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ナレッジワーク35億円調達の裏側 出資者にVCではなく事業会社が並ぶ理由

Shiritomo編集部 @shiritomoAI_jp 2026年8月4日 更新
ナレッジワーク35億円調達の裏側 出資者にVCではなく事業会社が並ぶ理由

35億円。
ナレッジワークが8月4日に発表した、シリーズC 1stクローズでの資金調達額です。
出資したのはリコージャパン、三井住友銀行、三井住友信託銀行、キヤノンマーケティングジャパン、電通グループ、博報堂など、新たに加わった10の事業会社。
ベンチャーキャピタル主導ではなく、大手事業会社が名を連ねる調達は、この会社が単なる資金確保を目指しているわけではないことをうかがわせます。
同じタイミングで、営業活動をAIエージェントに任せるための基盤「セールスAIエージェントOS」の提供開始も発表されました。
AI活用やスタートアップの動向を追っている方にとって、なぜ大手企業がこれほど一斉に手を組んだのかは気になるところです。
今回は発表の中身と、事業会社が並ぶ背景を調べてみました。

先に結論をまとめると:
– ナレッジワークは第三者割当増資で35億円を調達し、シリーズC 1stクローズと位置づけました。
第三者割当増資の累計調達額は約97億円に達しています
– リコージャパンなど新規の事業会社10社が出資し、リコージャパンとは資本業務提携も締結しました
– 調達資金は「フォワード・デプロイド・エンジニア(FDE:顧客先に常駐してAI導入を支援する専門人材)」やコンサル人材の増員に充てられ、今後3年で100〜150人規模の採用を計画しています

発表の中身:資金調達とAIエージェントOS、二つの発表が同時に来た理由

ナレッジワークは、営業担当者向けにナレッジ共有や商談準備を支援するSaaS(クラウド経由で使うソフトウェア)として2020年に創業した会社です。
今回の発表は「セールスAIエージェントOSの提供開始」と「シリーズC 1stクローズでの35億円調達」という、性質の異なる二つのニュースが同日に重なった形になっています。

セールスAIエージェントOSは、営業支援を目的としたAIエージェント(人に代わって特定の業務を自律的にこなすAIプログラム)を、精度高く・素早く・使いやすい形で企業に届けるための基盤という位置づけです。
同社はすでに「セールスAXコンサルティング」「セールスAIプロダクト」という2つの柱を展開しており、そこに技術基盤としてのOSが加わったことで、コンサルティングから実装、運用までを一気通貫で提供できる体制が整ったことになります。
CEOの麻野耕司氏はAIの追い風を強く感じているとされ、投資家からも成長ペースの評価を得たと伝えられています。
ただ、この二つの発表を並べただけでは、なぜ事業会社ばかりが出資に応じたのかまでは見えてきません。
そこで一次情報を確かめてみました。

なぜ投資家がVCではなく事業会社ばかりなのか?

日本経済新聞の報道によると、今回の35億円調達には、リコージャパン、三井住友銀行、三井住友信託銀行が本体から出資したほか、キヤノンマーケティングジャパンや電通グループ、博報堂などがコーポレートベンチャーキャピタル(CVC:事業会社が自己資金で運営する投資ファンド)やファンドを通じて出資しています。
加えて、既存投資家であるグロービス・キャピタル・パートナーズとDNXベンチャーズも追加出資に応じました。

さらに8月3日には、NTTドコモ・ベンチャーズが単独でナレッジワークへの出資を発表しています。
同社のプレスリリースでは、営業活動全般をAIで変革するナレッジワークとの間に「将来的な事業シナジーを生み出せる」と出資の理由を説明しています。
銀行、通信、印刷機器、広告代理店と業種の異なる企業が同時期に出資に動いた背景には、それぞれの顧客基盤にナレッジワークの営業AIを展開したいという、販路としての期待があるようです。

リコーとの資本業務提携で何が変わるのか?

同日発表されたのが、リコージャパンとの資本業務提携です。
麻野CEOは提携の狙いについて「単独ではリーチできない顧客に一緒にサービスを届けることが提携の主目的になる」と説明しています。
具体的には、リコージャパンがナレッジワークの製品を顧客に提案するほか、AIを組み込んだソリューションの共同開発も検討する計画です。
年内をめどにAI活用サービスの提供を始め、2030年度までに約3000社への展開を目指すとしています。

これは単発の販売代理契約ではなく、リコージャパンの全国的な営業網をそのままナレッジワークの販路として使う発想に近いものです。
自社だけでは届かない中堅・中小企業の商圏を、既に取引関係のある事業会社の力で埋めていく戦略と言えそうです。

調達資金は何に使われるのか?

調達した資金の主な使い道として挙げられているのが、FDEやコンサル人材の増員です。
今後3年で100〜150人程度を採用する計画があるとされ、単にソフトウェアを売るのではなく、顧客企業に人が入り込んでAI導入を伴走支援する体制を強化する狙いがうかがえます。

展開先の業界としては、自動車販売、保険、不動産といったBtoC(個人向け)業界への販路拡大が挙げられています。
これらの業界は営業担当者ごとの提案スキルの差が成果に直結しやすく、ナレッジワークが課題として掲げてきた「商談品質のばらつき」や「組織内の営業ノウハウの未活用」がそのまま当てはまる領域です。
SaaS単体の販売から、コンサルティング人材を伴う導入支援へと軸足を移している様子が、資金の使途からも読み取れます。

Shiritomo編集部の考察:出資構造は事業会社の危機感の裏返し

ここまで見てきた出資者の顔ぶれは、AIスタートアップへの投資動向を読むうえで示唆に富んでいます。
銀行・通信・印刷機器・広告代理店という、本業も顧客層も異なる大手企業が横並びで出資したのは、自社の営業組織や既存顧客にAIエージェントを組み込む主導権を、外部のプラットフォームに握られたくないという危機感の表れではないでしょうか。

SNSやAI活用の文脈で見ても、似た構図は他業界でも起き始めています。
特定領域に特化した「垂直型AIエージェント」を提供するスタートアップに、業界大手が資本参加して自社の販売網に載せる動きは、コンサルティング・不動産・人材といった対面商談が重要な業界で今後も広がる可能性があります。
マーケターやAI活用担当者にとっては、単に「どのAIツールが優れているか」ではなく、「どの事業会社と提携しているAIか」が導入判断の材料になる時代が近づいていると捉えておくとよさそうです。

まとめ

ナレッジワークの35億円調達は、単なる資金調達のニュースではなく、事業会社が顧客接点を握るAIエージェントに資本ごと乗り出し始めたことを示す事例と言えます。
SaaSからAIカンパニーへの転換を掲げる同社の今後の展開は、営業支援AIの業界地図を占ううえでも注視する価値がありそうです。

さらに深掘りしたい方へ

今回の発表についてより詳しく知りたい方は、以下の一次情報もあわせてご確認ください。