「本当にのりふみだと思われてる…?」——紀文公式Xのスーパー目撃投稿が1万いいね、企業SNSの「ゆるさ」の正体を深掘りしました
スーパーのお菓子コーナーで、こんな親子の会話が聞こえてきたとしたら——。
「のりふみの肉まん、持ってきていいよ」
ごく普通の日常の一コマです。
でも、もし自分がその「のりふみ」の正体、つまり企業公式アカウントの担当者だったら、どうするでしょうか。
黙って通り過ぎる? それとも……思わずXに投稿する?
2026年6月26日、紀文食品の公式X(旧Twitter)アカウント「@kibun_kitchen」がこんな投稿をしました。
「スーパーで母親が息子に『のりふみの肉まん持ってきていいよ』と言うのを耳にしてしまいました。
本当にのりふみだと信じていらっしゃる…?」

この一投稿があっという間に1万いいねを超え、Xのタイムラインに笑いの連鎖が広がりました。
企業公式アカウントとして、これほど自然発生的に話題が広がる背景には何があるのか。
調べてみると、数年かけて積み上げてきた「ブランドとしてのゆるさ」の戦略が見えてきました。
「のりふみ」は紀文公式の第二の社名になっていた
まず、今回の投稿を読んで「のりふみ?」と疑問に思った方のために説明します。
「紀文(きぶん)」という社名が「のりふみ」と読まれるようになったきっかけは数年前のXでの出来事でした。
あるユーザーがお弁当のちくわに書かれた「紀文」の文字を見て「紀文って誰笑」と投稿したことが発端で、紀文公式が「すみません私です」と返答。
この絶妙なツッコミが大ウケし、多数の企業や一般ユーザーを巻き込んだ「のりふみフェスティバル」というムーブメントに発展してTwitter(現X)のトレンド入りを果たしました。
以来、@kibun_kitchenのファン名称は「#のりふ民(のりふみん)」となり、公式自身も「きぶんだよ!!!!!!」と何度もツッコミながら、この誤読文化をブランドキャラクターの一部として取り込み続けています。
今回の投稿はそのシリーズの最新版とも言えますが、注目すべきはフィクションではなく実際のスーパーで目撃した出来事から生まれた点です。
商品を買ってもらっているのに、社名を正しく認識されていないというリアルな実体験。
その率直な「ツッコミ」が共感を生みました。
【朗報】昨夜とあるスーパー様にて、弊社の肉まんを購入しているご家族を見かけた
— 紀文【公式】🍢 🍥 (@kibun_kitchen) 2026年6月26日
【悲報】お母様が息子さんに「のりふみの肉まん持ってきていいよ〜」と言ってた
あの、皆さま、もしかして本当に
のりふみだと信じていらっしゃる…?
続く投稿では「きぶんだよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」とお約束の全力ツッコミを連投。
ファンからは「これがのりふみさんです」「やっぱりのりふみじゃん」「きぶんさんが頑張って広めても無理」といったリプライが集まり、笑いながらも愛着の深さが伝わる反応が続きました。
37万フォロワーを集めた「ゆるいのに計算されている」運用術
なぜ@kibun_kitchenはこれほど人を引きつけるのでしょうか。
現在のフォロワー数は37万人超。
2017年に開設されたこのアカウントは、営業企画部のわずか2名体制で、1日約3投稿のペースを維持してきました。
特別な広告予算をつぎ込んだわけでも、インフルエンサーを起用したわけでもありません。
「ユーザーとの日常的な会話」がこのアカウントの核心です。

過去の大きなバズとして知られるのが、ごま油のかどや製油とのコラボ商品の告知投稿。
内容のユニークさが話題を呼び、52万いいね・8万リポスト・2,700万インプレッションという驚異的な数字を叩き出しました。
SNSマーケティング(SNSを活用してブランド認知や購買促進を図る手法)の成功事例として、業界メディアでも取り上げられています。
それでも@kibun_kitchenの投稿は「商品を売ろうとしていない」雰囲気があります。
日常の小ネタがメインコンテンツです。
自称イケメン先輩、流行りだからって
— 紀文【公式】🍢 🍥 (@kibun_kitchen) 2026年6月26日
ちくわをくるくる巻いてました。
「紀文」を表にするこだわりよう・・・ pic.twitter.com/8XgAYWztYO
「自称イケメン先輩がちくわをくるくる巻いて『紀文』のロゴを表にするこだわりを披露した話」など、商品を自然に登場させながら笑いに変えていくのが@kibun_kitchenのスタイルです。
最終的には商品購買や認知拡大につなげることが目的ですが、その手前に「まず一緒に笑う」という関係性の構築があります。
これは「エンゲージメント(いいねやコメント・シェアなど、投稿への反応の総称)ファースト」と呼ばれる戦略に近いものです。
売り込まず、まず共感を得る。
そうして育てたフォロワーが自発的に拡散する構造を作るのです。
「笑われる隙」を許容する文化がバズを生む
企業の公式アカウントが「ゆるい」投稿をすると、「炎上しないのか」「社内承認が通るのか」という疑問が出てきます。
紀文食品は公式SNS運用方針を公開しており、「業務・取組み・商品等を発信することを通じ、顧客に紀文食品への理解を深めていただく」ことを目的として明記しています。
この方針の中に「のりふみネタを使い続ける」とは書かれていませんが、ゆるい語り口を維持しながら一貫してブランドへの親しみを育てる方向性は、開設当初からぶれていません。
「商品の機能や成分を正確に伝える投稿」と「スーパーでのりふみと言われた話を投稿する」のどちらがフォロワーに記憶されるか——その問いへの答えを、@kibun_kitchenは数年かけて出し続けています。
誤読されるという「弱点」を、ブランドの個性に変えてしまう発想の転換。
これが30万フォロワー以上の増加につながっています。
SocialReport編集部の考察
今回の「のりふみ肉まん」投稿が面白いのは、完全に計画外のリアル体験から生まれた点です。
多くの企業SNSは「いつ何を投稿するか」をカレンダーで管理しますが、この投稿はそのフォーマットを外れています。
SNS運用担当者として参考になるのは、「偶発的な場面をコンテンツに変える感度」です。
ブランドに関係するリアルの出来事を見つけたとき、それを即座にキャラクターの文脈で発信できる柔軟さ——これは訓練と「自由に投稿できる場の許可」がないとできません。
SocialReportでSNSデータを分析していると、エンゲージメント率(投稿へのいいね・コメント・シェアの合計 ÷ インプレッション数)が高いアカウントに共通するのは「フォロワーとの温度感の一致」です。
@kibun_kitchenが積み上げてきたのは投稿数ではなく、のりふ民との「共通の笑いのコード」です。
企業SNS担当者がこの事例から学べる最大のポイントは、「ブランドの誤解や笑われ方をネタにする文化を育てる」という逆張りの発想。
ブランドを守ろうとすると投稿が固くなりますが、あえてゆるめると逆に親しみが増し、長期的には認知拡大や購買につながります。
Xのアルゴリズム(投稿の表示順や拡散を決める仕組み)が、一方的な告知より「会話の往復」を重視する傾向を強めている今、@kibun_kitchenのような運用スタイルは改めて注目に値します。
「企業アカウントらしく振る舞う」ことへの圧力を手放したとき、はじめて見えてくるSNSの可能性があります。
さらに深掘りしたい方へ
まとめ
「のりふみ」と呼ばれ続けて数年、@kibun_kitchenが育ててきたのは誤読されるブランド名への怒りではなく、ファンと共有できる笑いのコードです。
今回の1万いいね超えも、その長年の積み上げがあってこそ。
企業SNS担当者がいま最も学ぶべきは、技術でもツールでもなく「笑われる隙を作る勇気」かもしれません。

