ソフトバンク、フランスに最大14兆円の「欧州最大AIデータセンター」建設へ——孫正義とマクロンが描く構想
「AIインフラを制する国が、テクノロジーの未来を形作る」。
そんな言葉を残した孫正義会長のソフトバンクグループが、フランス北部に最大750億ユーロ(約14兆円)を投じるという驚くべき発表をしました。
欧州最大のAIデータセンターを建設する計画です。
2026年5月末、フランスで開催された対仏投資誘致イベント「Choose France」サミット。
米国・欧州・アジアの企業トップが集まるなか、ひときわ注目を集めたのがこの発表でした。
なぜ今、フランスなのか。
そして、この14兆円という数字は何を意味するのか——気になって深掘りしてみました。
マクロン大統領が「直接口説いた」舞台裏
今回の投資には、明確な発端があります。
2025年にフランスのマクロン大統領が日本を訪問し、孫正義氏と直接会談したことがきっかけでした。
大統領みずからが投資を働きかけ、約1年越しで今回の正式発表につながったのです。
孫氏は会見で「エマニュエル・マクロンがフランスの経済的成功を確保することに非常に個人的にコミットしていることに感銘を受けた」と語っています。
国家元首が自ら動く——それほどAIインフラをめぐる国際競争が激しくなっているということでしょう。
フランス経済大臣はこの投資を「フランスをAIバリューチェーンの主要投資先にするというマクロン大統領の野心を支持するもの」と評価しています。
フランスは国家として数年間で1000億ユーロ超をAI分野に投じる計画を持っており、ソフトバンクの投資はその戦略と完全に合致するものでした。

5GW・14兆円という規模の本当の意味
計画の内容を整理してみましょう。
まず注目すべきは、総容量5GW(ギガワット)というスケール感です。
データセンターの規模は消費電力量で表されることが多いのですが、5GWというのは日本の主要都市・横浜市全体の電力消費量にほぼ匹敵する数値です。
国一つを支えるレベルのAI計算資源を、フランスに集中させるという構想です。
建設は2段階で進みます。
第1フェーズでは5年以内に450億ユーロを投入し、フランス北部オー=ド=フランス地域圏の3拠点(ダンケルク・ボスケル・ブーシャン)に3.1GWを2031年までに整備。
その後、フランス全土への拡張で合計5GWを目指します。
パートナー企業も豪華です。
電力供給にはフランス国営電力のEDF(フランス電力)が参加。
電力モジュール統合ではSchneider Electricがダンケルク港でロボット化プラントを開発します。
また、ボスケル拠点ではフランスのデータセンター企業Sesterceと1GWの施設を共同開発します。
データセンターの建設・運営・電力・製造——フランス経済全体を巻き込むプロジェクトになっています。
データセンター開発・エンジニアリング・エネルギー分野で「数千の高スキル雇用」が創出される見込みとのことで、フランス側の期待も大きそうです。
フランスを選んだ理由:原子力電力という「隠れた武器」
投資先としてフランスが選ばれた理由のひとつは、フランスの原子力電力にあります。

AIデータセンターが抱える最大の課題のひとつは電力コストです。
大規模なGPUサーバーを24時間稼働させるには膨大な電力が必要で、電力料金と安定供給がビジネスの命運を左右します。
フランスは原子力発電の比率が約70%と世界最高水準。
低コストで安定した電力供給が見込める環境は、データセンター事業者にとって大きな魅力です。
また、米国のデータセンター建設をめぐっては、電力網への影響や電力料金の上昇に対する地域住民の反対運動が激化しています。
ソフトバンクが米国オハイオ州で計画している9.2GWの大規模計画では、天然ガス発電所の建設が批判を受けているとも報じられています。
その点、フランスでは原子力という既存インフラを活用できるため、摩擦が小さいという判断もあったかもしれません。
「AIを制する者が未来を制する」:SBGのグローバル展開
今回のフランス投資は、ソフトバンクグループが進めるAIインフラのグローバル多拠点化戦略の一環でもあります。
米国・UAE・そしてフランスという形で、AIの計算資源を世界各地に分散させる動きは、「計算資源の地政学」とも呼べます。
現在、大規模なAI計算資源は米国と一部のアジア地域に集中していますが、欧州独自のAI主権を求める声も高まっています。
ソフトバンクの投資は、こうした欧州側のニーズとも合致するものです。
孫氏の言葉を改めて引くと——「AIは新たな時代を迎えており、この変革を支えるインフラを構築する国々が、テクノロジー、産業、社会の未来を形作ることになる」。
投資家・起業家として常に「次の大波」を追ってきた孫氏にとって、今のAIインフラへの大規模投資はその延長線上にある必然の判断に映ります。
リスクも見えてきた:負債と技術進化の不確実性
もちろん、課題がないわけではありません。
ソフトバンクグループはもともと数十兆円規模の有利子負債を抱えており、さらなる大型投資は金利負担を増加させるリスクがあります。
また、AI分野では計算効率の急速な改善が続いており、10年後に5GWものデータセンターが本当に必要とされているかどうかは、今の段階では誰にも断言できません。
さらに、電力の大量消費というAIデータセンターの環境負荷への批判は世界的に強まっています。
フランスの原子力電力がその問題を一定程度緩和するとしても、議論は避けられないでしょう。
まとめ
ソフトバンクグループのフランスへの最大750億ユーロ投資は、単なる企業の海外展開を超えた「AIインフラ地政学」の象徴的な出来事です。
マクロン大統領と孫正義が直接交渉で作り上げた構想が、フランス北部の3つの街を欧州最大のAI計算拠点に変えていく——その第一歩が、今まさに踏み出されました。
日本企業がAIインフラの世界標準を作りにいく。
この動きが今後どう展開するか、引き続き注目していきたいと思います。