「生成AIの利用はしておりません」と言っていた九博、卑弥呼展ポスターで一転謝罪
「生成AIの利用はしておりません。
すべてイラストレーターによる作図です」。
今年7月、九州国立博物館は地元紙・山陽新聞の取材に対してそう答えていました。
ところが9月17日、その説明を自ら撤回します。
公式Xに投稿されたのは「【訂正とお詫び】」という見出しと、「誤った情報をお伝えした関係者の皆様に、深くお詫び申し上げます」という一文でした。
自分の発信について「使っていない」と説明したあとに、それが覆るという展開は、SNSで作品や告知を出す立場なら他人事ではないはずです。
この記事では、何がどう訂正されたのか、そして舞台になった特別展そのものの中身はどうなっているのかを、一次情報から確認していきます。
先に結論をまとめると:
– 九州国立博物館は2026年7月、取材に「生成AIの利用はしておりません」と回答していましたが、9月17日に制作過程の一部で使用していたことが判明したと訂正・謝罪しました
– 舞台の特別展「卑弥呼の鏡」は2026年10月31日〜2027年1月11日に福岡県太宰府市で開催、全国から集めた三角縁神獣鏡53面を含む計103面の銅鏡が並ぶ大型企画です
– 生成AIが使われたのはポスター・チラシのイラスト制作過程の「一部」とされていますが、どの工程・どの範囲かは公式には明らかにされていません
「使っていない」から一転、九博が公式Xで訂正した中身
発端は、今年7月に山陽新聞が九州国立博物館へ行った取材でした。
特別展「卑弥呼の鏡」のメインビジュアルは、女性のイラストを大きく使った「攻めた」デザインとして注目を集めていて、同館は取材に対し「生成AIの利用はしておりません。
すべてイラストレーターによる作図です」と明確に否定しています。
それから2カ月あまりが過ぎた9月17日、同館の公式Xアカウントが一転して訂正を発表しました。
【訂正とお詫び】
— 九州国立博物館 (@kyuhaku_koho) 2026年9月17日
特別展「卑弥呼の鏡」ポスター・チラシのイラストについて…
投稿は「【訂正とお詫び】特別展「卑弥呼の鏡」ポスター・チラシのイラストについて」から始まり、「デザインの制作過程において一部に生成AIも活用していることが判明した」ことを明かしたうえで、「誤った情報をお伝えした関係者の皆様に、深くお詫び申し上げます」と結ばれています。
この投稿は56万件を超えるインプレッション、いいね1,750件、リポスト851件を集め、短時間で広く拡散しました。
ただ、この投稿だけでは「どこにどれだけAIが使われたのか」「なぜ7月の時点で気づけなかったのか」までは分かりません。
そこで、報道各社の取材内容や公式発表を確認してみました。
調べて分かったこと
なぜ最初は「使っていない」と説明していたのか?
公開情報を確認するかぎり、同館が最初に取材に応じたのは今年7月です。
メインビジュアルに生成AIを使ったのではという見方が一部で出ていたことを踏まえた取材だったとみられ、同館は「生成AIの利用はしておりません。
すべてイラストレーターによる作図です」と回答していました。
この時点では、あくまでイラストレーターが手がけた作品だと説明されており、その後1カ月以上にわたって公式の見解が変わることはありませんでした。
いつ、どのように訂正されたのか?
その説明が覆ったのが9月17日でした。
同館は公式Xで、ポスター・チラシのイラスト制作について「デザインの制作過程において一部に生成AIも活用していることが判明した」と説明し、7月の回答が誤りだったと認めています。
何をきっかけに制作過程を確認し直したのかは、公表されている文面からは読み取れませんでした。
生成AIはイラストのどの部分に使われたのか?
ここが最も気になるところですが、公式発表では「制作過程において一部に生成AIも活用」とあるだけで、イラスト全体なのか、下書きや構図の検討段階だけなのか、具体的な工程までは明らかにされていません。
「一部」という言葉が指す範囲を、現時点で公開されている情報から断定することはできないというのが実情です。
今後の続報を待つ必要があるでしょう。
特別展「卑弥呼の鏡」そのものはどんな内容なのか?
ポスターをめぐる騒動の陰に隠れがちですが、展覧会自体は規模の大きな企画です。
会期は2026年10月31日から2027年1月11日まで、会場は福岡県太宰府市の九州国立博物館。
正式名称は特別展「卑弥呼の鏡 ―三角縁神獣鏡がヤマト王権をつくった―」で、全国から集められた三角縁神獣鏡53面を含む、計103面の銅鏡が並ぶとされています。
三角縁神獣鏡(さんかくぶちしんじゅうきょう:断面が三角形の縁を持つ、神獣の文様が刻まれた銅鏡)はこれまでに全国で約600面が確認されているとされ、そのうちの53面が一堂に会する形です。
背景にあるのは、中国の歴史書『魏志倭人伝』に記された「卑弥呼が魏から銅鏡100枚を贈られた」という記述です。
三角縁神獣鏡がその「卑弥呼の鏡」にあたるのではないかという説は長く議論されてきたテーマで、2025年に奈良県の富雄丸山古墳から新たに出土した鏡も、最新研究の一例として紹介される見込みです。
ポスターの騒動とは別に、展示の中身そのものへの期待は変わっていないようです。
生成AI利用の開示に、決まったルールはあるのか?
今回のように「使っていないと説明していたら、実は使っていた」という展開が起きると気になるのが、生成AIを使ったかどうかを明示するルールの有無です。
結論から言うと、美術館・博物館が制作物への生成AI利用を開示することを義務付ける法律は、現時点では見当たりません。
一方で、経済産業省は2024年に「コンテンツ制作のための生成AI利活用ガイドブック」を公開しており、制作物に生成AIを使う際の考え方や留意点を示しています。
法的な義務ではなくても、こうしたガイドラインを参考に、自主的に使用の有無を明記する企業や団体は少しずつ増えているようです。
実際、今回の訂正を受けて、他館の学芸員とみられるアカウントからはこんな投稿もありました。
うちの館では今年から、特別展のポスターデザイン発注の仕様書に「AI使用の場合は事前協議」という条件が入りました。半年前なら仮に使われても見抜けたと思いますが、今は自信ないです。 https://t.co/W6RrB6imPV
— So ISHIDA / 石田 惣 (@soishida) 2026年9月17日
「うちの館では今年から、特別展のポスターデザイン発注の仕様書に『AI使用の場合は事前協議』という条件が入りました。
半年前なら仮に使われても見抜けたと思いますが、今は自信ないです」という内容で、発注段階でのルール整備が現場レベルで始まっていることがうかがえます。
公式の取材に対して断定的に「使っていない」と答えてしまうと、今回のように後から覆った際の信頼への影響は小さくないでしょう。
Shiritomo編集部の考察:断定した説明が覆るときの代償
今回のケースで注目したいのは、ポスターのデザイン自体よりも「否定してから覆した」という順序です。
SNS運用の視点で見ると、最初から「制作過程を確認中です」と答えていれば、これほど拡散はしなかった可能性があります。
断定的な否定は一時的に問い合わせを収める効果がありますが、それが後から誤りだと分かったとき、訂正の投稿は元の話題以上に注目され、拡散力を持ってしまいます。
実際、今回の訂正・謝罪の投稿は、いいねだけで1,750件、インプレッションは56万件を超えました。
公式アカウントで外部からの問い合わせに答える立場の人は、確認が取れていない段階では「確認中」「調査中」と留保をつけたほうが、結果的にダメージを小さくできるケースが多いという教訓として読めます。
まとめ
九州国立博物館は、特別展「卑弥呼の鏡」のポスター・チラシについて「生成AIは使っていない」としていた説明を9月17日に訂正し、制作過程の一部で使用していたことを認めて謝罪しました。
どこにどこまでAIが使われたのかは明らかになっていませんが、10月31日開幕の展覧会自体への期待は変わっていないようです。