「涙腺短歌」コンテストがXを揺らしている——クリネックスのSNSキャンペーンから学ぶUGC設計の妙
「母さんは私に優しくないくせに勝手口からとかげを逃がす」——Xのタイムラインにそんな一行が流れてきて、思わず何度も読み返してしまいました。
これはクリネックスの「涙腺短歌コンテスト」への投稿です。
企業キャンペーンで、こんなに個人の感情が剥き出しになる短歌が集まるのかと驚きました。
SNSマーケティングに携わっている方なら、このキャンペーンの設計に注目する価値があります。
キャンペーンの概要——31文字で心を掴む仕組み
日本製紙クレシアが2026年5月11日に開始した「クリネックス涙腺短歌」は、X上で展開されるUGC(ユーザー生成コンテンツ)キャンペーンです。
参加方法はシンプルです。
公式アカウント @CRECIA_JP をフォローし、「#クリネックス涙腺短歌」のハッシュタグをつけて短歌を投稿するだけ。
最優秀賞は賞金30万円、優秀賞5万円(5名)、審査員には歌人の木下龍也さんとタレントのヒコロヒーさんを起用しています。
応募期間は6月30日まで。
公式サイトでは「涙腺短歌メーカー」も提供しており、作った短歌を縦書き画像に変換してそのまま投稿できます。
Z世代に刺さる「短歌ブーム」との連動
このキャンペーンが注目を集めている理由のひとつに、2025〜2026年に加速した「短歌ブーム」があります。
SNS上で短い言葉で感情を表現する文化がZ世代を中心に広がっており、俵万智さんや木下龍也さんの影響で、若い世代が短歌を「自己表現のツール」として捉えるようになっています。

既存の俳句・短歌コンテストは文学畑のシニア層が多い一方、X上のハッシュタグ短歌は20代・30代が主力。
クリネックスはこの層にリーチするため、審査員の選定から投稿プラットフォームの指定まで、Z世代の感度に合わせた設計をしています。
「#クリネックス涙腺短歌」で検索すると、個人の経験が凝縮された投稿が続々と集まっています。
家族の思い出、別れの記憶、日常の小さな違和感——「涙腺」というテーマが感情の解放を許可しているようです。
SNS担当者が参考にすべきキャンペーン設計のポイント
このキャンペーンの巧みさは、三点に整理できます。
1. 参入ハードルの設計
短歌は31文字。
長い文章を書く必要がなく、多くの人が「自分にもできそう」と感じやすい。
短さが参加のハードルを下げ、かつその制約が表現の深みを生みます。
2. 感情テーマとブランドの一致
「涙腺」とクリネックスは直結しています。
感情と商品機能の紐付けが自然で、押しつけがましさがありません。
これはブランドが「感情的な体験の場」を提供している好例です。

3. オフィシャル化による投稿の広がり
審査員に実績のある歌人を起用し、「本格的なコンテスト」としての権威づけを行っています。
投稿者は「評価してもらえる場」として受け止め、より真剣な作品を出します。
UGCキャンペーンの設計では「誰が参加するか」より「どんな感情を解放するか」を先に設計すると、コンテンツの質が上がります。
ブランドのSNSキャンペーンで「ユーザーに何かを作らせる」施策は多いですが、クリエイティブの自由度と感情的なテーマ設定のバランスがここまで整っている例は多くありません。
過去の類似キャンペーンとの比較
企業が主催するSNS創作コンテストとしては、ロフトのイラストコンテストや各出版社のショートショート企画などが知られています。
クリネックスのアプローチが際立っているのは、「泣ける」という感情を起点に据え、商品(ティッシュ)との文脈的なつながりが非常に自然な点です。
他のコンテストが「賞を取ること」を動機にしているのに対し、このキャンペーンは「感情を吐き出す場所」として機能しており、受賞を狙わない参加者も巻き込んでいます。
Xのアルゴリズムが「会話型のエンゲージメント」を優遇する現在、ハッシュタグ短歌のような形式は引用ポストやコメントを自然に生み出します。
「この一首、刺さる」「自分もこういう気持ちがある」という連鎖がタイムラインを温かくし、ブランドのポジティブな印象形成につながっています。
さらに深掘りしたい方へ
まとめ
クリネックスの「涙腺短歌」キャンペーンは、Z世代の短歌ブームを巧みに取り込み、ブランドのアイデンティティと感情的なUGCを結びつけた好例です。
SNS運用の現場で「ユーザーに何かを作ってもらう」施策を考える際、このキャンペーンの設計思想は参考になるはずです。