アルトマンCEO「AIが雇用崩壊を引き起こさないと気づいた」——過去の予測を自ら撤回
「私は間違っていた」という言葉を、まさかOpenAIのトップから聞くことになるとは思いませんでした。
5月26日、OpenAIのサム・アルトマンCEOは、オーストラリア・シドニーで開催されたコモンウェルス銀行のカンファレンス「Accelerate AI」にバーチャルで登場しました。
インタビュアーから「AIが雇用に与える影響についての予測はどうでしたか」と聞かれ、こう答えたのです。
「エントリーレベルのホワイトカラー職が、今頃これほど消えていないことを、正直に言うと嬉しく思っています。
間違えていたと認めます」
数年前まで「AIが多くのホワイトカラー職を奪う」という警告を繰り返してきた人物が、今度は「思ったより影響が出ていない」と笑顔で語った。
この発言は、Xを中心に世界中に波紋を広げました。
「雇用崩壊は起きない」——シドニーで飛び出した自己修正
アルトマン氏の発言の骨子を整理するとこうなります。
エントリーレベルのホワイトカラー職への打撃は「予想より小さかった」、過去の予測は「テクノロジーの方向性は概ね正しかったが、社会・経済的な影響については相当間違っていた」と認めました。
さらに「AIによる雇用崩壊が起きるとは思っていない」と明言したのです。

興味深いのは、アルトマン氏が「なぜ外れたか、今は少し理解できている」と言ったことです。
AIが生産性を上げる一方で、人間が求める「人との繋がり」の価値も同時に高まっているという認識が、その背景にあるようです。
「人間同士のやり取りに、私たちは本当に価値を感じている。
それをAIに委託するとはすぐには想像できない」——これは、AIが置き換えにくいものの正体について、正直な告白でもありました。
氏自身、AIにメールやSlackの返信を試させてみたものの、最終的には「自分で書くほうがいい」と戻したと打ち明けています。
AIを誰より積極的に推進してきた人物が、使ってみて感じた限界を自分の言葉で語る——その率直さは、いくつかの批判を差し引いても印象的でした。
「手のひら返し」か、冷静な修正か——Xでの温度差
Xでは早速、二極化した反応が広がりました。
批判的な声としては「以前は『AIが仕事を奪う』と散々言っていたのに」「IPOを前に都合よくトーンを変えた」といった内容が目立ちました。
OpenAIは2026年中に大型IPOを予定しており、投資家に向けて「AIは経済を壊す技術ではない」と伝えるメッセージとして機能する側面があることは、否定しにくいところです。

一方で、「予測が外れたことを正直に認めるのは誠実な姿勢だ」「科学者的な態度として評価する」という声もあります。
Anthropic CEOのダリオ・アモデイ氏も、かつて「エントリーレベルのホワイトカラー職の50%が5年以内に消える」と予言していたことがあり、同じく最近その表現を和らげているといいます。
AI業界のトップたちが軒並み「予測の修正」に向かっているのは、偶然とは言いにくい動きです。
数字で見る2026年の「AIと雇用」の現実
では、アルトマン氏が「影響が小さかった」と言う現実は、データとして何を示しているのでしょうか。
2026年のテック業界では、Q1(1〜3月)だけで約8万人のレイオフが発生しました。
年間では11万5,000人超が職を失っており、これはChatGPT登場以降で最大規模の水準です。
うち約48%がAI関連とされています。
ただし重要なのは「なぜ解雇されたか」という点です。
多くのケースで、直接の原因は「AIが仕事を代替したから不要になった」ではなく、「AI投資を捻出するために人件費を削った」ということが明らかになっています。
Metaが8,000人、Oracleが10,000人超を削減した際も、その背景にはAI開発コストの拡大がありました。
つまり「AIが雇用を奪う」のではなく、「AI投資を優先するために採用を絞る」という構造が、現状の実態です。
ゴールドマン・サックスの分析では、AIデータセンターの建設ラッシュによって2022年以降に約20万件の新たな雇用が生まれているとの試算もあります。
イェール大学の研究でも、ChatGPT登場後にAI影響度の高い職種で大きな職の減少は確認されていません。
「雇用崩壊」という言葉が実態に先行していたのかもしれません。
あるいは、影響の出方が「即時的な解雇」ではなく「採用の緩やかな絞り込み」という目に見えにくい形で静かに進んでいるのかもしれません。
さらに深掘りしたい方へ
まとめ
「AIが雇用を奪う」という警告が正しかったのか、過剰だったのか——その問いにアルトマン氏自身が「間違っていた」と答えたことで、議論は新たな段階に入りました。
2026年の現実を見ると、AIは直接的な置き換えよりも「AI投資のための採用抑制」という形で影響が出ており、より静かで見えにくい変化が進んでいます。
次の数年でそれがどう変化していくのか、引き続き注目していきたいと思います。
