ソフトバンク主導の国産AI新会社「Noetra」に44社が結集――経産省が3873億円支援へ
44社。
製造業28社、非製造業16社。
ソフトバンクが設立した新会社「Noetra(ノエトラ)」に、これほどの企業群が出資する体制が6月30日に明らかになりました。
国産AIをめぐる話題は以前からありましたが、経産省が2026年度の開発委託費として3873億円を支援すると赤沢亮正経済産業相が正式発表したことで、一気に現実感が増しています。
Noetraはもともと「日本AI基盤モデル開発」という社名で2026年4月に設立された会社です。
ソフトバンク・NEC・ホンダ・ソニーグループが中核を担い、三菱UFJ銀行・三井住友銀行・みずほ銀行・日本製鉄・神戸製鋼所なども出資しています。
今回の発表で、日立製作所・東芝・楽天グループなど35社が7月中旬にも新たに出資を加える見通しとなり、出資総額は10億円を超えると予想されています。
目標は、パラメータ数(AIが学習によって獲得する変数の総数)で国内最大規模の1兆を達成する基盤モデルの開発です。
言語だけでなく画像・動画・音声を組み合わせた「マルチモーダル(複数の種類のデータを同時に扱う)」対応で、2027年度までの構築を計画しています。
X上で広がった「44社連合」への注目
日本経済新聞が「国産AIを44社連合で開発へ」と報じると、Xでも話題が広がりました。

各社はソフトバンクが設立したNoetra(ノエトラ、旧日本AI基盤モデル開発)に出資との事。
— ろてじん (@rotejin) 2026年6月29日
国産AIを44社連合で開発へ、官民でフィジカルAI推進 社名一覧 – 日本経済新聞 https://t.co/d6BXzBxhkM
ロボットや工場設備を自律的に動かす「フィジカルAI」という概念が注目を集めており、製造業が主体的に関与している点が「今回は本気度が違う」と評価される背景にもなっています。
また、日経電子版でのソフトバンク設立当初の報道ツイートも多くシェアされました。
ソフトバンクが国産AIの新会社設立、NECやホンダなど8社出資https://t.co/dZyJnO662M
— 日本経済新聞 電子版(日経電子版) (@nikkei) 2026年4月12日
一方で、ユーザーからは「40社超の連合では意思決定が遅くなるのでは」「技術力で米中を追いかけるのは現実的か」という冷静な声も寄せられています。
巨大プロジェクトへの期待と懸念が入り混じった反応が、この案件への関心の高さを示しています。
「フィジカルAI」とは何か
ChatGPTのような生成AI(テキスト・画像・動画などをデジタル空間で生成するAI)と異なり、フィジカルAIは現実の物理世界でロボットや機械を自律制御することを目的とします。
工場の生産ラインで異常を検知して設備を止める、建設現場の重機が自律的に土砂を運ぶ、倉庫の搬送ロボットがリアルタイムで最適ルートを判断する——こうした「現場での自律判断」がフィジカルAIの領域です。
Noetraが開発する基盤モデルは、製造業が長年蓄積してきた設備稼働データや工程データを学習することで、汎用のAIモデルでは対応しにくい産業現場の知識を取り込む設計が想定されています。
NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構:経産省所管の国立研究開発法人)が公募した「AIロボット・フィジカルAIを見据えたマルチモーダル基盤モデル開発事業」に採択されたのがNoetraで、開発費は5年間で計1兆円規模が見込まれています。
2026年度分として確定した3873億円は、事業費の全額を国が委託する形(100%助成)という異例の手厚さです。

ソフトバンク堺工場が担うインフラ
ソフトバンクは2025年に旧シャープの堺市液晶パネル工場を取得し、「大阪堺AIデータセンター(仮称)」の整備を進めています。
敷地面積は約44万平方メートル、受電容量は約150メガワット規模で、2025年中の本格稼働が予定されています。
このデータセンターがNoetraのAI学習基盤として活用される計画です。
さらにソフトバンクは2027年度から同拠点でAIサーバーの国産製造にも参入する方針を示しています。
NVIDIAや台湾・鴻海精密工業(フォックスコン)と設計・生産に関する協議を始めており、将来的には官公庁や国内企業への外販も視野に入れているとされます。
AIの頭脳(モデル)だけでなく、計算インフラごと国産化するという構想です。
「国産」にこだわる理由
なぜ44社もの企業が連携してまで国産AIにこだわるのでしょうか。
背景にあるのは「データ主権」という問題です。
工場の生産データ・設備の稼働ログ・品質管理の記録などは、製造業にとって競争力の源泉です。
海外製のAIにこれらを学習させると、機密情報が国外のサービス事業者に渡るリスクが生じます。
国産の基盤モデルであれば、日本国内のデータセンターで閉じた環境として管理できます。
また自民党の政策提言では「純国産は非現実的」との意見も出ており、国産AI開発については賛否が割れています。
Noetraが製造・運輸・建設という「日本が強みを持つ産業現場」に特化した設計を採用している点は、こうした批判への現実的な答えとも読み取れます。
2030年度の商用実装に向け、各社が産業データを提供しながら実用性を高めていく進め方が計画されています。
さらに深掘りしたい方へ
- 国産AIを44社連合で開発へ、官民でフィジカルAI推進(日本経済新聞)
- 国産AI、ソフトバンク設立の新会社に3873億円支援へ 経産省(朝日新聞)
- AIロボット・フィジカルAIを見据えたマルチモーダル基盤モデル開発事業(NEDO公募)
Shiritomo AI 編集部の考察
今回のNoetraを巡る動きで注目したいのは、「誰が・何を・なぜ連れてきたか」という出資構造の読み方です。
44社の中で、日立・東芝・ホンダ・ソニーといった製造業大手が少額ながらも出資する意味は、単なる賛同の意思表示ではありません。
自社の工場データや機械制御ノウハウをAI学習に提供する「データ供給者」としての役割を果たすことになります。
AI開発において、最終的な精度を左右するのはモデルの規模だけでなく「何を学習させるか」です。
インターネット上の公開テキストを大量に食わせたモデルは汎用の知識は持てますが、特定産業の現場では使いづらい。
Noetraが目指す「産業データで鍛えた基盤モデル」は、まさにこの弱点を突く設計です。
44社の企業データが集まれば集まるほど、Noetraのモデルは競合が簡単には複製できない「産業現場の知恵」を蓄えていきます。
この「データの壁」こそが、米中の汎用モデルとの差別化ポイントになるかどうか、2027年の実装フェーズが一つの判断ポイントになるでしょう。
一方でリスクは意思決定コストです。
44社の利害を調整しながら5年間の開発ロードマップを実行するには、強いプロジェクト管理が欠かせません。
日本の大型官民連携プロジェクトが過去に直面してきた「委員会型の意思決定の遅さ」を、Noetraがどう回避するかは引き続き注視が必要です。
まとめ
ソフトバンクが主導する国産AI新会社「Noetra」への44社出資体制と経産省による3873億円の支援採択が、2026年6月30日に明らかになりました。
1兆パラメータ規模のフィジカルAI基盤モデルを2027年度までに構築し、2030年度の商用実装を目指すこのプロジェクトは、日本の産業データを武器に米中との差別化を図るという明確な戦略を持っています。
5年間の官民連携が実際の現場で成果を出せるか、今後の進捗が注目されます。