AIに健康を相談してみたら、がん情報の4割に問題があった——NHKが描くAI医療の光と影
「ちょっと気になる症状があるんだけど、AIに聞いてみよう」。
そんなふうに思ったことはありませんか?
私も実際にやってみたことがあります。
ChatGPTに体の不調を入力すると、丁寧な説明と「念のため医師に相談を」というアドバイスが返ってきます。
便利だなと思う反面、「この情報って本当に正確なんだろうか」という引っかかりをずっと感じていました。
そのモヤモヤを正面から取り上げたのが、2026年5月22日に放送されたNHK「首都圏情報 ネタドリ!」です。
健康相談AIの誤情報リスクと、医療現場での画期的なAI活用という、真逆とも言える二つの現実を一つの番組で描きました。
調べれば調べるほど、「AIと医療」という問題の複雑さが見えてきました。
がん情報の約40%に問題あり——専門医が明かした衝撃の調査結果
番組の中でとりわけ衝撃的だったのが、がん関連のAI概要表示(いわゆる「AI Overview」)に関する調査結果です。
専門医が調べたところ、がんに関するAI概要表示のおよそ40%に何らかの問題があったというのです。
引用根拠が乏しい情報が堂々と「概要」として表示されていたり、不正確な治療情報が示されていたり。
医療の専門知識を持たない一般の人がこれを読んだら、誤った理解をしてしまいかねません。

この問題は海外の調査でも裏付けられています。
BMJ Open誌に2026年4月に掲載された研究では、ChatGPT・Gemini・Meta AI・Grok・DeepSeekの5大AIチャットボットに250問の健康質問を投げかけた結果、約49.6%が「問題のある応答」と評価されました。
さらに深刻なのは、回答を拒否したのがわずか0.8%(2件)だったという点です。
つまり、AIはほとんどの健康質問に対して”自信満々”に答えてしまうのです。
専門家の間では「答えないよりはましかもしれないが、間違った確信を与えることのほうが危険」という声も上がっています。
AIが「分かりません」と言ってくれないことが、実は大きな問題なのかもしれません。
Xでも、医師や研究者アカウントからAI誤情報リスクへの懸念が相次いで発信されました。
医学論文の13.5%にAIの痕跡が残っているという研究を引用しながら、「粗悪な研究が量産されれば誤情報が拡散し、科学の発展に悪影響を与える」と指摘する声が、放送直後に多くの医療関係者の共感を集めました。
一方、ICUでは「命を救うAI」が動き始めている
ところが同じ番組の中に、まったく異なる景色が映し出されていました。
大阪のスタートアップ・株式会社MeDiCUが開発した「MeDiCU-AI」は、ICU(集中治療室)に入院している患者の急変リスクをリアルタイムで予測するシステムです。
2026年4月、関西医科大学総合医療センターで国内初の正式導入が決まりました。
このシステムの核心にあるのは、全国の病院から集めた約20万症例もの生体データを学習した大規模データベース「OneICU」です。
患者の血圧、脈拍、呼吸数などのバイタルデータを継続的に解析し、ICU退室後48時間以内に急変するリスクを高い精度で予測します。
なぜこの予測が重要なのか。
実は、ICUから一般病棟に移った後に急変して再入室した患者は、そうでない患者と比べて死亡リスクが約4倍も高くなるというデータがあります。
「もう少し様子を見るべきだったか」という医師の判断を、データで客観的に支援するのがこのシステムの役割です。

さらにMeDiCU-AIには、診療記録の作成時間を従来の約4分の1に短縮できる「症状詳記作成支援プログラム」も含まれています。
ICUの医師がどれほど膨大な記録業務を抱えているか——そのことを考えると、この時間短縮の意味がよく分かります。
医師たちはAIの可能性を高く評価しながらも、「正確性のさらなる向上が不可欠」と声をそろえています。
AIはあくまでサポートツールであり、最終判断は人間の医師が行うという姿勢は崩さない。
その慎重さの中に、医療とAIが共存するための知恵があるように思います。
医療AIの現状に詳しい専門家からも、Xでリアルな声が広がりました。
「電子カルテの普及で業務が半減する」と言われたが現実はそうではなかった——AIでも同じ誤算が起きるかもしれないという指摘は、現場の医師だからこそできる率直な見方として、多くの反響を呼んでいます。
「使いこなす力」が問われている
AIは便利ですが、万能ではありません。
健康相談の場面では誤情報のリスクが40%近くに上る一方で、ICUでは命の判断を助ける精度の高いシステムが動き始めている。
同じ「医療AI」でも、使い方と精度管理によって全く別の結果をもたらすということが、このNHKの特集からはっきり見えてきます。
私たちが日常的に使う健康相談AIについては、「補助的な情報として参照する」「必ず医師に相談する」という姿勢が求められます。
AIが出した答えをそのまま信じるのではなく、一次情報(公式の医療機関や専門医の見解)と照らし合わせる習慣が大切です。
一方、医療現場で使われる専門的なAIは、大量の臨床データに基づいて設計され、厳しい精度検証を経ています。
「AIだから信頼できない」と一律に拒否するのも、もったいない話です。
重要なのは、AIをどのような目的で・どのように使うのか。
その設計と運用の質が、AI医療の光と影を分けているのです。
さらに深掘りしたい方へ
- MeDiCU-AI、関西医科大学で国内初正式導入(PR TIMES)
- AI Overviewsをめぐる医療誤情報報道(メディコレNEWS)
- 承認済み医療AIの6割が薬剤名を取り違えていたことが判明(GIGAZINE)
- 医療AIは「健康改善に応じて報酬」の時代へ(GIGAZINE)
まとめ
AI医療の「光」と「影」は、同じ技術が異なる文脈で使われているという事実から生まれています。
日常的な健康相談AIへの過信は危険であり、専門設計された医療現場のAIには大きな可能性がある——この両面を正確に理解することが、AI時代に医療と上手く付き合うための第一歩ではないでしょうか。