いらすとやが最近見かけなくなった理由——生成AIが変えた「ちょうどいいイラスト」の世界
学校のプリント、会社のプレゼン資料、ブログの挿し絵——あの丸くてゆるい手描きキャラクターを、最近どこかで見かけましたか?
2011年ごろから日本中のあらゆる場所に広まった「いらすとや」が、Xで「本当に見かけなくなってしまった」と話題になりました。
「生成AIの影響を一番受けたと言っても過言ではない」「みんな絵なんて何でもいいんだな…」という反応がひろがり、AI時代における手描きイラストの立ち位置を問い直す議論に発展したのです。
気になって深掘りしてみたら、思った以上にいくつもの変化が重なっていることがわかりました。
いらすとやが「日本の共通言語」になった理由
「いらすとや」はイラストレーターのみふねたかし氏が運営するフリー素材サイトです。
2012年からほぼ毎日新作を更新し続け、学校・ビジネス・日常の困ったシーンを網羅する膨大なイラスト数が支持を集めました。
これほど広まった最大の理由は「著作権の明確さ」と「使いやすさ」のバランスです。
個人利用なら無料で、商用利用は原則20点まで無料。
権利関係をいちいち確認しなくてよい安心感が、会社のプレゼンでも学校の学級通信でも気軽に使える「ちょうどいいイラスト」として日本中に定着させました。

ところが2021年1月、みふねたかし氏は「体力的にも精神的にも限界」という理由で毎日更新を終了し、不定期公開に切り替えています。
それでも公式サイトは今も活動中で、2026年5月にはパーツを組み合わせてオリジナルキャラクターを作れる「いらすとやメーカー」もリリースされました。
消えたわけではなく、むしろ進化を続けているのです。
生成AIが「いらすとや代わり」になった現実
状況が変わり始めたのは、Stable Diffusion(ステーブル・ディフュージョン:テキストから画像を自動生成するAI技術)などが普及した2022〜2023年ごろからです。
「プレゼンに使う図解イラストが欲しい」「ブログに挿し絵を入れたい」——そういったニーズを、テキストを入力するだけでAIが即座に叶えてくれるようになりました。
しかも、生成AIはいらすとやのイラストを学習データの一部として取り込んでいます。
日本著作権法第30条の4により、AI学習のための画像利用は原則合法とされており、いらすとや風タッチを再現した画像生成ができる状態になっています。
いらすとやと提携した「AIいらすとや」(AI Picasso社)も2023年1月に登場しましたが、クオリティ面で本家に追いつけず、2025年8月にひっそりとサービスを終了しました。
サービス終了の告知は公式SNSではなくWebサイト上のバナーのみという静かな幕引きでした。

あるAI研究者がXで指摘したように、「いらすとやが手描きを好む一般の人たちを駆逐した段階で、こうなることはわかっていたような」という声もあります。
かつてのいらすとや自身がフリー素材として手描き文化の一部を置き換え、今度はいらすとやが生成AIに置き換えられているという皮肉な連鎖です。
「それでもいらすとやがいい」という声
調べてみて面白かったのは、「AI画像よりいらすとやの方が好感度が高い」という意見が根強く残っていることです。
生成AIのイラストには「なんとなく違和感がある」「細部が不自然」という指摘が多く、指の形が歪んでいたりテキストが文字化けしていたりと、現時点での精度には限界があります。
その点、いらすとやは長年にわたって人の目で品質が担保されてきたイラスト群であり、権利関係が明確な点も実務で重宝されています。
また、生成AIは「使いたいシーンをプロンプト(AIへの指示文)に落とし込む手間がある」という問題もあります。
いらすとやは「先生」「会議」「困った顔」など日本語のキーワードで目当ての素材にすぐたどり着けるUIが、今も根強い支持を集めている理由のひとつです。
さらに、2026年5月にリリースされた「いらすとやメーカー」は、パーツを自由に組み合わせてオリジナルのいらすとやキャラを作れるという新機能です。
商用利用も可能で、「生成AIとは違う方向で自由に使える」という評価も出ています。
AIと戦うのではなく、「いらすとやにしかできない使い方」を模索している姿勢が見えます。
さらに深掘りしたい方へ
- いらすとや公式サイト
- いらすとやメーカー(2026年5月公開)
- 「AIいらすとや」「AIピカソ」サービス終了の経緯(ITmedia AI+)
- 最近いらすとやの絵を本当に見かけなくなってしまった——まとめ(Togetter)
SocialReport編集部の考察
今回の「いらすとや見かけない」騒動は、SNSマーケティングにとっても重要な示唆を持っています。
企業や個人がいらすとやを使い続けてきたのは「安全・安価・高品質」の三拍子が揃っていたからですが、生成AIの台頭でその優位性が相対化されると、ユーザーは一斉に別の手段に移行しました。
この現象は、特定のツールや素材サービスへの依存リスクをあらためて考えさせてくれます。
SNS運用においても同様で、フリー素材サービスや画像編集ツール、SNSプラットフォームへの過度な依存は、仕様変更やサービス終了の際に運用全体を揺るがすリスクがあります。
重要なのは「複数の手段を並行して持ち続けること」です。
いらすとやが今も一定の需要を保っているのは、権利の明確さと検索のしやすさというAIにはない固有の価値を持ち続けているからです。
ツールは変わっても「受け手に伝わるか」という本質は変わらず、素材の選び方も結局はそこに帰着します。
まとめ
いらすとやが「見かけなくなった」のは、消えたからではなく、生成AIという別の選択肢が現れたからです。
みふねたかし氏の手描きイラストは今も更新が続き、いらすとやメーカーという新サービスも誕生しています。
AIに取って代わられているようで、実は「AIにはできない使い方」で生き続けているのかもしれません。
