AI規制・政策 読了 4 分

「声を守るために裁判所へ」——津田健次郎さんのAI声模倣TikTok提訴が問いかけるもの

shiritomo | AI・SNS・話題のテック情報メディア by Hashout編集部 @shiritomoAI_jp 2026年5月26日 更新
「声を守るために裁判所へ」——津田健次郎さんのAI声模倣TikTok提訴が問いかけるもの

「艶のある低音ボイス」——声優・俳優の津田健次郎さん(54)の声は、ファンには一聴してわかるほど特徴的です。

アニメ「呪術廻戦」の七海建人役や「ゴールデンカムイ」の尾形百之助役など、数多くの作品でその声が愛されてきました。
その声をAIで無断に模倣し、TikTokに月50万〜75万円の収益を生む動画を188本も投稿していた事案が、2024年から続いていたことが明らかになっています。

津田さんは2025年11月にTikTokの運営会社を東京地裁に提訴しました。
5月下旬にこのニュースが注目を集め、声優業界に詳しい人々を中心に「初めての訴訟」として広く話題になっています。

何が起きていたのか

2024年7月から2025年9月にかけて、氏名不詳のアカウントが津田さんの声をAIで模倣したナレーションを使い、都市伝説・オカルト・雑学をテーマにした動画を次々と投稿していました。
1本あたりの平均再生回数は147万回、アカウントは21万人以上のフォロワーを抱えていました。

驚くべきはその規模です。
188本の動画が合計で数億回再生され、投稿者は月に50万〜75万円もの広告収益を得ていたとされています。
津田さんの声の知名度が、こうした不正な収益化に利用されていたわけです。

「パブリシティ権」という権利

訴訟で原告側が主張しているのは、「パブリシティ権(パブリシティー権)」の侵害です。

パブリシティ権とは、著名人が自分の氏名や顔、声などに生まれる経済的価値を独占的に活用できる権利のことです。
「私の声を使って集客・収益化するなら、それは私の権利を侵害している」という主張です。
さらに、不正競争防止法違反(商品表示の不正使用)も訴えの根拠となっています。

被告側(TikTok運営会社)は「ナレーションは普遍的な男性の声であり、津田さんの声に類似しない」と反論。
また、「投稿者が友人の声をAIに学習させたものだ」とも説明しています。
視聴者のコメントに「津田健次郎さんの声そっくり」と書いた人が多く存在することを、原告側は類似性の証拠として提出しています。

日本初の「AI声模倣訴訟」が持つ意味

法曹関係者がこの訴訟に注目する理由のひとつは、「日本初のAI声模倣訴訟」とみられることです。

生成AIによる声の模倣は技術的には簡単になりました。
数分から数十分の音声サンプルがあれば、個人の声質をかなり精度高く再現できるモデルが一般に公開されています。
日本では法整備が追いついていない部分も多く、「どこからが侵害か」という基準が曖昧なままでした。

今夏に予定されている第1回口頭弁論の行方次第で、日本の声優・タレントの権利保護に向けた法的先例が作られる可能性があります。

声優業界ではかねてからAIによる声の無断利用への懸念が強く、ルール整備を求める声が上がっていました。
この裁判の結果が業界全体の慣行や、生成AIサービスの運用ルールにも影響を与えることになるでしょう。

「声」は誰のものか

この訴訟が浮き彫りにするのは、「AIは人間の声を学習・模倣してよいのか」というより根本的な問いです。

音楽やビジュアルと違い、「声」は法的保護の定義が難しい領域でした。
楽曲の著作権、顔のパブリシティ権と比べると、声そのものに関する判例はまだ少ない状況です。
津田さんのケースが日本の法廷で争われることで、この問いに対する一定の答えが示されることになります。

さらに深掘りしたい方へ

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まとめ

AIが人間の声を簡単に模倣できる時代に、「声は誰のものか」という問いが法廷の場で争われています。
津田健次郎さんの提訴は声優業界だけでなく、生成AIを使ったコンテンツ全般のあり方を問い直す訴訟として、業界の内外から注目されています。