「僕は23で『メタルギア』を作ったんですけど…」──『バックルームズ』が63歳の小島秀夫を悔しがらせた理由
「僕は23で『メタルギア』を作ったんですけど……」。
9月4日、TOHOシネマズ六本木ヒルズの舞台上で、63歳のゲームクリエイター・小島秀夫氏がそうこぼしました。
相手は21歳。
目の前にいたのは、A24の新作ホラー映画『バックルームズ』で長編監督デビューを飾ったケイン・パーソンズ監督です。
この記事は、なぜ21歳の新人にA24ほどの制作会社が看板作品を任せたのか、そして「バックルームズ」という言葉がそもそも何を指しているのかを、公開情報とXでの反応をもとに調べたものです。
都市伝説の成り立ちを知っておくと、劇場に足を運ぶ前の予備知識としても役立ちます。
先に結論をまとめると:
– 『バックルームズ』は9月4日から全国の劇場で公開中。
全米初週末8100万ドル(約129億円)、世界44カ国で初登場1位という、A24史上最大級のヒットになっています
– 監督のケイン・パーソンズ氏は、16歳だった2022年に投稿したYouTube短編がきっかけで映画化が動き出し、21歳で長編デビューを果たしました
– 都市伝説「The Backrooms」の元になった1枚の写真は2019年にネット掲示板へ投稿され、出どころ不明のまま拡散。
実在の場所だと判明したのは2024年になってからです
いいね8000件超えのひと言が伝えた『バックルームズ』の正体
公開初日、Xで最も反応を集めたのはニュース速報でも公式コメントでもなく、「『バックルームズ』こういう映画でした」という、たった一言の投稿でした。
動画付きで投稿されたこのポストは8000件を超えるいいねを集め、リポストも600件を超えています。
『バックルームズ』こういう映画でした pic.twitter.com/KmdudC6SqE
— 多幸定理 (@NEMUI58115) 2026年9月5日
言葉自体は多くを説明していません。
それでも多くの人が「わかる」と反応した背景には、この映画が扱っているテーマそのものがあります。
黄色い壁紙に蛍光灯、終わりのない廊下——現実からわずかにズレた無人の空間という設定は、説明されなくても「見たことがある気がする」感覚を呼び起こすようです。
ただ、この一言だけでは、なぜここまで多くの人の共感を集めたのかまではわかりません。
そこで作品の背景を調べてみました。
調べて分かったこと
なぜ21歳の新人にA24は看板作品を託したのか
パーソンズ監督のキャリアは、ごく普通の高校生の投稿から始まっています。
2022年、当時16歳だった同氏がYouTubeに投稿した短編「The Backrooms (Found Footage)」は8800万回超再生される反響を呼び、公開から1カ月ほどで長編映画化の企画が動き出しました。
17歳で企画がスタートし、19歳で撮影、そして21歳で完成させたのが今回の長編デビュー作です。
制作費は約1000万ドルとされる低予算作品でしたが、蓋を開けてみれば全米初週末だけで8100万ドル、世界興収は初週末で1億1800万ドルに達し、世界44カ国で初登場1位を記録しました。
これはA24が過去に持っていた自己最高記録(2024年公開『シビル・ウォー』の2550万ドル)を3倍以上塗り替える数字です。
同時にパーソンズ氏は、全米ナンバーワン作品を手がけた史上最年少の監督にもなりました。
X上でも、この完成度の高さに驚く投稿が目立ちます。
「バックルームズ」がここまでバズってる理由、恐怖よりも狂気だと思う。
— 竹島ルイ/ポップカルチャー系ライター (@POPMASTER) 2026年9月5日
調べたらこのセット、監督がBlenderで全部を先に3Dモデリングして、目を閉じても歩き回れるくらい頭に叩き込んでから現場入りしたらしい。… pic.twitter.com/p4cQEN4khs
このポストが指摘しているとおり、パーソンズ監督はセットに入る前に、空間全体をBlender(3Dモデリングソフト)で作り込み、目を閉じても歩き回れるほど頭に叩き込んでから撮影に臨んだといいます。
低予算でも空間の説得力を出すための準備が、結果としてスクリーン映えするビジュアルにつながったと見ることができそうです。
そもそも「The Backrooms」とは何なのか
映画の元になった都市伝説「The Backrooms」は、もともと2019年に匿名掲示板へ投稿された1枚の写真から始まりました。
黄色いモアレ模様の壁紙と蛍光灯だけが並ぶ、誰もいない部屋の写真です。
投稿者すら誰なのかわからないまま、この写真は「見る人を不安にさせる画像」としてネット上で語り継がれ、やがて「うっかり迷い込んでしまう異空間」という設定が後付けで膨らんでいきました。
その出どころが実在の場所だったと判明したのは、写真の拡散から5年近くが経った2024年のことです。
海外の掲示板ユーザーたちが古い写真データを手がかりに特定作業を続け、アメリカ・ウィスコンシン州にあった元家具店(後にホビーショップに転用)の内装だったことを突き止めました。
都市伝説の「正体」がわかってなお、写真そのものが持つ不気味さは色あせていないようです。
Xでもこの経緯を解説する投稿が多くの反応を集めています。
そもそも「バックルームズ」ってなに?って人もいるだろうけど、これはある一枚の画像から始まった架空の都市伝説よ
— ゆとぴ|映画をナッツに語る人 (@Ginema_nuts) 2026年9月5日
しかもこの写真は長らく出自不明だったけど、ネット民の根性の捜索で場所が特定されたのもすごい。でもさ、 pic.twitter.com/ZlUOmo8p52
舞台挨拶で交わされたのは称賛だけではなかった
来日記念舞台挨拶に登壇したのは、パーソンズ監督と小島秀夫氏の2人です。
小島氏は「彼はいま21歳、僕は63歳」と年齢差に触れたうえで、「僕は23歳で『メタルギア』を作って、A24から連絡があったのはたしか59歳くらい」と自身のキャリアと比較。
「空間の設計や音の入れ方が面白いし、ストーリーテリングにもよさがある。
嫉妬を覚えるくらい」と、若い才能への率直な感想を述べました。
小島氏自身も舞台挨拶の様子をXに投稿しています。
映画『バックルームズ』の来日舞台挨拶、ケイン・パーソンズ監督、宇内梨沙さん、ありがとうございました🙏🙇🏻😍🫶
— 小島秀夫 (@Kojima_Hideo) 2026年9月4日
ケイン・パーソンズ監督、宇内梨沙さん、やんぴ、Emma Iggoさんと。
みなさん、映画はいかがでしたか? pic.twitter.com/Y5u6yU8TLA
一方的な称賛ではなく、63歳の第一人者が21歳の新人に対して悔しさをにじませるという構図こそが、このニュースがX上で単なる興行成績の報告以上に読まれた理由なのかもしれません。
Shiritomo編集部の考察
この記事で興味深いのは、拡散の起点が「公式発表」でも「有名人の絶賛コメント」でもなく、「こういう映画でした」という8000いいね超えの一言だったことです。
情報量がほぼゼロの投稿が最も伸びたという事実は、映画のジャンル自体(ジャンプスケアの少ない、じわじわ来る空間ホラー)が言葉で説明しにくい体験だったことの裏返しとも読めます。
説明を尽くすより「わかる人にはわかる」余白を残した投稿のほうが、未見の観客の好奇心を刺激しやすかったと考えられるでしょう。
加えて、都市伝説が2019年の匿名画像→2024年の出所特定→2026年の映画化という6〜7年がかりの熟成期間を経てヒットに至った点も見逃せません。
ネットミームは一過性で消費されがちですが、時間をかけて「正体不明」の謎を保ち続けたことが、結果的に長編映画という大型コンテンツに耐えるだけの厚みを持たせた事例だといえそうです。
まとめ
『バックルームズ』は、16歳の高校生が投稿した1本の動画から始まり、21歳での長編デビューでA24の記録を塗り替えるヒット作になりました。
都市伝説の元ネタも作品の完成度も、調べるほど「偶然の産物ではなかった」ことが見えてきます。
さらに深掘りしたい方へ
「そもそもThe Backroomsとは何か」を知りたい方は、由来となった都市伝説の解説記事もあわせてご覧ください。