33グラム・64MBから始まった——元ソニー設計者が並べた歴代「スティックウォークマン」4台
本体だけで33グラム、持ち歩ける音楽はおよそ80分。
2000年6月に発売されたソニーの初代ネットワークウォークマン「NW-E3」の仕様です。
その棒状のプレーヤーから続く系譜をたどるような写真が、2026年7月18日にXで公開されました。
投稿したのは、ソニーでウォークマンの設計に携わっていた田中晃さん(@akiraa_tanaka)です。
木目のテーブルに並んだ4台には、いまのワイヤレスイヤホンやスマートウォッチにも通じる「画面を見ないで操作する」ための工夫が、形を変えて残っていました。
先に結論をまとめると:
– 並んでいるのはいずれも棒状の「スティック型」で、上端に回転式の金属スイッチを備えている
– スティック型の起点は2000年発売のNW-E3で、側面のシャトルスイッチによる片手操作が売りだった
– Eシリーズは2010年秋にプレートタイプへ一新され、スティック型はおよそ10年で主役の座を降りた
4台に共通する「回して押す」ためのスイッチ
写真に写っているのは、木目のテーブルに縦向きで並べられた4台のプレーヤーです。
3台はクリアな紫の筐体で、残る1台は細長い黒い表示部を持つ銀色のボディ。
大きさも世代もばらばらに見えますが、どの個体にも上端に回転式の金属スイッチが付いている点だけは共通しています。
歴代のスティックウォークマンを並べてみました。

ウォークマン #walkman
歴代のスティックウォークマンを並べてみました。#ウォークマン #walkman pic.twitter.com/Upl5Q4JMfZ
— 田中 晃 (@akiraa_tanaka) 2026年7月18日
いいねは公開から半日で1,700件を超え、現在は2,500件以上、表示回数は11万回を上回っています。
リプライ欄には「復刻してほしい」という声のほか、「もっとあったような……と調べたら、この4種類でもまだ足りないぐらい多かった」と、スティック型の機種数の多さに触れる投稿も見られました。
なお、投稿では個々の機種名までは触れられていません。
この記事でも、写真の4台がどの型番にあたるかの断定は避けています。
そのうえで気になるのは、世代が変わっても残り続けたあの丸いスイッチが何のためのものだったのか、という点です。
調べて分かったこと
投稿した田中さんはどんな人なのか?
田中さんはXのプロフィールで、自身を「元ソニーのウォークマン設計者(2025年2月末日に退職)であり、製品76台/カタログ279冊を所有するウォークマンマニア」と説明しています。
アカウントの開設は2025年5月で、フォロワーは1.8万人。
カセット・CD・MD・メモリーの各ウォークマンについて、型名・発売日・価格・当時の位置づけを1日に何本も投稿している、いわば歩く製品アーカイブのようなアカウントです。
自身が担当した製品も、固定ポストで年代順に公開されています。
私が担当したウォークマンです。
— 田中 晃 (@akiraa_tanaka) 2026年7月22日
【カセットウォークマン】
WM-EX9(1998)
WM-EX677(1998)
WM-EX20(1999)
WM-EX2000(2000)
WM-EX910(2000)
【CDウォークマン】
D-EJ1000(2001)
D-EJ955(2001)
D-EJ855(2001)
D-CJ01(2002)
D-EJ2000(2002)
D-EJ985(2002)
D-EJ885(2002)…
カセットウォークマンの「WM-EX9」(1998年)から始まり、CDウォークマンの「D-EJ1000」(2001年)、MDウォークマンの「MZ-RH1」(2006年)、メモリーウォークマンの「NW-A910」(2007年)など、アクセサリーを含めて40点近くが並びます。
メモリーウォークマンの担当機種には「NW-E020F」(2008年)や「NW-E040」(2009年)も含まれており、スティック型が現役だった最後の時期と重なります。
今回の写真は、単なるコレクションの紹介ではなく、自分が関わった製品カテゴリーを振り返る投稿でもあったわけです。

スティック型ウォークマンはどこから始まったのか?
ソニーの発表資料をさかのぼると、棒状のデジタルウォークマンの起点は2000年5月に発表され、同年6月10日に発売された「NW-E3」に行き着きます。
搭載メモリーは64MBのフラッシュメモリで、105kbpsなら約80分の記録が可能という仕様でした。
本体サイズは幅81mm・奥行き32mm・厚さ14.6mm、重さは本体のみで33グラム。
いまのワイヤレスイヤホンの充電ケース1個分ほどの重さに、音楽プレーヤーが丸ごと収まっていた計算になります。
MDやCDのように円盤を回す必要がなくなったことで、筐体は「手のひらに収まる板」ではなく「指でつまめる棒」になりました。
形が先に決まり、そこに操作系を載せる——スティック型の設計はこの順序だったといえます。
あの丸いスイッチは何のためにあったのか?
NW-E3の発表資料には、「本体の側面に搭載されたシャトルスイッチの使用により、簡単に操作でき、再生の開始、一時停止などが容易に行える」と記されています。
シャトルスイッチとは、指先で回したり押し込んだりして操作する回転式のパーツのことです。
画面を見ながら指を滑らせる今の操作とは前提が違います。
ポケットやカバンに入れたまま、手探りで回して押せることが設計の狙いでした。
写真の4台に共通して回転式のスイッチが残っているのは、この考え方が世代をまたいで引き継がれたためでしょう。
スティック型はいつ姿を消したのか?
転機は2010年でした。
ソニーは同年9月15日にEシリーズの4機種(NW-E052/E053など)を発表し、9月30日から順次発売しています。
発表資料ではデザインを一新した「コンパクトなプレートタイプの本体」と説明されており、それまでの棒状から板状へと形が切り替わりました。
先ほどのリストにあったNW-E040(2009年)の、ちょうど翌年にあたります。
2000年のNW-E3から数えると、スティック型がEシリーズの顔だった期間はおよそ10年。
以降のウォークマンは画面が大きくなり、操作もタッチが中心になっていきます。
「見ずに触って操作する」という前提が、「見ながら選ぶ」に置き換わった転換点でもありました。
Shiritomo GADGET編集部の考察:物理スイッチは懐古趣味ではない
この写真が支持を集めた理由は、懐かしさだけではないと考えています。
いまのワイヤレスイヤホンやスマートウォッチを使っていて、タッチの誤操作や「触ったのに反応しない」もどかしさを感じた経験はないでしょうか。
装着したまま画面を見られない機器ほど、指先の手応えだけで操作が完結することの価値は大きくなります。
実際、各社の完全ワイヤレスイヤホンでは、タッチ式と押し込み式・つまみ式が今も併存していて、業界としての正解は出ていません。
20年前のスティック型ウォークマンは、この問題に「回して押す」という答えを出していた製品でした。
機能の数では現行機に遠く及びませんが、操作系の設計思想としては現役の論点を先取りしていたことになります。
次にイヤホンやプレーヤーを選ぶとき、スペック表の数字だけでなく「目を閉じたまま曲送りができるか」を一度確かめてみると、製品ごとの思想の違いが見えてくるはずです。
まとめ
元ソニー設計者が並べたスティック型ウォークマン4台は、単なる懐かしい写真ではなく、「画面を見ずに操作する」ことを前提に設計されていた時代の記録でした。
その問いは、装着したまま使う機器が増えた今こそ、もう一度立ち返る価値がありそうです。
さらに深掘りしたい方へ
- ネットワークウォークマン『NW-E3』発売(ソニー公式プレスリリース・2000年5月15日)
- “ウォークマン” Eシリーズ4機種 プレートタイプへデザイン一新、快適操作を実現(ソニー公式プレスリリース・2010年9月15日)
【訂正】(2026年8月7日)
本記事は2026年7月18日の公開当初、写真に写る端末をHDD搭載モデル「NW-HD5」と記載し、その仕様(20GBのHDD・重さ135グラム・約40時間連続再生など)を記事の中心に据えていました。
NW-HD5は板状のHDDウォークマンであり、投稿された4台のスティック型には含まれていません。
投稿本文にもNW-HD5への言及はなく、当編集部の事実誤認でした。
2026年8月7日にタイトルおよび該当箇所を全面的に書き直しています。
投稿者の田中晃さま、および読者のみなさまにお詫びして訂正いたします。
