「一切許諾したことはなく」170年蔵元の抗議、フォロワー108人の本物——この1ヶ月、SNSで相次いだ”確認不足”のツケ【編集部まとめ】
「一切許諾したことはなく、今後も許諾する意向はございません」。
創業170年を超える新潟の酒蔵が、9月にそう言い切りました。
同じ月、フォロワー108人の本物と2.3万人の偽物が並び立ち、消えたはずの青い鳥ロゴがアメリカで息を吹き返しています。
この1ヶ月に公開した記事を並べ直すと、「それ、本当に許可されているのか」「それ、本物なのか」を確かめる動きが、業種もジャンルも越えて繰り返し起きていたことが見えてきました。
SNSでコラボや引用を企画・拡散する立場の人にとっても、他人事ではない話です。
先に結論をまとめると:
– 無許諾コラボ、ファンアート規制、企業の”関わり”批判、なりすまし、商標訴訟——形は違っても「許可・権利・本物性の確認不足」がこの1ヶ月のSNSで繰り返し露呈しました
– 確認を怠っていたのは告知する側だけではなく、拡散する側・受け取る側にもそれぞれ落とし穴がありました
– 明日からできることは「コラボ告知を見たら一次情報の許諾表明を探す」「自社ブランドの許容ラインまで言語化する」の2点です
いま、SNSの「許諾・権利・本物性」に何が起きているのか
この1ヶ月、shiritomo SNSが公開した記事を並べ直すと、業種も規模もバラバラな7つの出来事に、同じ構造が繰り返し現れていることに気づきます。
「許可されているはずだと思っていた」「権利を守るために言葉にした」「本物だと信じて疑わなかった」——立場も温度も違う7つの物語が、結局は同じ一点を確かめようとしていました。
きっかけは実にさまざまです。
「LDHは降りたのに東大は総長が出るんだぜ」という一投稿がジャンルを超えたファンダムを動かしたケースもあれば、170年の歴史を持つ酒蔵が弁護士を立てるまでに発展したVTuberコラボ日本酒の一件もあります。
共通しているのは、告知した側・拡散した側・受け取った側のうち、誰か一人でも一次情報を確かめていれば防げた混乱だったという点です。
ここからは、規模の小さい個人のなりすましの話から、170年蔵元が動いた大きな話まで、時系列に沿って7つの出来事を見ていきます。
この1ヶ月、SNSで暴かれた7つの許可・権利トラブル
1. フォロワー108人の本物と2.3万人の偽物、見た目の信頼だけでは見抜けなかった理由
料理研究家・リュウジさんの名前を語ったFacebookページは、投稿数2,234件・本人確認済みを示す青いチェックマーク付きで、本人の108人という数字よりはるかに”信頼できそう”に見えていました。
友人からの「これ偽物だよね?」という一言がなければ、本人すら気づけなかったかもしれません。
同業の料理家が「本物だと思っていた」と証言するほど作り込まれていた点は、次に紹介する「にゅスニーカー」の”なんとなくの信頼”とも重なります。
フォロワー数や投稿の見た目という、本来なら安心材料になるはずの要素が、なりすましでは逆に警戒心を緩める道具に変わっていました。
編集部が引っかかったのは、なりすまし自体は罪に問われないという点です。
行為の中身次第で名誉毀損罪や不正アクセス禁止法違反に問われる可能性はありますが、まずは「見つけて通報する」以外に打つ手がない、という構造そのものが今回のシリーズを通じて繰り返し見えてきます。
2. 「所ジョージに許諾を得て」と思い込まれた靴、実は本人も蔵元も一切関与なし
ニューバランスの「N」をひらがなの「にゅ」に変えた”にゅスニーカー”は、所ジョージさんが番組で語った遊びのアイデアが元ネタです。
ただし実際に商品化したのは無関係の靴ブランドSANGACIOで、本人からの許諾はありません。
Xで繰り返し「所ジョージ監修では」という誤解が再生産される背景には、限定生産で入手しづらい商品ほど「知る人ぞ知る公式コラボ」に見えやすい、という構造があります。
ブランド側は公式サイトで無関係を明言していますが、その否定文はX上の会話にほとんど届いていませんでした。
この”届かない否定”は、後半のVTuber日本酒の事例でも同じ形で繰り返されます。
3. 独立発表の翌日にInstagramが消えた大平祥生、「不具合」の伝え方が示した誠実さ
事務所からの独立を発表した翌日、大平祥生さんのInstagramが一時的に閲覧できなくなりました。
3日後の8月24日、原因を詳しく説明せず「不具合」とだけ伝え、心配をかけたことへの謝罪に重心を置いた復旧報告を投稿すると、数時間で1,392件のいいねが集まっています。
独立というキャリアの転換点の直後だったからこそ、ファンは普段以上に本人の一挙一動を注視していました。
ここでの”権利”は他社との許諾ではなく、事務所を離れた個人がどこまで自分のアカウントを自分の言葉で説明できるかという、発信チャネルの所有権に近い話です。
広報担当を介さず自分の言葉で状況を伝えたことが批判ではなく応援を呼んだという点は、後述する企業アカウントの権利保護方針とは対照的です。
4. 消えたはずの青い鳥ロゴが”Twitter.now”として復活、Xが提訴した理由
イーロン・マスク氏が「X」への改名で捨てたはずの名前とロゴを、バージニア州の無関係なスタートアップが2026年8月24日、自社SNSとして世に出しました。
名前は「Twitter.now」です。
根拠は「ブランドを一定期間使わなければ商標権を失う」という法理論です。
申し立て文書は「Twitterの鳥は地に落ちた」とまで言い切りましたが、X側は「Twitterは今もXの資産」として提訴し、係争は続いています。
2026年4月の審理では裁判官が「Xは権利を手放したと見られる」との暫定判断を示したものの、正式な判決はまだ出ていません。
ブランドの改名や撤退が本当に権利の放棄を意味するのかどうか——この問いは、次に紹介する企業の「関わり」批判にも形を変えて表れます。
5. 「LDHは降りたのに東大は総長が出るんだぜ」——1つの登壇予定がファンダムを横断させた理由
SUZURIを運営するGMOインターネットグループのカンファレンスに、軍事・政府向けAI企業パランティアのCEOが登壇予定だと分かると、同じ舞台に立つ予定だったLDH JAPANのEXILE HIROさんの出演見合わせにつながりました。
発端の投稿は1,700件を超えるいいねを集めています。
興味深いのは、声を上げたのがLDHファンだけではなかった点です。
「軍事・政府向けAI企業と、自分たちが応援するコンテンツが同じ舞台に立つこと」への抵抗感は、SUZURIを使う別ジャンルのクリエイターたちの間にも広がりました。
自分のアカウントやショップを他社のプラットフォームに乗せている以上、運営元がどんな企業と付き合っているかは、いつか自分の活動にも跳ね返ってくる——という感覚が、ジャンルを超えた連帯を生んだ形です。
「関わり」そのものへの許容ラインが問われた今回に対し、次の事例では逆に、自分たちの権利をどこまで明文化して守るかが問われました。
6. 「権利保護声明の内容の方が厳しいよ」——複数アーティストが一斉に出した権利保護方針の余白
M!LKや超特急、EBiDANに連なるアーティストたちの公式Xアカウントが9月4日、示し合わせたように同じ文面の「権利保護方針」を投稿しました。
柱は誹謗中傷・プライバシー侵害の禁止、無断での肖像・著作物使用の禁止、SNS投稿の無断転載・加工の禁止の3つで、AIの学習データとしての利用も無断使用の一例に明記されています。
方針を茶化したファンの「EBiDANの権利保護声明の内容の方が厳しいよ」という投稿は、公開から1日足らずで6,000件を超えるいいねを集めました。
ただし方針文は「禁止されること」を並べる構成で、感想投稿や公式のリポストが問題ないかという許容ラインには触れていません。
法律の専門家も「一方的な宣言だけでは学習行為を止める力を持たない」と指摘しており、方針そのものより運用の余白が課題として残っています。
権利を”言葉にして示す”ことの効果と限界は、最後に紹介する日本酒コラボの事例で、より深刻な形で表面化します。
7. 170年蔵元が弁護士を立てた「VTuberコラボ日本酒」、3者の言い分がすれ違った理由
神田明神納涼祭りと連動して売られていた「VTuberコラボ日本酒」は、18組・20人のVTuberの限定ラベルを掲げてSNSでの拡散を追い風に受注を伸ばしていました。
ところが商品を製造したはずの蔵元・諸橋酒造は「これまで弊社では一切許諾したことはなく、今後も許諾する意向はございません」と発表し、弁護士に依頼して対応する事態に発展しました。
主催の「絶品グルメ屋台の会」はプレスリリースで蔵元名を明記して告知しており、曖昧な企画ではなかった点が事態をより複雑にしています。
神田明神も「確認・許可した範囲は境内でのプロモーションと名称・ロゴの使用に限られる」と一線を引き、祭りの名前を貸した側・企画した側・酒を造った側それぞれの認識がすれ違ったまま、9月3日に新規受注が止まりました。
1847年創業、170年以上の歴史を持つ蔵元が公の場に声明を出す事態にまで発展したこの一件は、今回取り上げた7つの中でもっとも「確認不足のコスト」が大きかった例だといえそうです。
7つの事例を1枚にまとめると
| 事例 | 数字 | 効いたもの |
|---|---|---|
| 偽リュウジ(なりすまし) | 本物108人 vs 偽者2.3万人 | 見た目の作り込み(投稿数2,234件・認証バッジ) |
| にゅスニーカー | 価格2万5000円前後 | 限定生産ゆえの「知る人ぞ知る公式コラボ」感 |
| 大平祥生Instagram | 1,392いいね・142リポスト | 独立直後というタイミングと丁寧な伝え方 |
| Twitter.now | 2026年8月24日ローンチ | 商標放棄理論という法律の隙間 |
| GMO大会議 | 1,700件超のいいね | ジャンルを超えたファンダムの連帯 |
| 権利保護方針一斉発表 | 6,000件超のいいね・約14万インプレッション | 「禁止」だけで「許容」を示さない構成 |
| VTuber日本酒 | 18組20人分のラベル、創業170年超 | 3者それぞれの「許可した範囲」の食い違い |
Shiritomo編集部の考察:明日からやることは2つ
7つの事例を並べて見えてきたのは、「許可されているはず」という思い込みが、告知する側にも拡散する側にも同じ強さで働いているという点です。
VTuber日本酒の主催者はプレスリリースで蔵元名を明記していましたが、それが「許諾を得た証拠」だと受け取る側の早合点を止められませんでした。
M!LK・超特急の権利保護方針も、禁止事項を並べるだけでは「どこまでが安全か」を教えてくれません。
明日からできることは2つあります。
1つは、コラボ企画やタイアップを告知・拡散する前に、関係者の公式アカウントやサイトで許諾表明が実際にあるかを一次情報で確認することです。
もう1つは、自社ブランドを運用しているなら「禁止事項」だけでなく「ここまでは許容する」というラインまで言語化しておくことです。
なりすまし対策としては、フォロワー数や認証バッジを鵜呑みにせず、本人の別チャネルでの言及を探す癖をつけるのも有効でしょう。
まとめ
「許可されているはず」という思い込みは、告知する側にも受け取る側にも等しく忍び寄ります。
次にコラボ告知やSNS上の”公式らしさ”を目にしたときは、まず一次情報を確認する——それだけで、この1ヶ月分の混乱の多くは防げたはずです。






