「Anthropicとの交渉はうまくいっている」——G7でトランプ大統領が語った一言と、まだ使えないFable 5の現実
フランス・エビアンのリゾートホテルで昼食をとる首脳たちの間に、OpenAIのサム・アルトマン氏、Anthropicのダリオ・アモデイ氏、Google DeepMindのデミス・ハサビス氏といったAI企業のトップが同席するという、G7史上でもかなり珍しい光景が生まれました。
その昼食会の直後、記者団に囲まれたトランプ大統領が「going fine(うまくいっている)」と一言。
何が「うまくいっている」のかというと、6月12日に突然始まったAnthropicとの輸出規制をめぐる交渉です。
この発言が出た時点で、Anthropicの最新AIモデル「Claude Fable 5」と「Mythos 5」は世界中の外国人ユーザーが使えなくなったまま。
「うまくいっている」と「まだ使えない」が同時に存在するという、なんとも不思議な状況が生まれています。
何が起きていたのか——6月12日の夜から振り返る
6月12日の夕方(米東部時間)、商務省はAnthropicに対して、「Fable 5」と「Mythos 5」への外国人のアクセスを即時停止するよう指令を出しました。
引き金を引いたのは、Amazon CEOのアンディ・ジャシー氏だとされています。
AmazonのリサーチャーがFable 5のセキュリティガードレール(AIの有害な出力を防ぐ安全制限機能)を回避する手法を発見し、その懸念をスコット・ベッセント財務長官に直接伝えたのです。
これを受けてトランプ政権は、1978年の輸出管理改革法(ECRA)に基づく措置として、AIソフトウェアモデルへの輸出規制を史上初めて適用しました。
Anthropicは即座に全ユーザー向けのアクセスを遮断しましたが、理由には納得していません。
同社は「見つかったのは限定的で非普遍的な脆弱性(じゃくてん)であり、一般利用されている商用モデルをリコールすべき理由にはならない」と公式に反論しています。
Just three days after Anthropic released its latest and most powerful AI model, Fable, the Trump administration called with an unusual demand: take it offline.
— The Washington Post (@washingtonpost) 2026年6月15日
Officials gave the company just 90 minutes to comply. https://t.co/9JUCjq2ubM
ワシントン・ポストはこの措置を「Anthropicがリリースからわずか3日で政府に強制停止させられた」と報じ、AIの商用展開に対する政府介入の新たな形として注目を集めました。

G7にAI企業幹部が同席した「異例」の意味
今回のG7エビアンサミットには、各国首脳と並んでAI企業幹部が参加するという前例のない形が採られました。
これは「AIが地政学の問題になった」ことを象徴しています。
アモデイ氏はG7でハサビス氏と共同で米国主導のAI同盟構想を提唱し、「信頼できる国々が共同で技術標準を作るべきだ」と訴えました。
一方、英国のキア・スターマー首相は昼食会でトランプ大統領に直接、英国のユーザーと企業向けのアクセス復旧を求めたとされています。
Anthropic scrambles after Trump administration freezes its top AI models https://t.co/e0ETQnZeRy
— Financial Times (@FT) 2026年6月14日
フィナンシャル・タイムズは、この交渉でAnthropicが「急いで対応に追われた」状況を詳報。
同盟国との間で「trusted partner(信頼できるパートナー)フレームワーク」——一定の同盟国のユーザーに限定的なアクセスを認める仕組み——が検討されているものの、まだ合意には至っていないと報じています。
「going fine」のほんとうの意味
トランプ大統領のひと言は、前向きな兆しには違いありません。
しかし商務長官のハワード・ルトニック氏も「going fine」と繰り返したその日も、Fable 5とMythos 5は世界中の外国人ユーザーに解放されていませんでした。
G7閉幕後、両者はそれぞれワシントンとサンフランシスコに戻り、交渉はまだ続いています。
注目すべきなのは、アクセス禁止の対象が「外国人」である点です。
米国籍のユーザーは引き続き利用できていましたが、日本を含む外国の個人・企業にとっては、アクセスできない状態が続いています。
日本のエンジニアやAIスタートアップにとっては、使いたいモデルがある日突然使えなくなるリスクが現実になったとも言えます。
ルトニック長官がAnthropicに送った書簡の法的根拠についても議論が起きています。
著名なAI政策研究者のアラスデア・フィリップス=ロビンズ氏は「ここで言う『輸出』は法律上の定義と合致しない。
書簡は法的に深刻な欠陥を抱えている」と指摘し、Anthropicが法廷外での解決を望むかもしれないと分析しています。
We've got the full text of the Lutnick letter. Anthropic may well want to resolve this out of court, but the letter is legally deeply flawed:
— Alasdair Phillips-Robins (@alasdairpr) 2026年6月17日
1. There's no "export" here to restrict. The letter relies on EAR § 744.22, which allows BIS to restrict the export of "items" if there's… https://t.co/8UtkjNTlKm
さらに深掘りしたい方へ
- Trump Says Negotiations With Anthropic Are ‘Going Fine’(US News)
- Scoop: Trump admin blocks foreign access to Anthropic’s most powerful AI(Axios)
- Anthropic asked for regulation. Washington went much further(CNBC)
SocialReport編集部の考察
今回の件で浮き彫りになったのは、「AIは輸出規制の対象になりうる」という新しい現実です。
これまでAIモデルのAPIは、契約さえ結べば世界中からアクセスできるクラウドサービスとして扱われてきました。
しかし今回、米政府はソフトウェアとしてのAIモデルに輸出規制を適用し、外国人のアクセスを一括遮断しました。
SNSマーケティング・データ分析ツールを提供するSocialReportの視点から考えると、これは「特定のAIが特定の国向けに急に使えなくなるリスク」を企業が真剣に想定しなければならない時代の始まりだと感じています。
ビジネスでAIを活用する際、どのAPIにどの程度依存しているか、代替手段は何かを考えておくことが、2026年以降のリスク管理として必須になりそうです。
「going fine」という一言が実際にFable 5のアクセス復旧につながるのかどうか。
交渉の行方は、AI業界全体の先行きを占う試金石になっています。
まとめ
G7でトランプ大統領が「Anthropicとの交渉はうまくいっている」と語りましたが、Fable 5とMythos 5は外国人ユーザーにとって依然アクセス不能のままです。
史上初のAIソフトウェアへの輸出規制という前例のない事態が、まだ続いています。


