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2000年前の炭化巻物が「開かずに解読」された——AIとX線CTが成し遂げた歴史的快挙

shiritomo | AI・SNS・話題のテック情報メディア by Hashout編集部 @shiritomoAI_jp 2026年6月28日 更新
2000年前の炭化巻物が「開かずに解読」された——AIとX線CTが成し遂げた歴史的快挙

Xのタイムラインにこんな投稿が流れてきた瞬間、思わず二度見しました。

「火山灰に埋もれて炭化した古代ローマの巻物を広げることなく1巻丸ごと解読することに成功」

いいね数は2万4000件近く。
科学系のニュースとしては異例の拡散です。
最初は「どうせ一部の文字が読めた程度では」と思いながら調べ始めたのですが、調べれば調べるほど、これはとてつもない快挙だということがわかりました。

2万4000いいねを集めた投稿

2026年6月26日、XにGIGAZINEの記事を引用したこんな投稿が拡散しました。

話題の発端は同日に発表された研究成果です。
ヘルクラネウム(現在のイタリア・エルコラーノ)の古代遺跡から発掘された炭化パピルスの巻物「PHerc.1667」が、X線CTスキャンと機械学習によって、一度も「開くことなく」全文解読されました
2000年間誰も読めなかったものが、AIの力で初めて完全に読める状態になったのです。

米CNNやGizmodoも速報で取り上げ、英語圏でも同様に大きな反響を呼びました。

米地方テレビ局WKOWが「ヴェスヴィオ火山の噴火で燃え炭化したパピルスの巻物が、AIの助けを借りて仮想展開・部分解読された」と報じたこの投稿も、世界中のユーザーにリシェアされました。

「ヘルクラネウム文書」とは何か

少し背景を説明します。

「ヘルクラネウム文書」とは、西暦79年のヴェスヴィオ火山噴火で埋もれた古代都市ヘルクラネウム(ポンペイと同時期に被災した都市)の遺跡から出土したパピルスの巻物群のことです。
18世紀に「ピソの別荘」と呼ばれる場所から1800本以上が発掘されましたが、火山の高熱で炭化し、黒こげの炭の塊のようになっていました。

無理に広げようとするとバラバラに砕けてしまうため、18〜19世紀の研究者たちは特殊な道具で少しずつ剥がしながら解読を試みましたが、その過程で多くの巻物が損傷しました。
現在も600本以上が未開封のまま残っています。

「Vesuvius Challenge」という挑戦

そこで2023年に立ち上がったのが「Vesuvius Challenge(ヴェスヴィオ・チャレンジ)」です。

GitHub元CEOのナット・フリードマン、起業家のダニエル・グロス、ケンタッキー大学のブレント・シールズ博士の3名が共同で開始した、X線スキャンとAIを使って巻物を「開かずに解読する」オープンコンテストです。
世界中の研究者やエンジニアが参加でき、スキャンデータや解析コードはGitHubで公開されています。

2024年に最初の数段落が読めるようになり、2026年6月26日、ついに1巻全体の完全解読という歴史的なマイルストーンに到達しました。

どんな技術で「開かずに」解読したのか

今回の成果を可能にしたのは、3つの技術の組み合わせです。

まず高解像度X線スキャン
欧州シンクロトロン放射光施設(ESRF)と英国Diamond Light Sourceが提供する、医療用CTスキャンより格段に高精細な装置を使用します。
巻物1本のスキャンで最大300テラバイト(一般的なノートPCのストレージ約200台分)のデータが生成され、炭化した巻物の内部構造が3次元で記録されます。

次にインク検出AI(コンピュータービジョン)
炭化した紙の上に書かれた古代インクは炭素ベースのため、X線画像では紙と区別しにくいのですが、AIが微細な密度の違いを学習・検出します。

そして仮想展開技術
3Dデータをコンピューター上で仮想的に「展開」し、読める状態に変換します。
ブレント・シールズ博士チームが長年かけて開発してきた独自の手法です。

この3つが組み合わさることで、物理的に触れることなく、2000年以上前の文字が初めて読める状態に復元されたのです。

解読された内容——ストア哲学者の肉声

PHerc.1667から読み取れたのは、約4.6フィート(約1.4メートル)の連続したテキストと22列のギリシア語文章です。

内容はストア派の倫理哲学書でした。
ストア派(ストイシズム)とは「感情に流されず、理性に従った行動こそが善」を説く古代ギリシアの哲学流派で、現代のマインドフルネスや認知行動療法の思想的ルーツとも言われています。

解読されたテキストは、人間の本性、道徳的衝動(hormē:行動への内なる動機)、実践的知恵(phronēsis:状況に応じた判断力)について論じています。
文中には「アリストクレオン」という古代の学者の名前が登場することから、ストア哲学の集大成者・クリュシッポスの周辺で書かれた可能性が高いとされています。

ブレント・シールズ博士はGizmodoの取材でこう語りました。
「1年前は、こんな形で1巻丸ごと完全解読できるとは、誰も想像していませんでした」。

残り600本以上の「沈黙した声」が待っている

今回解読されたPHerc.1667は、ヘルクラネウム文書のほんの一部です。
別の巻物からは、古代の哲学者フィロデモス(フィロデモス:紀元前1世紀のエピクロス派哲学者)の大著に関する新たな発見もあったと報告されています。

Vesuvius Challengeチームは残り600本以上の未解読巻物の解読を加速させる計画を進めており、2000年前の人々の声が、これからも次々と現代に届いてくる可能性があります。

さらに深掘りしたい方へ

SocialReport編集部の考察

今回のニュースがX上で2万4000いいねを集めた背景には、テクノロジーへの驚きと「人類の失われた記憶が蘇る」という感動が同時に存在していました。

SocialReport編集部として特に注目したいのは、この発見の「オープンサイエンス」の設計思想です。
Vesuvius Challengeはコンテスト形式で、世界中の研究者・エンジニアが参加し、X線スキャンデータやコードをGitHubで公開しながら進める透明な仕組みを採っています。
この開放性と参加型の構造が、発見のスピードを劇的に加速させました。
わずか3年で「一部の文字が読めた」から「1巻丸ごと完全解読」へと到達したのは、閉じた研究チームでは決して実現しなかったでしょう。

SNSマーケティングの観点でも示唆があります。
「AIが古代文書を解読した」というニュースは、テクノロジー系の発表の中でも特に拡散力が高い。
「すごいものを共有したい」「この感動を知っていてほしい」という人間の本能に直接訴えるからです。
スペックや性能を語るより、「何が初めて可能になったか」「何が変わったか」という変化の文脈で伝えること——これがエンゲージメントを高める重要な鍵になります。
今回の2万4000いいねは、まさにその好例です。

まとめ

2026年6月、AIとX線CTスキャンの力で、ヴェスヴィオ火山に埋もれた2000年前の炭化巻物「PHerc.1667」が初めて完全解読されました。
内容はストア派哲学の倫理書。
600本以上の未開封巻物がまだ残っており、人類の失われた知識の扉はこれからも開かれていきます。