タイの人気俳優が牛乳ドリンクを飲むだけの配信に、なぜファンが殺到したのか
スマホカメラの前で、箱入りのヨーグルトドリンクにストローを差し込み、一口飲んで顔をほころばせる。
タイの人気俳優ニューヴィー(New Thitipoom、本名Thitipoom Techaapaikhun)が8月5日に行ったのは、それだけのTikTokライブでした。
派手な仕掛けは特になく、電話で自撮りポーズを取ったり、親友のテイ・タワン(Tay Tawan)の話を振ったりする、いつも通りの自然体。
それでもコメント欄は「可愛すぎる」の声で埋まりました。
SNS運用やAI活用に関わる人にとっては、この「何も起きていないのに拡散する配信」の中身を分解してみると、意外な学びがあります。
先に結論をまとめると:
– タイのTikTok Shop(TikTok上の販売機能)は2025年に流通総額100億ドル規模へ急拡大しており、ライブ配信での販売がその中心的な手段になっています
– Dutch Millは2026年1月時点でタイの広告認知度ランキング上位に入るなど、有名人起用のプロモーションに積極投資しているブランドです
– 「宣伝色を薄めた自然体の配信」が購買意欲を動かす構造は、日本のSNS運用にもそのまま応用できる視点です
何が起きたのか
今回配信されたのは、Dutch Mill(ダッチミル:タイ最大手の乳製品・ヨーグルトドリンクブランドの一つ)のフルーツ入り酸っぱい牛乳ドリンク「นมเปรี้ยวดัชมิลล์」を試飲するTikTokライブです。
ニューヴィーが製品を手に楽しげにコメントを読み上げ、ファンとやり取りする様子が切り抜き動画として拡散されました。
「表情が最高に可愛い」「笑顔が止まらない」といった反応が相次ぎ、ブランド側も購入特典の告知を重ねています。
派手な演出や大きな仕掛けがあったわけではありません。
むしろ「宣伝っぽさを感じさせない自然な姿」こそが、拡散の原動力になっていました。
ではなぜ、こうした一見地味な配信がここまでの反応を呼ぶのでしょうか。
その背景には、タイ特有のライブコマース(ライブ配信中に視聴者がその場で商品を購入できる販売形式)の成熟度があります。

調べて分かったこと
タイでTikTokライブコマースがここまで伸びているのはなぜか?
各種調査会社のレポートを確認すると、東南アジア全体のTikTok ShopのGMV(流通取引総額:プラットフォーム上で実際に取引された商品・サービスの合計金額)は2025年に前年比でほぼ倍増し、約456億ドルに達したとされています。
タイ単体でも2025年のGMVは100億〜120億ドル規模、前年比で101%増という驚異的な伸びを記録したという分析が複数のレポートで示されています。
2025年第1四半期だけを見ても、タイのGMVは前年同期比で3倍以上に伸び、一時は米国やインドネシアを上回るペースだったとも報じられています。
こうした急成長を支えているのが、まさに今回のような「有名人が製品を手にして雑談しながら試飲・紹介する」配信です。
タイやベトナムは、数時間にわたる長尺ライブ配信での販売が当たり前になっている「ライブコマース先進国」と位置づけられており、美容・サプリメント・日用品カテゴリーで特にこの傾向が強いとされています。
Dutch Millはどれくらい本気で広告展開しているのか?
市場調査会社YouGovが公表しているタイの広告認知度ランキングによると、2026年1月の調査でDutch Millは「Lotus’s」「Colgate」と並んでトップクラスの伸びを記録した3ブランドの一つに入っています。
1月3日時点で26.3%だった広告認知度(過去2週間以内に広告を見たと回答した人の割合)が、1月25日時点で34.2%まで、7.9ポイント上昇しました。
数字だけを見ても、Dutch Millが継続的にプロモーションへ投資していることがうかがえます。
Dutch Millは1984年創業(当初はPro Food社として設立、1991年に現社名へ)のタイ最大手級の乳製品メーカーで、UHT製法のヨーグルトドリンクを主力商品としています。
今回のような有名人起用のTikTokライブは、こうした広告戦略の一環として位置づけられそうです。
なぜ俳優個人のライブ配信が起用されるのか?
ニューヴィーは「Kiss: The Series」「Dark Blue Kiss」「Cherry Magic」などのドラマ出演で知られるタイの人気俳優で、TikTokアカウント「ignewwiee」で定期的にライブ配信を行っていることが確認できます。
話題に上がった親友のテイ・タワンとは、複数の作品で共演を重ねているだけでなく、実際にスパ事業「Bamboo Secrets」を共同経営する間柄でもあります。
ファンの間で馴染みのある「二人の関係性」を自然に会話へ織り込めること自体が、企業アカウントの単独配信にはない強みだといえるでしょう。
Shiritomo編集部の考察:明日から見直したいのは「配信の脚本量」
今回の事例が示すのは、ライブコマースの成功は「商品説明の巧さ」ではなく「配信者の素の魅力をどこまで邪魔しないか」で決まる、という設計思想です。
日本のTikTok LIVEでもPR案件は増えていますが、多くは台本通りの商品紹介に終始しがちです。
一方タイの事例は、雑談・自撮り・友人トークといった「本来の配信スタイル」を崩さず、その流れの中に商品を溶け込ませています。
日本でSNS運用を担当する立場からすると、次にPR配信を設計する際は「台本の分量を減らせないか」「配信者の普段のやり取りをどれだけ残せるか」を見直す価値がありそうです。
KPIを試飲シーンの秒数やCTAの回数で管理するより、配信者らしさが崩れていないかをチェックする方が、結果的に拡散にはつながりやすいのではないでしょうか。
まとめ
派手な演出のないTikTokライブが拡散した背景には、タイのライブコマース市場の急成長と、ブランド側の継続的な広告投資、そして配信者の素の魅力を活かす設計がありました。
宣伝色を薄めるほど反応が伸びるという構造は、日本のSNS運用にも参考になるはずです。
さらに深掘りしたい方へ
タイのTikTok Shop市場の成長データについては、TikTok’s Southeast Asia doubles GMV year-on-year to $45.6B in 2025(TNGlobal)で詳しく報じられています。
Dutch Millの広告認知度データはThailand Advertisers of the Month 2026(YouGov)で確認できます。
ニューヴィーの経歴についてはThitipoom Techaapaikhun(Wikipedia)にまとまっています。

