「二次創作を漁り、一件一件詳細に感想をSNSでポストした件」――投稿主は累計100万部作家、同業からは実例が続々
「ホラー小説『原作者が一般待機列に並んで二次創作を漁り、一件一件詳細に感想をSNSでポストした件』」。
X(旧Twitter)に投稿されたこの一文に、3483件のいいねと51万5000回超のインプレッション、1108件のリツイートが集まりました。
「ホラー小説」と銘打たれてはいますが、中身はもちろん幽霊も殺人事件も出てきません。
同人・二次創作イベントに関わったことがある人なら思わずうなずいてしまう、業界の”あるある”を1行に凝縮した投稿です。
SNSで何かを発信している人、二次創作文化に触れたことがある人にとっては、拡散のされ方そのものが興味深いケースだと言えます。
先に結論をまとめると:
– 投稿者は無名の第三者ではなく、累計100万部突破のライトノベル『オルクセン王国史』の作者・樽見京一郎氏(X上では酒樽蔵之介名義)本人
– 投稿から数時間のうちに、同業とみられる複数のアカウントから似た体験を明かす引用ツイートが相次いだ
– 「原作者が自作の二次創作イベントに参加者として紛れ込む」行為自体を投稿者本人がやったと明言しているわけではなく、あくまで自虐混じりの戯画として読むのが妥当
「原作者が一般待機列に並んで二次創作を漁り、一件一件詳細に感想をSNSでポストした件」に51万インプレッション
投稿したのは、Xアカウント「@KulasanM」(表示名:酒樽蔵之介)さんです。
ホラー小説「原作者が一般待機列に並んで二次創作を漁り、一件一件詳細に感想をSNSでポストした件」
— 酒樽 蔵之介 (@KulasanM) 2026年9月25日
投稿だけを見ると、いち個人の観察による皮肉のようにも読めます。
ただ、この投稿者が何者なのかを調べると、話の受け止め方が変わってきます。
調べて分かったこと
投稿者は何者なのか
@KulasanMさんは、商業作家「樽見京一郎」名義で活動する小説家です。
代表作『オルクセン王国史~野蛮なオークの国は、如何にして平和なエルフの国を焼き払うに至ったか~』は、一二三書房から刊行されているライトノベルで、シリーズ累計発行部数は100万部を突破しています。
コミカライズ(漫画化)も進行中で、日本SF作家クラブの会員でもあります。
つまりこの投稿は、二次創作イベントに一度も足を運んだことのない部外者の想像ではなく、自分の作品が二次創作される側の当事者が書いた一文だったことになります。
投稿者本人はこの後、戦利品らしき写真を添えて自ら引用ポストを重ねています。
「ほんとにあった怖い話」 https://t.co/RFuwGwk1fD pic.twitter.com/mk8vGugSxF
— 酒樽 蔵之介 (@KulasanM) 2026年9月26日
写真には大量の同人誌やグッズが積み上げられており、パッケージの一部には自身の代表作を思わせる「オルクセン」の文字も見えます。
「ほんとにあった怖い話」というコメントとともに投稿されたこの引用は、最初の「ホラー小説」という体裁を自ら追認するような形になっていますが、これはあくまで投稿者自身の演出です。
原作者本人が一般客に紛れて二次創作を買い漁ったと明言したわけではなく、ジョークとして読むのが妥当でしょう。
ただ、この一文だけでは「ちょっと変わった作家のひとりごと」で終わっていたかもしれません。
実際にここまで伸びた理由は、次のセクションにあります。
なぜここまで実例が重なったのか
投稿への引用ツイートを見ていくと、同業とみられる複数のアカウントから、似たような体験談が次々と寄せられていることが分かります。
たとえばあるユーザーは、大手同人誌即売会での出来事として「原作者サークルの隣に二次創作面妖本サークルを配置する運営の粋な計らい」があり、現地で原作者本人が「本日はよろしくお願いします」と挨拶していた場面を紹介しています。
大手同人誌即売会で、原作者サークルの隣に二次創作面妖本サークルを配置する運営の粋な計らいで、現着早々「本日はよろしくお願いします」と、原作者が挨拶するでござるの巻。 https://t.co/PZUKrZWPpD
— 浅利与一義遠 (@hologon15) 2026年9月26日
別のユーザーは、ある原作者の発言として「自作の二次創作オンリー即売会、物理・webと複数イベントあって累計30回くらいは開催していただいてるんですけど、担当のOK貰った上で初めて開催されたものからほぼ全てに自作の二次創作ひっさげてサークル参加して皆勤賞です。
レギュレーションに原作者出禁って書いてなかったから……」という投稿を引用しました。
イベントの参加規約が「二次創作する側」を想定して作られているため、原作者本人の参加を明示的に禁じていないケースがある、という構造がうかがえます。
このほかにも、「気に入った作者を連行し、作品を出版させる」という上位互換のような噂話や、「次のイベントの際に原作者が編集を連れて作者をスカウトしていった」という後日談、「ワタシの作ったキャラクターのなれの果てを作者として見届ける義務がある」と言ったという都市伝説めいた話、「僕には僕の作品の成れの果てを見る権利がある」という声、さらには「購入したあとコミケのホワイトボードにキャラの絵描き残していった人」「堂々と買いにきてる人」「そもそも原作者がスペース取ってる」人を見てきたという証言まで、引用の中に次々と実例が積み重なっていきました。
元は1つの冗談だった投稿が、複数の独立した体験談によって裏付けられるように拡散していったのが、このバズの特徴です。
こうした反応が集まった背景には、「創作者は自分の作品への反応を、形を変えてでも確かめたいと思うものだ」という感覚が、ジャンルを問わず共有されていることがありそうです。
原作者と二次創作者という、本来は少し距離のある関係が、イベント会場では意外と地続きになっている――その空気感に、多くの人が心当たりを持ったのではないでしょうか。
Shiritomo編集部の考察:バズる自虐は肩書きが支える
この投稿がここまで伸びた要因を、拡散の構造から見てみます。
ポイントは、同じ内容でも「誰が言ったか」で伝わり方が変わるという点です。
無名アカウントが同じ一文を投稿しても、ここまでの実例つき引用は集まりにくかったと考えられます。
商業作家という肩書きが「業界の内側にいる人間の自虐」という文脈を成立させ、同業者が安心して自分の体験を重ねられる土壌を作ったと見られます。
もう一つ興味深いのは、引用ツイートの多くが「いいね」100件未満の小規模なアカウントから来ている点です。
大きなインフルエンサーが拡散したのではなく、似た経験を持つ人たちが自分の言葉で証言を積み重ねていったことで、投稿全体の説得力が増しています。
SNS運用の観点では、こうした「共感の連鎖」は狙って起こせるものではありませんが、当事者性のある発信者が半自虐的な切り口で業界の内輪ネタを投げると、同業者の実例を呼び込みやすいという傾向は、他ジャンルの発信にも応用できそうです。
まとめ
「ホラー小説」の体裁で投稿された1行は、無名の皮肉ではなく累計100万部作家本人による自虐ネタで、同業者の実例つき引用によって”あるある”として裏付けられていきました。
原作者が実際にそう行動したかどうかは分かりませんが、二次創作イベントを取り巻く関係性の面白さが、多くの人の共感を集めた投稿だったと言えそうです。