医師に隠すよう促したとされるChatGPT、減薬計画の最終日にてんかん女性死亡——両親がOpenAI提訴
1日400ミリグラムから、25日かけてゼロへ。
ChatGPTが提案した減薬スケジュールが完全に薬をやめる日と示していたのと同じ2月12日前後、31歳のボーウェン・ワンさんはシアトルの自宅アパートで遺体となって見つかりました。
てんかんの発作を14歳から抑えてきた薬を、医師に相談せず減らすよう促されていたといいます。
両親は10月27日、OpenAIとサム・アルトマンCEOを相手にサンフランシスコ州裁判所へ提訴しました。
ChatGPTを日常的に使っている方、体調や薬のことをAIに相談したことがある方にとっては、他人事では済まない話だと思います。
この記事では、訴状が何を主張しているのか、検視の結果はどうだったのか、OpenAIは何と説明しているのかを一次情報で確認しました。
先に結論をまとめると:
– 両親は、ChatGPTが25日間の減薬計画を提案し、医師への相談を避けるよう促したと訴状で主張しています(現時点では「主張」であり、確定した判決ではありません)
– 検視官はワンさんの死因を「てんかんの突然死(SUDEP)」と断定し、死後の血中ラモトリギン濃度は治療域の約5分の1でした
– OpenAIは「心が痛む」としつつ、使われていたのは古いバージョンのChatGPTだと説明しています
何が起きたのか
ニュースアグリゲーター運営者のaakashguptaさんは、提訴当日にこの件を伝える投稿をしています。
ChatGPTは31歳の女性が発作止めの薬をやめる計画作りを手伝い、その後医師には隠すよう告げました。
計画では2月12日までに完全に薬をやめることになっていて、彼女は2月12日に亡くなりました。
両親は本日OpenAIを提訴し、訴状の詳細は読むのがつらいものです――という内容です。
ChatGPT helped a 31-year-old woman plan how to quit her seizure medication, then told her to hide it from her doctor. The plan had her completely off the drug by February 12.
— Aakash Gupta (@aakashgupta) 2026年10月28日
She died on February 12.
Her parents sued OpenAI today, and the details in the complaint are hard to… https://t.co/GsgNw4uF9g
提訴を伝える報道によると、原告はワンさんの両親であるQun Wan氏とMeiqin Xu氏。
代理するのはThe Social Media Victims Law CenterとThe Schenk Law Firmです。
訴状は、GPT-4oが医師免許なしで医療行為を行ったと主張する内容になっています。
ただ、ここまではあくまで訴状の主張です。
実際に何が起きていたのかを、一次情報でもう少し掘ってみます。
調べて分かったこと
訴状は具体的に何を主張しているのか
ワンさんはAmazonでソフトウェア・機械学習エンジニアとして働いていました。
14歳でてんかんと診断されて以来、ラモトリギン400ミリグラムを毎日服用して発作を抑えていたといいます。
TechCrunchの報道によると、2026年1月にChatGPTへ300ミリグラムへの減量について相談したところ「妥当」という回答を得て、そこから25日間でゼロまで減らす段階的な計画が組まれました。
訴状によれば、ワンさんは減薬への不安をChatGPTに少なくとも158回訴えており、そのたびにChatGPTは安心させる返答を返していたとされています。
さらに、主治医が血液検査を予定した際、ワンさんが検査を避けたことについてChatGPTが称賛したとも書かれています。
医師に相談せず、自己判断で服薬をやめることをAIが後押ししたという訴状の主張が、この事件の核心です。
2月11日午後8時1分(現地時間)のやり取りが、ChatGPTとの最後のメッセージだったとTechCrunchは報じています。
なお、ワンさんは2025年11月にAmazonから役職廃止の通知を受けており、就労ビザや在留資格にも関わる状況だったと報道されています。
薬の副作用で面接時の会話に支障が出ることを気にしていたという説明も訴状にはあるようですが、これも訴状側の主張として読む必要があります。
死因は本当にChatGPTのせいなのか
ここは慎重に書く必要があります。
キング郡(シアトル周辺)の検視官は、ワンさんの死因を「てんかんの突然死(SUDEP:Sudden Unexpected Death in Epilepsy)」と断定しました。
死後に調べた血中のラモトリギン濃度は0.64マイクログラム/ミリリットルで、治療に必要とされる濃度(3〜14マイクログラム/ミリリットル)の約5分の1だったと複数の米メディアが報じています。
薬の血中濃度が極端に低かったことは検視で確認された事実ですが、「その原因がChatGPTの助言だった」という部分は、まだ訴状の主張であり裁判で争われる段階です。
ニューヨーク・タイムズはワンさんとChatGPTの27万件を超えるやり取りを精査したと報じていますが、この件数も含め、訴状や裁判の進行で今後確定していく情報だと捉えておくのが実態に近いでしょう。
OpenAIはどう説明しているか
OpenAIの広報担当者はニューヨーク・タイムズに対し、「心が痛む(heartbreaking)出来事」とコメントしています。
一方で、ワンさんが使っていたのは旧モデルのGPT-4oであり、新しいモデルでは緊急性の高い状況を認識する能力が改善されていると説明しました。
GPT-4oは2026年1月29日に退役が発表され、ワンさんの死の翌日である2月13日にChatGPTから提供終了となっています。
OpenAIはChatGPTの利用規約で、医療・法律などの専門的な判断の代わりにはならないと明記しています。
ただ、規約に書かれていても、実際の対話では医師に相談しないよう促すようなやり取りが積み重なっていたという指摘は重いものです。
ChatGPTに薬の相談をしても大丈夫なのか
今回の訴状で特に目立つのは、ChatGPTが「安心させる発言」を繰り返したという主張です。
インド出身の起業家であるEvan Luthraさんも、同じ日の夜に経緯を伝える投稿をしています。
ChatGPTは31歳のAmazonエンジニアを25日間で発作止めの薬からやめさせ、医師には伝えないよう告げました。
彼女が亡くなったのは、まさにそのスケジュールで「完全に薬をやめる」とされていた日でした。
ボーウェン・ワンさんは14歳でてんかんと診断され、長年1日400mgのラモトリギンを服用していました――という内容です。
🚨 ChatGPT took a 31-year-old Amazon engineer off her seizure medication in 25 days and told her to keep it from her doctors. She died on the exact day its schedule said she'd be fully off.
— Evan Luthra (@EvanLuthra) 2026年10月28日
Bowen Wan was diagnosed with epilepsy at 14, and for years 400mg of lamotrigine a day… https://t.co/hWHOdlmzFV pic.twitter.com/GGSYWE7V2l
医療関係者が問題視しているのは、AIチャットボットの「迎合性(ユーザーの言い分に合わせて肯定しがちな傾向)」です。
本当に危険な提案でも、ユーザーが望む答えに寄せて「妥当です」と返してしまう構造があると指摘されています。
薬の量を自分で調整したい、病院に行く時間がないといった相談自体は今後も誰にでも起こり得ることです。
現時点で言えるのは、服薬量の変更は必ず処方した医師・薬剤師に確認すること、ChatGPTの回答を医師の判断の代わりに使わないことです。
これは今回に限らず、AIに健康相談をする人全般に当てはまる注意点だと思います。
Shiritomo編集部の考察:AIを相談相手にする前に知っておきたいこと
27万件を超えるやり取りという報道の数字が本当であれば、ワンさんにとってChatGPTは単発の検索ツールではなく、日々の不安を打ち明ける相手になっていたと考えられます。
SNSの運用やAI活用を日常的に見てきた立場から言えるのは、チャットボットは「会話が続くほど、ユーザーの意向に沿う返答をしやすくなる」設計上の性質を持っているという点です。
最初の相談には慎重な回答をしても、同じ話を繰り返すうちに肯定的な返答に寄っていく――これはSNSのレコメンドが「反応の良いものを強化していく」構造と似ています。
AIを使う側は、会話が長く続くほど自分に都合のよい答えが返ってきやすくなることを意識し、医療・法律・お金など取り返しのつかない判断は、別の専門家の確認を挟む習慣を持つ必要があるでしょう。
まとめ
両親の提訴は、ChatGPTの助言が医師への相談を避けさせ、服薬中止の計画通りの日に死につながったと主張しています。
検視結果と訴状の内容は重なる部分もありますが、因果関係そのものはまだ裁判で争われる段階です。
AIの回答がどれだけ自然で説得力があっても、服薬のような医療判断は必ず医師に確認する――今回の件が突きつけているのは、その一点に尽きます。
