AI最新情報 読了 7 分

「古本って下手したら一生誰にも読まれない」——AI学習目的とみられる大量注文、日本の古書店にも広がる

Shiritomo編集部 @shiritomoAI_jp 2026年9月28日 更新
「古本って下手したら一生誰にも読まれない」——AI学習目的とみられる大量注文、日本の古書店にも広がる

「1日100冊売れる」「売上が5倍になった日もある」。
日テレNEWS NNNの取材に、関東地方のオンライン古書店がそう答えています。
注文されるのは哲学・歴史・医学・法律書といった、ふだんはあまり動かない専門書ばかり。
送り先を調べると、いずれも岡山県にある同じ物流センターに集中していました。

自分が読んだ本や、いつか手放した蔵書が、知らないうちにAIの学習材料になっているかもしれない——そう考えると、本好きでなくても他人事ではない話です。
日テレNEWS NNNの独自報道をきっかけに、何がどこまで分かっているのかを調べました。

先に結論をまとめると:
– 日本各地のオンライン古書店で今年8月ごろから、脈絡のない専門書ばかりを大量に買い付ける注文が相次ぎ、送り先は岡山県の物流センターに集中している
– 出版取次(出版社と書店の間で本の流通を担う卸売業者)最大手の日販グループホールディングスが、米AI企業Anthropicの著作権訴訟の裁判資料に「Nippan Japan」として複数回登場していることが朝日新聞の報道で判明している
– 日本テレビが輸出データを分析したところ、同社グループから米国へ50トン超、推定10万冊分の「日本の本」が輸出された記録も見つかった
– 日販は「AI企業の学習向け用途と認識したうえで販売した事実はない」とコメントしており、業界団体からの説明要求にも詳細な回答は出ていない

岡山の物流センターに集まる、脈絡のない注文

発端は日テレNEWS NNNの独自取材でした。
東京都内の古書店では「普通は小説やコミックが売れるが、専門書がこんなに一気に売れたことはない」という証言があり、関東の50代の店主は1000冊以上を売った経験から「機械的にシステムを組んで買っているのでないか」と推測しています。
江戸時代の生活・文化を扱う本や、30年ほど前の政界がらみの書籍まで、脈絡なく買われていくのが特徴だといいます。

この報道はXでも広がり、「アンソロピックなどのAI企業による現代の焚書」という反応が投稿されるなど、AI企業が過去に行ってきた書籍スキャンと重ねて語られています。
ただ、感想が広がる一方で「実際に誰が何のために買っているのか」はまだ分かっていません。
そこで報道の中身を確認しました。

調べて分かったこと

日販とAnthropicは、なぜ結びつけて語られているのか?

話はこの報道の少し前にさかのぼります。
朝日新聞は9月18日、出版取次最大手の日販グループホールディングスが、米AI企業Anthropicに大量の書籍を販売していた可能性を報じました。
根拠は、Anthropicが米国で起こされている著作権侵害訴訟の裁判資料に「Nippan Japan」という記述が複数回登場していたことです。
この報道を受けて、約380社が加盟する業界団体「日本書籍出版協会」が日販に書面を送り、加盟出版社の発行物が対象に含まれていたか、含まれていた場合に出版社の了承なく海外業者へ大量販売したことの「法的整合性」はどうなっているのかを説明するよう求めました。
日販は「個別取引に関する内容は取引有無も含め、回答を差し控える」としながらも、「当グループにおいて、AI企業の学習向け用途と認識したうえで販売した事実はない」と否定しています。

50トン輸出は何を裏付けているのか?

この4日後、日本テレビが輸出入データを分析した結果として報じたのが、冒頭の古書店の一件でした。
日販グループの関連会社から、2025年以降に米国向けで「JAPANESE BOOKS」として計50トン以上が輸出された記録が確認されたといいます。
ハードカバー1冊を500グラムとして計算すると、およそ10万冊に相当する規模です。
ただし、このデータはあくまで輸出量の記録であり、輸出された本のすべてが今回の古書店注文や、Anthropicの裁判資料と直接つながっているという証拠までは示されていません。
岡山の物流センターの先で、最終的に誰が本を受け取っているのかも明らかになっていません。

さらに9月28日には、日本書籍出版協会が改めて日販に問い合わせたものの、明確な回答は得られなかったという続報も出ています。
朝日新聞の報道から10日ほどが経っても、核心部分は「回答を差し控える」のまま止まっているのが実態です。

Anthropicには、そもそも前科があるのか?

Anthropicの名前がここで出てくるのには理由があります。
8月には、同社が「Project Panama」という取り組みで数百万冊規模の中古本を購入し、背表紙を裁断してスキャンした後に原本を廃棄していたことが、別の著作権訴訟の裁判資料で明らかになっていました。
さらに7月には欧州でも、カナダの企業による古書の大量注文をきっかけに、ドイツやスペインの古書店主が「AI学習用にスキャンして廃棄しているのでは」と疑いの声を上げる一件が報じられています。
今回の日本での動きが、これらとまったく同じ経路によるものかまでは裏付けられていませんが、「大量の中古本を集めてAIに学習させる」という手口自体は、すでに海外で先例がある話です。

歓迎する識者もいる

不安の声が目立つ一方で、この状況を前向きに受け止める識者もいます。
社会学者の古市憲寿氏は9月27日放送の日本テレビ「真相報道 バンキシャ!」で、AIに古本が読まれることについて「すごいうれしい」としたうえで、「古本って下手したら一生誰にも読まれない」とコメントしました。
読まれないまま眠り続ける蔵書と、AIの学習材料になる蔵書のどちらがよいかは、価値観が分かれるところです。

Shiritomo編集部の考察

SNSや文章で発信する仕事をしている人にとっても、この件は無関係ではありません。
ブログ記事やnote、電子書籍として公開した文章は、紙の古本と違って物理的に「回収」される心配はありませんが、クローラー(Webサイトを巡回してデータを収集するプログラム)経由でAIの学習データに使われている可能性は同様にあります。
多くのAIサービスは学習データ収集用クローラーを識別する手段を公開しており、自分のサイトのrobots.txt(クローラーの巡回可否を指定する設定ファイル)で個別に許可・拒否を指定できる場合があります。
今回の一件のように「知らないうちに」学習材料になることへの向き合い方は、紙の本を持つ人だけでなく、ネット上に文章を公開している人にも共通する検討事項です。

まとめ

日本の古書店にも広がった大量注文と50トンの輸出記録は、AI学習目的を強くうかがわせるものの、注文主も目的も正式には特定されていません。
海外の先行事例と重ねて見ると、「本を大量に集めてAIに学習させる」動きが日本にも及んできた可能性がある、というのが現時点での実態に近そうです。

さらに深掘りしたい方へ

「知られたくない」と内部文書に記していた——Anthropicが古書を裁断してスキャンし続けた理由「知られたくない」と内部文書に記していた——Anthropicが古書を裁断してスキャンし続けた理由Anthropicが「Project Panama」で数百万冊の中古本を購入・スキャン後に廃棄していたことが裁判資料で発覚した経緯です。
深夜3時、古書店に鳴り止まない注文音 欧州で広がるAI企業の「本の大量購入」疑惑深夜3時、古書店に鳴り止まない注文音 欧州で広がるAI企業の「本の大量購入」疑惑今年7月、ドイツやスペインの古書店で相次いだ大量注文と、Anthropicの過去事例が結びつけて語られた欧州での一件です。

日テレNEWS NNNの独自報道の詳細は、Yahoo!ニュースで読むことができます。