「知られたくない」と内部文書に記していた——Anthropicが古書を裁断してスキャンし続けた理由
「Project Panamaは、世界中の本を破壊的にスキャンする取り組みだ」。
Anthropicの内部文書には、そう記されていました。
続く一文はさらに踏み込んでいます。
「これに取り組んでいることを、知られたくない」。
裁判資料として公開されたこの文書がXで拡散し、議論を呼んでいます。
AI企業の学習データがどう集められているかは、AIサービスを日常的に使う側にとっても他人事ではありません。
先に結論をまとめると:
– Anthropicは「Project Panama」という取り組みで、大量の中古本を購入し、背表紙を切り落としてスキャンした後に原本を廃棄していました
– この事実は著作権訴訟で開示された内部文書によって明らかになりました
– Anthropicは同じ訴訟に関連して、著者らに15億ドルを支払う和解に合意しています
Xで広がった「本を裁断してスキャンしていた」という指摘
発端は、AI業界を批判的に追うアカウントの投稿でした。
「Anthropicの『Project Panama』は誰もが不安に思うべきだ。
ひそかに稀少な本を買い集め、背表紙を切り落としてスキャンし、原本をシュレッダーにかけている。
裁判所が認めた行為だ。
中には世界で最後の1冊という本も含まれていて、今はもう存在しない」(日本語訳)。
Anthropic's "Project Panama" should DISTURB EVERYONE. Anthropic is secretly buying up rare books, slicing their spines, scanning them, and shredding the originals – and it's court sanctioned.
— Glenn Beck (@glennbeck) 2026年7月31日
Some of these are the last known physical copies in the world. Now, they're gone… pic.twitter.com/Sm9MeGj5M3
刺激的な投稿ですが、これだけでは「本当に稀少本まで対象だったのか」は分かりません。
そこで一次情報にあたって確認しました。
Project Panamaとは、実際どんな取り組みだったのか?
複数の報道によると、Project Panamaは2024年ごろから始まったAnthropicの社内プロジェクトです。
Googleブックスの元担当者が調達を主導し、業者を通じて最大200万冊規模の中古本を購入。
背表紙を裁断してスキャンした後、紙の原本は処分していたとされています。
目的は「世界中のすべての本」からなる中央図書館をデジタルで永久に保持し、そこから必要な範囲を選んでAIモデルの学習に使うことだったといいます。
この計画は、著者のアンドレア・バーツ氏らがAnthropicを相手取った著作権訴訟の過程で、裁判所命令により内部文書が開示されたことで明るみに出ました。
THIS IS F*CKING DISTURBING!!!🤯
— Evan Luthra (@EvanLuthra) 2026年7月29日
A leaked Anthropic document just came out in court. Their own words:
"Project Panama is our effort to destructively scan all the books in the world."
Next line: "We don't want it to be known that we are working on this."
They planned to shred… pic.twitter.com/qKjDPxevX0
稀少本まで対象にしていたのか?
ここが一次情報を確認して初めて分かった点です。
Anthropicは広報を通じて「稀少本・古書コレクション級の本を購入・廃棄するプログラムは存在しない」と否定しており、文書上の「less common(あまり一般的でない)」という表現と、Xで広がった「稀少本(rare books)」という表現の間にはずれがある可能性が指摘されています。
一方で裁判所は、購入して合法的にスキャンした本の利用自体は米国著作権法上のフェアユース(公正利用)にあたると判断しつつ、Anthropicが過去に違法入手していた数百万冊分とは区別して扱いました。
Anthropicはこの訴訟に関連し、対象となる約50万作品について1作品あたり3,000ドル、総額15億ドルを支払う和解に合意しています。
Shiritomo編集部の考察:学習データの由来は、いずれAIサービス選びの判断材料になる
企業のSNS運用やコンテンツ制作でAIを活用する立場からすると、今回の件は「便利に使っているAIの学習データがどこから来ているか」を考え直すきっかけになります。
これまでは性能や料金でAIサービスを選ぶことが多かったはずですが、学習データの調達方法をめぐる訴訟・和解が続くと、その透明性自体が選定基準に加わる可能性があります。
今回は「合法的に購入した中古本」という一見クリーンに見える調達方法にすら、「知られたくない」という内部の意識があったことが波紋を広げました。
業務でAIサービスを選定する際は、性能比較だけでなく、こうした訴訟・和解の動向も定期的にチェックしておく価値がありそうです。
まとめ
Anthropicが中古本を大量購入し、裁断・スキャンした後に廃棄していた「Project Panama」の実態が、裁判資料を通じて明らかになりました。
稀少本の扱いをめぐっては同社の説明とXでの拡散内容にずれがあるものの、AI企業の学習データ調達をめぐる議論は続きそうです。
