacreamchan) 2026年1月22日
スクイーズとクリッカー追加購入へ
TikTokショップで初購入したスクイーズが到着📦️
— ちべ (@tibechaaan) 2025年11月10日
スクイーズ界でBubbleLandさんは新ショップみたいなんだけど梱包丁寧だし届いた商品はかわいいし最高〜🫶🏻
ひつじちゃんの質感、パン達の断面が最高なんだが😍
戻りゆっくりのもったりとした揉み心地がクセになる
新商品出たらリピしたい😚#BubbleLand pic.twitter.com/nDDo8DwkL5
いずれも「TikTok Shopでまた買ってしまった」「梱包が丁寧で届いた商品がかわいい」といった、購入体験を楽しげに報告する内容です。
単発の依存エピソードではなく、TikTok起点で実際にお金が動く消費行動が日常的に発生していることがうかがえます。
スクイーズブームの正体——「見る」より「感じる」がバズる理由
そもそもスクイーズとは何か。
低反発の柔らかな素材で、スイーツやフルーツなどをかたどった握り玩具のことです。
価格帯は100円ショップの商品から高級品まで幅広く、人気の新作は発売直後に即完売することも珍しくありません。
特に10代女子を中心に人気が広がっています。

ブームを後押ししているのがASMR動画です。
動画の中でスクイーズを握ると、むにゅっとした質感の変化と独特の音が生まれます。
この「音」と「質感」を同時に伝えられる点が、写真や文章では表現しきれない魅力になっているのです。
にょろさんの場合、この感覚的な心地よさへの反応が「毎日新作をチェックする」「限定品を逃さず買う」という行動につながり、月の購入額が給与を超える事態にまで発展しました。
現在は同じくTikTok上で、自身の依存脱却の記録を発信しているといいます。
周囲の反応は「見ていて楽しい」という声がある一方、金銭管理への懸念や依存への警鐘を鳴らす声も少なくないようです。
TikTok Shopとレコメンドアルゴリズムが後押しする「沼落ち」消費
ここからはSNSマーケティングの視点で、この現象を分解してみます。
TikTokのレコメンドアルゴリズム(利用者の興味関心に基づいて動画を自動で表示する仕組み)は、一度スクイーズ関連の動画を視聴・保存すると、似た系統の動画を次々とタイムラインに送り込みます。
ASMR動画は視聴継続率が高くなりやすいジャンルとされ、アルゴリズムに評価されやすい構造を持っています。
そこにTikTok Shopが接続されると、「見て気持ちよくなる」から「欲しくなる」「タップして買う」までの距離が一気に縮まります。
ライブコマースやワンタップ購入によって、視聴から購入までが数分で完結する設計は「ショッパーテインメント」とも呼ばれ、衝動買いを前提にしたEC体験として業界内でも注目されてきました。
買った商品を早速開封して動画に撮り、それがまた次のユーザーの視聴・購買を呼ぶという循環も生まれやすくなります。
マーケター視点で学べるのは、感触・音といった感覚訴求コンテンツは強力な購買トリガーになる一方、購入導線が短いほど「衝動買いを促す設計」と「過剰消費を招くリスク」が表裏一体になるという点です。
ASMR的な感覚訴求とEC連携を組み合わせる際は、体験の心地よさを損なわない範囲で、購入への導線設計とユーザーへの配慮のバランスを意識する必要があるでしょう。
さらに深掘りしたい方へ
- 集英社オンライン: 〈スクイーズ依存症〉「300個収集、支払いは給料超え…」TikTokで話題の”かわいい玩具”に生活を支配された20代女性の告白
- 日経クロストレンド: 「TikTok Shop」は動画コマースの起爆剤か 究極の「衝動買いEC」誕生
- テテマーチ: TikTok Shopが変える消費者行動|日本市場の新購買体験
SocialReport編集部の考察
今回の事例で見逃せないのは、依存の入り口が「広告」ではなく「ふつうの投稿」だった点です。
企業アカウントが仕掛けた施策ではなく、一般ユーザーのASMR動画がアルゴリズムに乗って拡散し、購買行動を生んでいます。
これはSNS上のオーガニック投稿がEC連携と結びつくことで、広告以上の購買喚起力を持ちうることを示す事例といえるでしょう。
SocialReportの分析視点でいえば、こうしたコンテンツはエンゲージメント(いいね・保存・コメントなどの反応)が「視聴の心地よさ」に直結しやすく、通常の情報系投稿より拡散の粘度が高い傾向があります。
ブランドがUGC(ユーザー生成コンテンツ)主導の感覚訴求を狙う場合、単に映える動画を作るだけでなく、購入後の金銭的負荷や依存リスクへの目配りをセットで設計することが、長期的な信頼獲得につながるはずです。
まとめ
「感じて気持ちいい」から「気づけば購入していた」まで、TikTokは驚くほど短い距離でユーザーを運びます。
にょろさんの告白は個人の体験談であると同時に、感覚訴求コンテンツとEC連携が生む消費構造そのものを映し出しているのではないでしょうか。
