『無用の人』が問う「家族さえ知らなかった父の本当の姿」、原田マハ初監督作がサン・セバスチャンへ
薄暗い寝室の簞笥の上に、白い布で丁寧に包まれた四角い塊がひとつ置かれています。
特報映像はこのカットから始まり、ナレーションがこう告げます。
「疎遠だった父が死んだ」。
報道によれば、これは一人静かに世を去った父の遺骨だといいます。
美術館で監視員として働く聡美(蒼井優)のもとに、ある日、見覚えのない鍵が届きます。
それをきっかけに、家族さえ知らなかった父の晩年をたどっていく——2027年1月29日公開の『無用の人』は、そんな人間ドラマです。
原作・脚本・監督のすべてを務めるのは、数々のベストセラーで知られる作家・原田マハ。
小説家が自ら初めてメガホンを取った作品が、特報公開のわずか3日後にスペインの映画祭で世界最速の上映を迎える予定になっています。
公開の4カ月以上前から、なぜここまでの展開が組まれているのか。
原作にある経歴や映画祭の格付けまで、SNSでの見え方とあわせて調べてみました。
先に結論をまとめると:
– 蒼井優主演、原田マハが原作・脚本・監督を兼ねる初監督作『無用の人』は2027年1月29日に全国公開
– 特報は父の遺骨と謎の鍵をきっかけに、家族も知らなかった父の晩年をたどる展開を予告している
– 9月21日に第74回サン・セバスチャン国際映画祭でワールドプレミア、第31回釜山国際映画祭にも出品される
特報が投げかける「父の本当の姿」への手がかり
映画『無用の人』の公式X(@muyou_movie)は9月18日、待望の特報映像を解禁しました。
投稿には「家族さえ知らなかった父の本当の姿とは──」という一文と、公開日の「2027.1.29 fri」が添えられています。
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— 映画『無用の人』公式X (@muyou_movie) 2026年9月18日
#原田マハ 初監督作品
映画『#無用の人』
待望の特報映像解禁.ᐟ.ᐟ🎬
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疎遠だった亡き父の人生を辿る聡美(#蒼井優)。
そこから見えてきた、
家族さえ知らなかった父の本当の姿とは──
𝟐𝟎𝟐𝟕.𝟏.𝟐𝟗 𝐟𝐫𝐢❋https://t.co/gJuSCBvMc0 pic.twitter.com/mvHVY2ipFb
映像は「疎遠だった父が死んだ」というナレーションから始まり、薄暗い部屋に置かれた父の遺骨を映し出すところからスタートするといいます。
父・唯一を演じるのはイッセー尾形。
熟年離婚を経て、一人静かに息を引き取ったという設定です。
母・柊子を演じる渡辺えりは、劇中でこう漏らします。
「あの人、居てもいなくても同じ。
無用の人っていうか……」。
タイトルにもなったこのひと言が、この作品の温度そのものを言い当てています。
投稿から226件の「いいね」を集めたこの特報は、あくまで「何が起きるか」の入り口に過ぎません。
ただ、この特報が公開されたのはワールドプレミアのわずか3日前。
なぜこのタイミングで、しかもスペインの映画祭が選ばれたのか、原作者自らが監督に挑んだ理由とあわせて確かめてみました。
調べて分かったこと
なぜ作家の原田マハが、自ら監督に名乗りを上げたのか?
『無用の人』の原作は、原田マハが2014年に刊行した短編集『あなたは、誰かの大切な人』(講談社文庫)に収録されている同名の短編です。
原田マハ自身が脚本を執筆し、2025年4月にクランクインしたのが本作。
作家としては数多くのベストセラーを持ちますが、監督としては本作が初めてのメガホンになります。
美術館を舞台に選んだ背景には、原田マハ自身のキャリアも重なります。
関西学院大学卒業後、伊藤忠商事、森ビルの森美術館設立準備室を経て、森美術館とニューヨーク近代美術館(MoMA)の提携時にはMoMAへの派遣も経験した、元学芸員(美術館で作品の管理・展示企画などを担う専門職)という経歴の持ち主です。
2012年には美術ミステリー『楽園のカンヴァス』で山本周五郎賞を受賞するなど、美術と物語を結びつける作風で知られてきました。
美術館監視員という聡美の職業設定は、この経歴と無関係ではなさそうです。
キャストには、父・唯一役のイッセー尾形、母・柊子役の渡辺えりに加え、永山瑛太が骨董商のタク役で出演します。
タクは原作にはない映画オリジナルのキャラクターで、聡美が父の過去をたどる過程で重要な役回りを担うとみられています。
さらに平岩紙、中沢元紀、中野有紗の出演も発表されており、公開に向けてキャスト情報は段階的に積み上げられてきました。
サン・セバスチャン国際映画祭でのワールドプレミアには、どんな意味があるのか?
サン・セバスチャン国際映画祭は、スペイン北部バスク地方の街サン・セバスチャンで毎年開かれる映画祭(世界的な映画製作者連盟が公認する最高格付けの映画祭のひとつ)です。
『無用の人』は今年で74回目を迎えるこの映画祭のコンペティション部門に正式出品され、現地時間9月21日にワールドプレミア上映を迎えます。
原田マハ自身、この地には特別な思い入れがあるようです。
代表作『暗幕のゲルニカ』の取材でスペイン各地を2週間かけて巡り、バスク地方も訪れましたが、当時サン・セバスチャンだけは訪問がかなわなかったといいます。
今回の出品にあたり、監督は次のようにコメントしています。
「父と娘のささやかな幸せを描いた本作が、この映画祭から世界へ飛び立ち、多くの方々の心の窓辺に留まる幸せの小鳥となることを願っています」。
念願の地でのワールドプレミアは、原作者にとっても感慨深い舞台になりそうです。
なお、公式アカウントが公開した最新のポスタービジュアルには、サン・セバスチャン国際映画祭コンペティション部門への出品表記に加え、「第31回釜山国際映画祭 アジア映画の窓部門」への正式出品も記されており、アジア圏の映画祭でも作品が紹介される見込みです。
特報公開の前日、舞台裏では何が動いていたのか?
特報解禁の前日にあたる9月17日、公式Xは公式Instagramアカウントの開設を発表し、来年1月29日の公開に向けてフォローを呼びかけていました。
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— 映画『無用の人』公式X (@muyou_movie) 2026年9月17日
映画『無用の人』
公式Instagram開設しました🌸
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映画の美しい世界観を
こちらからもお伝えしていきますので、
来年1/29㊎の公開に向けて
ぜひフォローしてお待ちください🌱
🔗https://t.co/QfZeyE4PPm
作家 #原田マハ 初監督作品
主演 #蒼井優 pic.twitter.com/RgnoffpmLP
特報とInstagram開設、そしてサン・セバスチャンでのワールドプレミア——公開の4カ月以上前から、情報を小出しにしながら段階的に露出を積み上げていく設計が透けて見えます。
海外のファンは、この作品の何に反応しているのか?
公式発信とは別のところでも、この作品のビジュアルは静かに反応を集めていました。
海外のユーザーが投稿した英語のポストには、こうあります(日本語訳:「この手のポスターのジャンルが本当に好き。
──『すべて真夜中の恋人たち』(2026)、『無用の人/In My Father’s Room』(2027)」)。
I love this genre of movie posters so much.
— Cristian (@papierlilies) 2026年9月17日
– All the Lovers in the Night (すべて真夜中の恋人たち, 2026)
– In My Father's Room (無用の人, 2027) pic.twitter.com/FpsgOOKAqb
このポストが取り上げているのは、公開されたばかりのポスタービジュアルです。
実際に画像を確認すると、蒼井優演じる聡美が台所で抹茶を点てている静かな一場面に、「父は本当に無用の人だったのだろうか?」という問いかけのコピーが添えられています。
あわせて公開された新場面写真には、抹茶碗や父の書き置き、電気スタンドが灯る部屋など、日常の断片を切り取ったカットが並んでおり、事件性よりも生活の温度を丁寧に描く作品であることがうかがえます。
この英語ポストへの「いいね」は1,173件と、公式アカウントの投稿を上回る数字になっており、日本語が読めない層にもビジュアルの強さが届いていることが分かります。
原作の短編は、今どこで読めるのか?
映画の結末が気になって原作に手を伸ばしたくなった方もいるかもしれません。
『無用の人』は、原田マハが2014年に刊行した短編集『あなたは、誰かの大切な人』に収録されており、現在も講談社文庫として書店や電子書籍ストアで入手できます。
同じ短編集には家族や人とのつながりをテーマにした複数の短編が収められており、映画版で描かれる父娘の物語がどう脚色されているのかを、公開前に読み比べてみるのもひとつの楽しみ方といえそうです。
Shiritomo MOVIE編集部の考察
今回の3件の投稿を並べると、公式アカウントの特報解禁ツイートのエンゲージメント率(いいね数をインプレッション数で割った割合)はおよそ0.9%、Instagram開設告知はおよそ2.4%だったのに対し、作品と無関係な海外ユーザーがポスターを称賛した投稿は6%を超えていました。
しかも比較対象に挙げられていたのは、『無用の人』とは別の映画祭であるカンヌ国際映画祭に出品された国内映画のポスターです。
言語の壁を越えて先に反応しているのは、公式の発信力よりも「ポスター単体の強さ」だった、という構図が見えてきます。
海外の映画祭に出品される作品ほど、字幕やあらすじより先にビジュアル1枚が国境を越えて拡散する可能性がある。
配給側にとっては、英語圏向けのポスター展開やSNS運用を急ぐ理由がここにありそうです。
まとめ
原田マハ初監督作『無用の人』は、父の遺骨と謎の鍵から始まる家族の物語として、2027年1月29日の公開に向けて特報とビジュアルを段階的に積み上げています。
9月21日のサン・セバスチャン国際映画祭でのワールドプレミアが、この作品にとって最初の審判の場になりそうです。
