「お前、こんな姿にされちまったのか」——Pixelの100倍ズームがヒグマを岩に変えた理由
「お前、こんな姿にされちまったのか……」。
北海道の海岸で偶然出会ったヒグマにスマートフォンを向けた投稿者は、そう呟きました。
写っていたのはヒグマではなく、輪郭の崩れた不鮮明な岩のような塊です。
遠くの被写体をきれいに撮れるはずの機能が、被写体そのものを消してしまった——。
この一枚は9,000件を超える「いいね」を集め、そこから「スマホのカメラはもう写真ではない」という議論に広がりました。
スマートフォンのカメラ機能を購入基準にしている読者にとって、見過ごせない話題です。
先に結論をまとめると:
– 100倍ズームは光学的な拡大ではなく、AIが「本来こう写るはず」の画像を推測して補完したもの
– この機能はPixel 10 Proシリーズのみに搭載された新機能で、旧モデルには存在しない
– 「証拠写真」としては不向きだが、日常のズーム撮影としては実用域に達しているとの評価も多い

Xでの盛り上がり
発端は、key氏(@keyvajra)が7月21日に投稿した1枚の写真でした。
海岸にヒグマがいたので、遠方だけどPixelの100倍ズームで頑張って撮った結果、AI処理でヒグマが"岩"になった。
— key (@keyvajra) 2026年7月21日
「お前、こんな姿にされちまったのか…」ってなってた。 pic.twitter.com/VebdezDm5B
海岸の岩場に潜んでいたヒグマを100倍ズームで撮影したところ、AIが処理した画像はヒグマの姿を保てず、周囲の岩と見分けがつかないシルエットに変わってしまったといいます。
この投稿は瞬く間に拡散し、造形作家のアキ氏(@aki_chevalier)が「スマホのカメラは終わりです」と引用したポストは2万件超の「いいね」を集めました。
もう知ってたけどスマホのカメラは終わりです。
— 造形工房chevalier 造形作家アキ @現状は護憲派。 (@aki_chevalier) 2026年7月23日
目の前の物を記録する道具としては使い物にならない・・・。 https://t.co/gqp6cAJhul
野生動物との遭遇という緊張感のある場面で、ズーム機能が肝心の被写体を消してしまったというギャップが、多くの人の目を引いたようです。
ただ、この一枚だけでは「AIがやりすぎている」のか「そもそも遠すぎただけ」なのか判断がつきません。
そこで、100倍ズームの実際の仕組みを調べてみました。
調べて分かったこと
そもそも100倍ズームはどういう仕組みなのか?
Googleが2025年に発表したPixel 10 Proシリーズには、「超解像ズームPro(Pro Res Zoom)」という新機能が搭載されています。
従来のPixel 9 Proの「超解像ズーム」が最大30倍までだったのに対し、Pro Res Zoomは最大100倍まで拡張されました。
この仕組みは、Tensor G5チップと生成AIモデル(潜在拡散モデル)を使い、ズームで失われた細部を「本来こう見えるはず」という統計的な予測に基づいて描き足す技術です。
改良された光学式手ぶれ補正と新型カメラISP(画像処理チップ)もあわせて、100倍という数字を成立させています。
つまり100倍ズームで写る絵は、レンズが実際に捉えた光の情報そのものではなく、AIが再構成した「もっともらしい画像」だという点が、今回の騒動の核心です。
過去にも似たような騒動はあったのか?
実は今回と同じ構造の騒動が、2023年にも起きています。
Samsungが「スペースズーム」と呼ぶ100倍ズーム機能で撮影した月の写真を巡り、Redditユーザーがわざとぼかした低解像度の月画像を撮影したところ、元画像にないはずのクレーターの細部まで写り込んだのです。
この「ムーンゲート」と呼ばれる騒動では、AIが「月の画像とはこういうものだ」という学習データをもとに、実際には写っていない詳細を復元していたことが指摘されました。
今回のPixelの件も構造は同じで、AIが持つ「岩や動物の画像の学習データ」が、遠くの被写体の再現に影響している可能性があります。
証拠写真として使えないというのは本当か?
擁護派の意見としては「100倍ズームはそもそも娯楽用途で、証拠能力を求める使い方が間違っている」というものがあります。
実際、RAWモードで撮影すればAIによる補完がかかる前の生データを保存できるため、正確性が必要な場面ではRAWを使うという回避策も紹介されています。
一方で、スマートフォンのカメラが日常の記録手段として広く使われている以上、「どこまでがAIの創作で、どこまでが現実の記録か」という線引きは、今後さらに重要になりそうです。
XiaomiやOPPO、HONORといった中国メーカーも高倍率ズームで同様の生成AI処理を採用しており、この課題はPixelだけの話ではありません。
Shiritomo GADGET編集部の考察
今回の一件は、単なる「AIが暴走した」という話では片づけられません。
むしろ、スマートフォンカメラの評価基準が「解像度」から「もっともらしさ」へと静かに移り変わっていることを象徴する出来事だと捉えるべきでしょう。
2023年のSamsung「ムーンゲート」と今回のPixelの一件を比べると、批判の論点はほぼ変わっていません。
つまりメーカー各社は、この3年間で「AIによる補完」を隠さず前面に出す方向へ舵を切ったということです。
読者がスマートフォンを選ぶ際は、スペック表の「〇〇倍ズーム」という数字だけを見るのではなく、その数字がどこまで光学的な実写で、どこから先がAIによる推測なのかを意識しておくと、購入後の「思っていたのと違う」を防げるはずです。
まとめ
Pixelの100倍ズームが起こした今回の騒動は、AIが優秀すぎるがゆえに生まれた誤解でもあり、写真の「リアルさ」の定義そのものを問い直す出来事でもありました。
ズーム性能を基準に機種を選ぶ読者は、その仕組みまで一歩踏み込んで確認しておく価値がありそうです。
さらに深掘りしたい方へ
100倍ズームの仕組みについては、Pixel 10 Proの超解像ズームProを解説する記事(HelenTech)が詳しく参考になります。
また、2023年のSamsung「ムーンゲート」騒動については、AIによる写真加工の是非を問うWIRED記事もあわせてご覧ください。
