「完全になくなりました」——生成AIで企業向け音楽制作の仕事が消えた作曲家の告白が話題
CMのBGMや企業イベントの音楽——そういった「なくてはならないけれど、誰が作ったかはあまり気にされない」仕事は、実は大勢の音楽クリエイターを支えてきました。
その仕事が、生成AIの登場でぱったりなくなった。
2026年6月11日、作曲家YouTuberのモロズミイクコさん(チャンネル登録者数2,000人)が「【衝撃実話】AIで仕事がなくなりました」と題した動画を公開しました。
CMや広告、企業イベント会場のインスタレーション(展示作品への音楽付け)、BGM制作といった企業向け案件が、生成AIの導入によって完全になくなったことを詳しく打ち明けた動画です。
Xでこの動画が広まり、同じ境遇のクリエイターから共感が集まっています。
議論はいまも続いています。
https://x.com/ytranking/status/2065352152898269457
プロの仕事を直撃した「気づかれない品質」
モロズミさんが動画の中で語ったのは、「企業がAIを導入した」というシンプルな事実だけではありませんでした。
問題は、その音質クオリティーにあります。
「普通の人だったらAIかどうか気がつかないレベル」——そう語るモロズミさんの言葉が、今の生成AI音楽の到達点を端的に示しています。
発注側の企業から見れば、コストが大幅に下がり、制作スピードも上がる。
「AIと気づかれない品質」であれば、外注先を人間の作曲家からAIツールへ切り替えない理由がありません。
プロのDTM(デスクトップミュージック:パソコンを使って音楽を制作すること)スクールでさえ、AI作曲コースを設置し始めているといいます。
プロフェッショナルの現場で「フレーズやトラックの一部をAIで生成して使う」ことも、すでに当たり前になっているとのことです。

モロズミさんは「モチベーションがめちゃくちゃ下がりました」と正直に吐露しつつも、「AI作曲を否定するだけの時期ではなくなってきてる」として、「AIを味方につけて何ができるかを考えていく」という前向きな姿勢も示しています。
この率直な言葉が、多くのクリエイターの共感を呼びました。
業界データが示す「構造的な変化」
この話が「個人の不運」ではなく「業界全体の構造変化」であることは、国際的なデータも裏づけています。
著作権協会の国際連合であるCISAC(国際著作権管理団体連合)の試算によると、生成AIの普及により、音楽クリエイターが2024年から2028年の5年間で失う収入は、累計100億ユーロ(日本円換算で約1.6兆円)に達する見込みです。
2028年単年でも40億ユーロの損失が見込まれており、同年には生成AI音楽サービスの売上高がほぼ同水準に達するとされています。
つまり、クリエイターが失う分だけ、AIサービス企業が利益を得るという構図が数字として現れています。
さらに翌6月12日には、JASRAC(日本音楽著作権協会)が生成AI音楽に関するガイドラインを公表しました。
AIが自律的に生成した楽曲——人間の創作的な関与がないもの——は著作権管理の対象外とする方針です。
逆にいえば、「人間が歌詞を書いてAIが作曲した」ケースはJASRACが管理するとも明言しています。
この判断は「AIが作った曲はそもそも著作権で守られにくい」という現実を制度が追認するものでもあり、AIツールを使いやすくなる一方で、作曲家の収入源となってきた「楽曲の権利」が希薄化する方向でもあります。

Xに広がる「同じ思いをした人たちの声」
Xではこの動画の話題をきっかけに、クリエイターたちの複雑な声が集まりました。
「Web CMくらいのクオリティーなら、もうAIで十分。
プロが手がけるのは本当に高品質なものだけになる」という実務的な指摘。
「産業革命の時も同じことが起きた。
新しいスキルを取りに行くしかない」という歴史的観点からの投稿。
「AIに学習させるために使われた楽曲の権利問題はどうなるんだ」という法的視点の懸念。
ひとくちに「生成AI反対」「受け入れるべき」と言えない複雑さが、この話題の特徴です。
AIを拒否することで仕事が来なくなるリスクと、AIを受け入れることで自分の存在意義が薄れていくジレンマ——モロズミさんが「AIを味方につけて考えていく」という言葉を選んだ背景には、こうした現実との折り合いがあるように思えます。
さらに深掘りしたい方へ
- JASRAC「AI作曲・人間作詞」の曲は管理します——「人間の創作的寄与の有無」で線引き(ITmedia NEWS)
- 音楽クリエーター、生成AIで1.6兆円の損失も 今後5年で(Musicman)
- プロ音楽家たちはAIツールをどう見ているのか(サンレコ)
SocialReport編集部の考察
今回の話題が示すのは、「AIが人の仕事を奪う」という抽象的な議論が、特定の職種で具体的な現実となりはじめたということです。
注目すべきは、被害が「大企業向けの高予算コンテンツ」ではなく、「BtoB向けの量産型BGM制作」という比較的認知度が低い市場から先に起きている点です。
企業がAIツールを導入する際、最初に置き換えるのは「誰が作ったか見えにくい・こだわりが求められにくい」コンテンツ——これはSNSマーケティングにも共通するダイナミクスです。
SocialReportのデータ分析でも、エンゲージメント率の高い投稿と低い投稿の差は「クリエイターの個性・文脈・語り口」にあることが多いです。
AIが「そこそこ良い」コンテンツを大量生成できる時代には、「この人だから読みたい」という差別化がより強く問われるようになります。
モロズミさんが「AIを味方につけて何ができるか考えていく」と語ったことは、クリエイターのサバイバル戦略として正しい方向性でしょう。
一方でSNS運用担当者の視点でいえば、「AI生成コンテンツに埋もれない発信とは何か」を問い直すタイミングでもあります。
生成AIが「量産の担い手」になるほど、人間の「一点モノの語り口」の価値は相対的に上がる——この逆説を、音楽業界の事例が改めて教えてくれています。
まとめ
「普通の人には気づかれないクオリティー」に達した生成AI音楽は、企業向けBGM制作という市場を静かに、しかし着実に変えています。
モロズミイクコさんの告白は一人の作曲家の体験談ですが、AIがクリエイターの仕事をどう変えるのかを考えるうえで、身近なケーススタディとなっています。

