Ledgerウォレットに盗聴回路、日本のAmazon・ヤフオクでも改造品確認
暗号資産(仮想通貨)を保管するための専用機器「ハードウェアウォレット」。
その代表格であるLedger社の製品の内部から、持ち主の知らないところで仕込まれた電子回路が見つかりました。
回路の役割は、初期設定のときにだけ画面に表示される24個の単語――資産を復元するための“命綱”――を、携帯電話回線で外部に送り届けることでした。
東南アジアの正規代理店を経由した販売分で見つかった問題ですが、同じ型番の改造品は日本のAmazonやヤフオクでも確認されています。
ハードウェアウォレットの購入や保管方法を考えている人にとっては、どこで・何を買うかが資産の安全に直結する話です。
先に結論をまとめると:
– Ledger製ハードウェアウォレットの一部に、24語の「リカバリーフレーズ」(紛失時に資産を復元するための単語列)を携帯回線経由で外部送信する不正な電子回路が仕込まれていた
– 被害は東南アジア6カ国・香港の正規代理店「CryptoBilis」経由の販売に集中しているが、同型の改造品は日本のAmazonやヤフオクでも見つかっており、欧州の量販店でも販売停止の動きが出ている
– Ledger公式サイト・正規代理店からの購入と、セットアップ時の「正規品チェック」通過が、現状確認できる最も確実な対策
何が起きたのか
発端は10月9日前後、海外の暗号資産コミュニティで広まった警告でした。
世界最大手の暗号資産取引所バイナンスの共同創業者であるCZ・チャンポン氏が、自身のアカウントで注意を呼びかけています。
⚠️ Beware if you use a Ledger hardware wallet, especially if you bought one recently.
Based on information so far, it seems to be localized to a supply chain attack with one vendor. A small number of people probably bought fake (or tampered) Ledgers.
⚠️ Beware if you use a Ledger hardware wallet, especially if you bought one recently.
— CZ 🔶 BNB (@cz_binance) 2026年10月9日
Based on information so far, it seems to be localized to a supply chain attack with one vendor. A small number of people probably bought fake (or tampered) Ledgers.
Ledger is one of the most… https://t.co/zW8wkvdZNf
(日本語訳:Ledgerのハードウェアウォレットを使っている人、特に最近購入した人は注意してください。
これまでの情報では、1つの販売業者を経由したサプライチェーン攻撃に限定されているようです。
少数の人が偽物(または改造された)Ledgerを購入した可能性があります)
この警告の通り、問題は東南アジアの正規代理店「CryptoBilis」を経由して販売された端末に集中していました。
ところが数日後、日本のテクノロジーメディアGIGAZINEが、同じ問題が国内の通販サイトにも及んでいると報じます。
仮想通貨ウォレット「Ledger Nano X」に盗聴回路、日本のAmazonやヤフオクでも改造品が見つかる
仮想通貨ウォレット「Ledger Nano X」に盗聴回路、日本のAmazonやヤフオクでも改造品が見つかる pic.twitter.com/S7KDXewGO2
— GIGAZINE(ギガジン) (@gigazine) 2026年10月13日
東南アジアだけの話では済まなくなった瞬間でした。
ただ、ここまでの情報は「どこで売られていたか」の話にとどまります。
そもそもどういう仕組みで資産が盗まれたのか、一次情報を確かめてみました。
調べて分かったこと
どうやって資産を盗む仕組みだったのか?
Ledger社のセキュリティ部門「Ledger Donjon」が確認したところによると、問題の端末には正規の部品に加えて不正な電子回路が埋め込まれていました。
この回路には通信用のeSIM(機器にあらかじめ内蔵された、差し替え不要のSIM)が組み込まれており、ユーザーが初期設定を行う際に画面へ一度だけ表示される24語のリカバリーフレーズを読み取り、LTE回線経由で外部へ送信する仕組みだったと報じられています。
リカバリーフレーズは、端末が壊れたり紛失したりした際に資産を別の端末へ復元するための“マスターキー”にあたる情報です。
これを盗み出された時点で、資産はいつでも第三者に引き出せる状態になってしまいます。
正規の製造ラインを通った部品に、販売の過程で後から回路が追加されていたという点が、今回の事態を単なる模造品騒ぎと一線を画すものにしています。
被害はどこまで広がっているのか?
Ledgerが10月13日時点で確認している範囲では、問題の端末は東南アジアの代理店CryptoBilisが扱った製品に集中しており、インドネシア・シンガポール・タイ・フィリピン・ベトナム・マレーシアの6カ国と香港の代理店に対し、販売の一時停止と店頭からの撤去が要請されました。
一方で、欧州の家電量販店チェーンでも同様の改ざんが報告され、Ledgerの製品取り扱いを一時停止する動きが出ています。
被害額については、オンチェーン分析による推定で8600万ドル規模という報道が先行し、その後9300万ドル規模まで膨らんだとする報道も出ていますが、Ledger自身はこれらの推定額を「未検証」としており、確定した被害総額は公表されていません。
日本のGIGAZINEの報道のとおり、国内の通販サイトに出回っていた個体にも改造が確認されているため、「東南アジア限定の問題」という当初の前提はすでに崩れています。
Ledger本社や代理店はどう動いているのか?
Ledger社のCEOであるパスカル・ゴーティエ氏は、自身のアカウントで調査継続を表明しています。
The CryptoBilis investigation continues. This is a complex investigation, and as CEO, I am leading it with my Executive team. We are dedicating time and resources to explore every aspect to protect Ledger users and find the malicious actors.
The CryptoBilis investigation continues. This is a complex investigation, and as CEO, I am leading it with my Executive team. We are dedicating time and resources to explore every aspect to protect @Ledger users and find the malicious actors. Ledger and I will continue to… https://t.co/fsCnSSd8ey
— Pascal Gauthier @Ledger (@_pgauthier) 2026年10月13日
(日本語訳:CryptoBilisに関する調査は継続中です。
複雑な調査であり、CEOとして経営陣とともに陣頭指揮を執っています。
Ledgerのユーザーを守り、悪意ある行為者を見つけ出すため、あらゆる側面を調べるために時間とリソースを割いています)
Ledger社は、自社の公式サイトや直販チャネルを通じた購入分については、この種の改ざんの影響を受けていないと説明しています。
問題が起きているのは、あくまで特定の代理店を経由した流通経路という位置づけです。
これを受けて、競合のハードウェアウォレットメーカーであるTrezorも、認定代理店の数を大幅に絞り込み、自社で直接管理できる販売網へ移行する方針を発表しました。
業界全体で「どこから買うか」が改めて問われる展開になっています。
買ってしまった端末が改造品かどうか、どう確認すればいいのか?
継続的に出てくる疑問として、すでに手元にある端末が安全かどうかの見分け方があります。
Ledger公式のサポート情報によると、Ledger Live(Ledger製品専用の管理アプリ)でのセットアップ時に「正規品チェック」と呼ばれる暗号学的な検証が自動で行われます。
これに通過するかどうかが、正規品であることの確認手段になるとされています。
公式は、Ledger公式サイトか正規代理店以外から購入した端末について、入手経路を確認したうえでこの検証を必ず済ませるよう呼びかけています。
なお、Ledger製品のパッケージにはそもそも改ざん防止シールの類が使われていません。
見た目のシールの有無では正規品かどうかを判断できない点も、公式が説明している通りです。
Shiritomo GADGET編集部の考察:ハードウェアの安全神話が崩れた先に
ハードウェアウォレットは、ネット接続された端末にリカバリーフレーズを一切触れさせないことで安全性を確保する、という設計思想そのものが売りの製品でした。
今回の問題が深刻なのは、その「オフライン前提」を回路レベルで裏切る形になった点です。
しかも狙われたのは製造元ではなく流通の過程で、しかも遠く離れた国の通販サイトにまで同型の改造品が流れ着いていました。
グローバルに部品が流通する以上、メーカー直販以外の経路はどこの国でも等しくリスクを抱えるということを、今回の一件は示しています。
業界としても、代理店網を絞り込む動きが今後他のメーカーにも広がっていく可能性がありそうです。
まとめ
Ledger製ハードウェアウォレットの一部に、リカバリーフレーズを外部送信する不正な回路が見つかり、東南アジアでの販売停止に加え、日本の通販サイトや欧州の量販店にも同型の改造品が確認されました。
被害額の確定した数字はまだ公表されていませんが、購入経路の確認とLedger Liveでの正規品チェックが、現状でできる最も確実な自衛策です。
さらに深掘りしたい方へ
Ledger社の正規品確認の手順や、問題の詳しい技術的背景は以下の一次情報・報道も参考にしてください。