80カ国分の電話番号を貸し出し4900万件の偽アカウントに——欧州警察が摘発した「スマホ農場」の正体
電話番号をひとつも自分で用意せずに、4900万件のアカウントが作られていました。
使われていたのは、SIMカードを機械的に差し替えながら本人確認を代行する「電話番号貸し出しサービス」です。
2025年10月、欧州刑事警察機構(Europol:EU加盟国の警察活動を調整する機関)がこの仕組みを提供していた拠点をラトビアで一斉に摘発しました。
フォロワー数やいいね数、インフルエンサーの実績を判断材料にしている人にとって、これは遠い国のニュースでは済みません。
先に結論をまとめると:
– 欧州刑事警察機構が2025年10月10日、ラトビアの拠点などを摘発し、4900万件超の偽アカウントの温床だった「電話番号貸し出しサービス」の運営者らを逮捕した
– SIMボックス機器約1200台・SIMカード4万枚・サーバー5台を押収。
貸し出していた電話番号は80カ国以上に登録されたものだった
– 日本国内でも同種の仕組みが使われているとみられ、SNS運用担当者はフォロワー数やいいね数を実績の裏付けとして過信しないことが求められる
ラトビアの拠点で何が摘発されたのか
今回摘発されたのは、Europolが「SIMCARTEL(シムカルテル)」と呼ぶ犯罪ネットワークです。
運営者は専用の機器「SIMボックス」に多数のSIMカードを差し込み、世界中の利用者に電話番号を貸し出すサービスをオンラインで提供していました。
借り手は自分の本当の電話番号を使わずに、SMS認証(ショートメッセージでの本人確認)を突破できます。
これを悪用すれば、身元や居場所を隠したままSNSやメッセージアプリのアカウントを量産できてしまうわけです。
10月10日の摘発作戦では、ラトビア国内で26件の家宅捜索が行われ、現地で5人が逮捕されました(関連してオーストリアなどでも逮捕者が出ており、全体では7人とされています)。
押収されたのはSIMボックス機器約1200台、SIMカード4万枚、サーバー5台。
この仕組みが貸し出していた電話番号は80カ国以上に登録されたものだったといいます。
朝日新聞も「日本でもその存在が垣間見えてきた」と報じており、国内でも同種のグループが確認されているようです。
ただ、今回ラトビアで摘発されたネットワークと日本国内の事例が直接つながっているかどうかまでは、現時点の報道からは分かりません。
調べて分かったこと
なぜ「電話番号を貸す」だけで大規模な偽アカウント生成につながるのか
多くのSNSやアプリは、1つの電話番号で作れるアカウント数を制限することで、人間ではない大量のアカウント作成(いわゆる「スマホ農場」的な運用)を防いでいます。
ところがSIMボックスを使えば、1台の機器で何十枚ものSIMカードを自動的に切り替えながら認証コードを受け取れるため、この制限そのものが機能しなくなります。
米サイバーセキュリティー企業HUMANの担当者は、スマートフォン端末を直接操作する小規模な「スマホ農場」も含め、こうした手口が「より身近になってきている」と警戒を示しています。
偽アカウントは実際に何に使われていたのか
Europolによると、このネットワークが生み出した偽アカウントや番号は、フィッシング(偽サイトへの誘導による情報詐取)、恐喝、投資詐欺、ネット通販詐欺、密航のあっせんなど幅広い犯罪に使われていました。
ラトビア・エストニア・オーストリアだけで被害者は3200人を超え、オーストリアでは1700件・約5.2億円相当、ラトビアでは1500件・約4900万円相当の被害が報告されています(いずれもInfosecurity Magazine報道の金額換算値)。
銀行口座から約50万ドル、暗号資産から約33万ドル相当も凍結されました。
SNS運用担当者は、何を見て「おかしい」と気づけばいいのか
ここが今回の事件で最も実務に関わる部分です。
偽アカウントそのものを見分けるのは難しくても、フォロワーやいいねが「水増し」されている兆候には共通点があります。
- フォロワー数が短期間に不自然な階段状のグラフで増えている
- いいね数に対してコメント数やシェア数が極端に少ない(エンゲージメント率:いいね・コメント・シェア数の合計をリーチ数で割った割合が、実態とかけ離れている)
- フォロワーのプロフィールに投稿履歴がほとんどない、または作成されたばかりのアカウントが多い
- フォロワーの属性(言語・地域)がアカウントの発信内容と噛み合っていない
インフルエンサー起用や広告出稿の判断でフォロワー数だけを見るのではなく、こうした複数の指標を組み合わせて確認することが、水増しアカウントを見抜く最初の一歩になります。
ちなみに「偽アカウント」という言葉自体の検索ボリュームは、Google広告のキーワードプランナーによると2026年8月時点で直近月・12カ月平均ともに同水準(跳ね1.0倍)で、一時的な急増ではなく一定のペースで調べられ続けている言葉です。
今回のような摘発報道のたびに、同じ疑問を持つ人が検索窓に同じ言葉を打ち込んでいるとみられます。
Shiritomo編集部の考察:フォロワー数を「実績」として扱う前にやること
今回の摘発が示すのは、偽アカウントの生成コストが技術的にどんどん下がっているという現実です。
SIMボックス1台で何十もの電話番号を使い回せるなら、1件あたりの偽アカウント作成コストは限りなく小さくなります。
つまり「フォロワー数が多い=人気がある」という単純な図式は、以前よりも簡単に作り物でも成立してしまう状況にあるということです。
SNS運用やインフルエンサーマーケティングの現場では、起用判断の材料をフォロワー数やいいね数といった表面的な数字だけに頼らず、エンゲージメント率やフォロワーの質感といった複数の指標で裏付けを取る姿勢が、これまで以上に必要になってきています。
広告主側も、実績として提示された数字をそのまま信じるのではなく、「その数字はどう作られたものか」を一度疑ってみる習慣が、ムダな広告費を防ぐ最初の防波堤になるはずです。
まとめ
欧州で摘発された「電話番号貸し出しサービス」は、4900万件もの偽アカウントを生み出していました。
SNS上の数字が思うより簡単に作れてしまう時代だからこそ、フォロワー数やいいね数を「実績」としてそのまま受け取らない目を、運用側も広告主側も持っておく必要がありそうです。
さらに深掘りしたい方へ
今回の件は「スマホ農場」も身近に? 世界で摘発される「農場」の見えた一端(朝日新聞)で日本語の詳細が報じられています。
摘発の経緯や押収物の詳細はEuropolの摘発を報じたInfosecurity Magazineの記事にまとまっています。


