「128歳、まだフォロワーは欲しい」 老舗墨汁メーカーの誕生日投稿はなぜ刺さったのか
「128歳に128万表示/生きてるとこんなこともあるんですね/墨の民の皆さま/本当にありがとうございます」。
書道用の墨汁を作り続けてきたメーカー「開明」の公式X(@kaimei1898)が、2026年8月24日にこう投稿しました。
締めくくりの一文は「128歳、まだフォロワーは欲しい」。
この投稿には2,755件のいいね、440件のリポスト、30件の引用、30件の返信がつきました。
ただ、数字の面で一つ気になる点があります。
投稿主自身は「128万表示」と申告していますが、今回このパイプラインがX APIで取得した表示回数(インプレッション:投稿が表示された延べ回数)は28,500件と、桁がひとつ違うのです。
SNSの運用で「表示回数」をどこまで信じていいか迷ったことがある人には、他人事に思えない話かもしれません。
先に結論をまとめると:
– 開明は1898年創業の実在する書道用品・墨汁メーカーで、「128歳」は創業年に基づく数字と考えられます
– 投稿が自己申告する「128万表示」と、パイプラインがAPIで取得した表示回数(28,500)は大きく食い違い、どちらが正確かは一次情報だけでは断定できません
– バズった背景には、宣伝色の薄い率直な物言いと、書道だけでなく漫画のペン入れにも使われてきたという意外な用途への反応がありました
128歳の誕生日投稿に「墨の民」が集まった
投稿のタイムスタンプを確認すると、実際に投稿されたのは日本時間2026年8月25日8時35分ごろでした。
本文冒頭に書かれた「2026.08.25 08:25」という表記とは10分ほどのずれがあり、語呂合わせのための演出だったと見られます。
文中の「#開明墨汁128歳」というハッシュタグと、自社のファンを指す「墨の民」という呼びかけが目を引きます。
投稿には、黄色いキャップが特徴の「開明墨汁」の瓶を写した画像も添えられていました。
2026.08.25 08:25
— 開明墨汁 (@kaimei1898) 2026年8月24日
128歳に128万表示
生きてると
こんなこともあるんですね
墨の民の皆さま
本当にありがとうございます#開明墨汁128歳
128歳、まだフォロワーは欲しい pic.twitter.com/gw9SVmMwQi
画像をよく見ると、瓶の写真の上に「開明墨汁は128歳になります そこで墨には 128歳にして初めての夢があります」という、今回追跡している投稿本文とは異なる文章と、返信546・リポスト1.4万・いいね5.4万・表示回数128万という数字を重ねた部分が写っています。
文面が今回の投稿とは違うことから、この数字は今回追跡している投稿そのものの実績ではなく、別の投稿を写したものである可能性が高いと考えられます。
文中の「128万表示」という自己申告と近い数字ではありますが、裏付けとして扱うには慎重になるべきポイントです。
この「128万」という数字だけを見て納得するのは、少し早いかもしれません。
実際のところどうなのか、開明という会社の実在性と、投稿が伸びた理由を分けて調べてみました。
調べて分かったこと
なぜ「128歳」なのか
開明株式会社について調べると、1898年(明治31年)、教師だった田口精爾氏が「子どもたちが墨をする時間に授業時間を取られている」という状況を見て、世界初とされる液体の墨「開明墨汁」を開発したのが始まりだと分かりました。
その後法人化を経て、1988年に「開明株式会社」へ社名を改めています。
本社は東京都千代田区にあり(2024年からは主要な墨汁製品の生産をぺんてるの茨城工場に移管しています)、書道用品のほか漫画用インクなども手がける実在のメーカーです。
2026年はそこから128年目にあたるため、「128歳」という表現は創業年からの単純な計算として筋が通っています。
なぜ漫画のペン入れの話が出てくるのか
引用ツイートの中には、「いつも漫画のペン入れに使わせてもらってます!必需品!」という声がありました。
いつも漫画のペン入れに使わせてもらってます!必需品!ありがとうございます!
— 森永ミク🐝(とある女優の最愛②10/15発売) (@miku39__mori) 2026年8月25日
そしておめでとうございます〰👏✨ https://t.co/MuKMuqaEBm
調べてみると、開明墨汁は書道用としてだけでなく、手塚治虫のアシスタントを務めた漫画家がペン入れに愛用していたと伝えられているほか、にじみにくく耐水性・耐アルコール性に優れた「まんが墨汁」という漫画専用の製品も同社は展開しています。
書道用品というイメージが強い商品が、実は漫画制作の現場でも長く使われてきたという意外性が、引用ツイートの反応を後押ししたと考えられます。
投稿のどこに”らしさ”がにじむのか
書道歴の長いユーザーからは、懐かしむ声も寄せられました。
(これでも)書道歴ウン10年。初歩の折はとてもお世話になり申した。おめでとう御座います。 https://t.co/a7Mh1MZThC
— MIKA (@mika_escargot) 2026年8月25日
懐かしい!私は小2から高2まで書道をやっていて、その時書道教室で使っていたのがこの墨汁。私が使っていたのは縦長だったなぁ🤔 https://t.co/BOA74ojh28
— まみむめも03🌺 (@mamimume920) 2026年8月25日
「初歩の折はとてもお世話になり申した」「小2から高2まで書道をやっていて、その時使っていたのがこの墨汁」といった投稿は、いずれも宣伝文句ではなく一人称の実感がこもっています。
開明自身の投稿も、自社製品を売り込む調子ではなく「128歳、まだフォロワーは欲しい」という率直な物言いで締めくくられていました。
老舗メーカーの公式アカウントが飾らない言葉で発信する姿勢が、既存フォロワーの外側にも届く拡散を後押しした一因と考えられます。
なお、引用ツイートの中には「推しのTHE ALFEEと誕生日が同じ」という投稿もあり、本題とは関係のない切り口からの共感が広がっていた点も、拡散の裾野を広げた要素の一つだったようです。
Shiritomo編集部の考察:企業アカウントの「素の言葉」は数字より効くのか
企業公式アカウントが自社の「周年」を話題にする手法自体は珍しくありません。
ただ、開明の投稿が伸びた要因は、単に「128周年」という数字を打ち出したことではなく、「まだフォロワーは欲しい」という一言に自虐と誠実さが同居していた点にあると考えられます。
フォロワー数の少なさをあえて口にする企業アカウントは多くありません。
加えて、引用ツイートの多くが「懐かしい」「愛用している」という一次体験の語りだった点も見逃せないでしょう。
企業アカウントの投稿がどこまで広がるかは、フォロワー数やキャンペーンの規模だけでなく、ユーザー自身の体験談を引き出せるかどうかにも左右されると言えそうです。
数字の桁が本文と食い違っていた点は気になりますが、それを補って余りある「愛され方」がこの投稿にはあったのではないでしょうか。
まとめ
128年前に生まれた墨汁メーカーの、宣伝色の薄い誕生日投稿。
「128万表示」という自己申告と、パイプラインが実際に確認できた表示回数のギャップは、SNS上で見かける数字をどう読むかを考えるきっかけになりそうです。
数字の真偽はさておき、書道と漫画という異なる現場で長く使われてきた製品への愛着が、多くの「墨の民」を動かしたことは間違いなさそうです。
さらに深掘りしたい方へ
- 開明株式会社「まんが墨汁」紹介ページ — 漫画専用インクとしての開明墨汁の特徴を公式サイトで確認できます
- 開明とぺんてる、墨汁の世界市場展開を目指し資本業務提携を発表(PR TIMES) — 開明が現在も事業展開を続けていることが分かる一次情報です