Instagramを9時間見続けた高校生がスマホを封印した理由——Z世代に広がる「アテンション・デトックス」とは
1日の起きている時間のほぼすべてを、インスタグラムを見て過ごす。
そんな高校生が、スマホをロックケースに封印して鍵をかけた——。
少し前までは「SNS中毒」という言葉で片づけられていた現象が、いま全く別の角度から語られるようになっています。
「アテンション・デトックス」という言葉を最近見聞きした方はいますか? SNSマーケティングに携わる方にとって、これは無視できないZ世代の大きな変化のシグナルかもしれません。
「可愛い子が流れてくるたびに、比べて病む」——SNS疲れの実態
SHIBUYA109 lab.が2026年2月に15〜24歳の男女574名を対象に行った調査によると、62.2%が「スマホ疲れを感じている」と回答しています。
そして、そのうち79.3%が「一番の要因はSNS」と判断しているというデータが出ました。
疲れの中身はどんなものなのか。
同調査では具体的な要因が明らかになっています。
- 「気づいたらSNSで時間が消えている」:43.1%
- 「寝る前にだらだら見て寝不足になる」:36.4%
- 「新しい情報が次々更新される」:26.3%
インスタを1日9時間52分使っていた高校生は「可愛い子がめっちゃ流れてくる。
結構『比べて病む』」と語り、高3女子は「自分が充実していない時にJKライフを楽しんでいる子を見たら『萎える』」と話します。
また「人の目を気にして好きなものをあげれなくなってきたのは、ちょっと苦しい」という声もありました。
承認欲求のために始めたSNSが、いつの間にか承認欲求に苦しむ場所になっている。
そんな逆説が、Z世代の間に静かに広がっています。

「スマホを見ないアプリ」に課金するZ世代
こうした疲れへの反応として広がっているのが「アテンション・デトックス」です。
SHIBUYA109 lab.の長田麻衣所長は、これを「SNSの喧騒から一時的に完全に離れ、他人からのアテンションを回避してリフレッシュする行動」と定義しています。
具体的にZ世代はどんなことをしているのか。
調査では、70%以上が「スマホから離れるためにやっていることがある」と答えており、その内訳は散歩(20.2%)、読書(20.2%)、映画館に行く(16.4%)といったリアルな体験が中心です。
なかでも注目を集めているのが、物理的なスマホ封印グッズやアプリです。
「スマホをやめれば魚が育つ」というアプリは、スマホを操作しない時間に応じて画面の中の魚や植物が育っていく仕組みで、Z世代が課金して使い始めています。
また、1分〜99時間まで設定できるスマホロッキングケース(ソニック製:4,950円)を活用して、物理的にスマホを取り出せなくする若者も増えています。
SNS疲れを感じるZ世代の間で、音だけのラジオが新鮮なリラックス手段として注目されているという声も上がっています。
おはラジオ〜☺️
— interfmTOKYO+【公式】 (@interfmplus) 2026年6月10日
SNS疲れを感じるα・Z世代。
「音」だけのラジオなら、画面を見ずにリラックスして楽しめる。
そんな「癒やしの時間」を提供しているのが御社だとしたら?
好感度は爆上がりですね✨️✨️
私たちと一緒に番組作りませんか?#企業公式が朝の挨拶を言い合う#企業公式相互フォロー pic.twitter.com/saI8eaDKd2
「画面を見なくていい」という点が、スマホ疲れの時代にとって魅力的に映るようです。
SNSがきっかけで映画館に足を運ぶZ世代も増えています。
SNSのおかげで、Z世代の間で「映画館ブーム」が起きてるらしい
— ギズモード・ジャパン(公式) (@gizmodojapan) 2026年5月15日
発見されてバズった作品や口コミを見て映画館に行く——その後はスマホを鞄にしまって2時間、画面のない時間を過ごす。
これも「アテンション・デトックス」の一形態と言えるかもしれません。
「デジタルデトックス」とは何が違うのか
「デジタルデトックス」という言葉も以前からありましたが、「アテンション・デトックス」はニュアンスが少し異なります。
デジタルデトックスが「スマホそのものをやめる」行動に近いのに対し、アテンション・デトックスは「注目を一時的に手放す」という点が本質です。
SHIBUYA109 lab.はアテンションを3種類に分類しています。
- 自分に対するアテンション(投稿への反応・いいね数)— 最も疲労感が大きい
- 人に対するアテンション(SNS上のコミュニケーション義務)
- 情報に対するアテンション(ニュースや炎上の監視)
Z世代が疲れているのは「スマホ」ではなく、「不特定多数から見られ・評価され・比較され続けること」そのものなのです。
SNSで1日10時間以上使っていたZ世代が「スマホを見ないアプリ」を課金してでも使い始めた背景には、アテンション経済の疲弊が見え隠れしています。
SNSで1日10時間使っていたZ世代が、「スマホを見ないアプリ」を課金して使い始めた。
— SIGNAL|決算分析×スタートアップの罠 (@truth_ai_jp) 2026年6月11日
これを「若者がSNS疲れ」で終わる人と、「アテンション経済の構造崩壊が始まった」と読む人で、5年後の事業ポジションが全然違う。
これまでのSNSビジネスの前提はシンプルだった。… https://t.co/trXziZYWII pic.twitter.com/xYIXfcPxQA
さらに深掘りしたい方へ
- Z世代のアテンション・デトックスに関する調査(SHIBUYA109 lab.)
- Z世代間で広がるアテンション・デトックス 企業に求められるのはオフラインでの体験(FashionSnap)
- Z世代は「スマホを置いて旅に出る」SNSのアテンション疲れ解消(日本経済新聞)
SocialReport編集部の考察
このトレンドをSNSマーケターの目線で見ると、「若者がSNSを離れている」という事実だけをとらえてパニックになるのは早計です。
重要なのは、Z世代が何から離れようとしているのかです。
答えは「不特定多数からの評価と監視」。
裏を返せば、彼らが求めているのは「信頼できる小さなコミュニティ」と「安心できる場所」です。
SHIBUYA109 lab.の調査でも、Z世代は主投稿先としてインスタグラムのストーリーズやBeRealなど、クローズドでエフェメラル(消える)なSNSを好む傾向が明らかになっています。
SocialReportのデータ分析で見ると、エンゲージメント率(いいね・コメント・シェア数の合計 ÷ リーチ数)が高い投稿は、必ずしもバズっているものではなく、「コアなフォロワー層に刺さっている」コンテンツであるケースが多いです。
Z世代のアテンション・デトックスが進む時代に、ブランドが目指すべきは「広く拡散されること」より「深く信頼されること」ではないでしょうか。
具体的な示唆として、企業は次のことを検討してみてください。
- インスタグラムのクローズドな場(ストーリーズ限定コンテンツ・親しい友達機能)でファンとの関係を深める
- BeRealのような「飾らない瞬間」を見せるコンテンツ戦略への転換
- オフライン体験(ポップアップ・イベント・映画館コラボ)とSNSを組み合わせた設計
疲れているのはSNS全体ではなく「アテンション過多な空間」です。
そこに気づいたブランドが、次のZ世代マーケティングで一歩先を行けるでしょう。
まとめ
「アテンション・デトックス」は単なる若者の気まぐれではなく、アテンション経済の構造的な揺り戻しです。
スマホを封印しながらも、信頼できる小さな場でのつながりは続けるZ世代の行動は、SNSマーケティングに新しい問いを投げかけています。
