AI活用事例 読了 7 分

「ちゃんと時間をかけてハーネスを作るとこうなるのか」――人間ゼロ介入のAIエージェントがISUCON2026を制した

Shiritomo編集部 @shiritomoAI_jp 2026年11月3日 更新
「ちゃんと時間をかけてハーネスを作るとこうなるのか」――人間ゼロ介入のAIエージェントがISUCON2026を制した

625,857点。
856チームがエントリーしたISUCON2026で、この数字を叩き出して優勝したのは、たった一人で挑んだエンジニア、川崎佳典さん(@kawasy)でした。
しかも本人は、競技時間中にほとんど自分の手を動かしていません。
実際にスコアを積み上げていたのはAIエージェントです。

ISUCON(Webサービスの処理速度をどこまで速くできるかを競うエンジニア向けコンテスト)でAIエージェントの利用が解禁された最初の回に起きた出来事で、AIを使って開発や運用をしている人なら他人事では済まない話ではないでしょうか。
どんな準備をすれば、AIにそこまで任せられるのか調べてみました。

先に結論をまとめると:
– 856チーム中、AIエージェントに運用を任せた「Typing Bears」(川崎佳典さん1人)が625,857点で優勝、競技中に人間がセッションへ入力した回数は0回
– 土台にあったのは3ヶ月間の準備と、評価環境での100回以上の反復テストで、当日は「判断」をAIに委ねられるところまで仕組みを作り込んでいた
– 参加チームの8割近くがGo言語を使う中での結果で、「AIが新しい言語を使いこなしたから勝てた」という話ではなく、AIの動かし方を設計する「ハーネス」作りそのものに専門性が要る

856チーム中「人間ゼロ」で優勝したチームの正体

10月31日に開催されたISUCON2026は、公式発表によると856チーム・1,596人が参加した国内最大級のパフォーマンスチューニング大会です。
今回からAIエージェントの利用が解禁され、川崎さんが1人で立ち上げた「Typing Bears」は、最終スコア625,857点(競技中の最高点は629,638点)で総合優勝を果たしました。

川崎さんは11月2日22時30分ごろ、Zennに参加記を公開し、優勝までの経緯を明かしています。

「天然知能で編集しましたが、AI表現が残っていたらごめんなさい」という書き出しからも分かるとおり、記事そのものは川崎さん自身の手によるものです。
ただ、競技中の操作は違いました。
川崎さんの参加記によれば、人間からセッションへの入力は0回、AIエージェントが人間に助けを求めた回数も0回。
86回のロードテストと19回のコミットを、すべてAIエージェントだけで実行していたといいます。

ここまでの数字だけ見ると「AIに丸投げしただけ」に思えますが、実際にその中身を覗いてみると、もう少し手間のかかる話が見えてきました。

自律のからくりを調べてみると

ハーネスとは何なのか、なぜそんなに大事なのか

川崎さんのZenn記事では、優勝の核心は「完全自律で動作する競技エージェント」だと説明されています。
使っていたのはAnthropic社のAIコーディングツール「Claude Code」と、そのモデル「Claude Opus 5.5」。
この2つを土台に、ISUCON当日の8時間を自力で判断させるための「ハーネス」(AIエージェントに指示を渡し、返ってきた結果から次の行動を決めさせる、操縦役にあたる仕組み)を自作していました。

この点について、SNSでも反応がありました。

suthio_さんは11月3日午前11時47分ごろ、この参加記を引用して「ちゃんとソフトウェアエンジニアリングに対して理解を持った人がちゃんと時間をかけてハーネスを作るとこうなるのか…」と投稿しています。
AIモデル自体の性能ではなく、モデルの周りに何を組むかで結果が変わるという受け止め方がうかがえる投稿です。

本当に人間はゼロだったのか

「0回」という数字を疑いたくなりますが、そこに至るまでの準備は決して軽くありません。
Zenn記事では、評価環境で100回以上問題を解かせて、ハーネスを改善してきたと明かされています。
10月31日の開催までに3ヶ月間の準備期間があったとも書かれており、逆算すると夏の終わりごろから反復を積み重ねてきたとみられます。

当日については「この後は、競技エージェントには一度も指示を入力しませんでした」と記されており、スタート後は見守るだけだったようです。
この受け止め方は、別の投稿からも見えてきます。

jammaru_labさんは11月3日午後1時32分ごろ、自身も「DeepSeek Harness」(別のAIエージェント向けハーネス製品)を試して重要性を実感したという経験に触れたうえで、「今回のISUCON2026で優勝した人の話を見ても、やっぱりハーネスって大事なんやなと思った。
使っていたのはClaude CodeとClaude Opus」と投稿しています。
なお、川崎さんが実際に使ったのはClaude Code・Claude Opusで、DeepSeek Harnessはjammaru_labさん自身が別の場面で触れた話です。
道具の名前は違っても、「ハーネスという周りの作り込み」に注目が集まっている点は共通しています。

Go言語が8割近くを占める競技で、なぜAIが結果を出せたのか

ISUCON公式ブログの集計によれば、利用言語が判明した659チームのうちGo言語を使ったのは525チームで、全体の79.7%、おおよそ8割に達します。
上位チームに限っても傾向は同じで、優勝した「Typing Bears」自身もGo言語での実装でした。

つまり今回の結果は、「AIが得意な新しい言語を使ったから勝てた」という話ではありません。
多数派と同じGo言語を使いながら、判断を担う仕組みの作り込みで差がついた、と見るほうが実態に近そうです。
川崎さんはポッドキャスト「fukabori.fm」にも出演し、AIコーディングをうまく使いこなせる人とそうでない人の差について語っています。
エンジニアとしての土台があるかどうかが、AIにどこまで任せられるかを左右する——そう読み取れる内容でした。

Shiritomo編集部の考察:ハーネス作りは「次の専門職」になるか

今回の件で印象的なのは、AIモデルの性能比較ではなく「ハーネスの作り込み」という、これまでエンジニアの間でもあまり語られてこなかった工程に注目が集まった点です。
SNS運用の現場でも、同じAIツールを使っていても成果に差が出るケースは珍しくありません。
プロンプトの出し方、エラーが起きたときの立て直し方まで含めて設計できるかどうかが、AI活用の分かれ目になっているという意味で、今回の出来事はSNS・マーケティング領域にも重なる話ではないでしょうか。
「AIに任せれば自動で成果が出る」という期待と、実際には裏側の設計に地道な反復が必要という現実のギャップは、今後もたびたび話題になりそうです。

まとめ

856チームの中での優勝を支えたのは、AIモデルそのものの強さではなく、3ヶ月・100回超の反復で磨き上げたハーネスという「仕組み」でした。
Go言語が主流の競技で結果を出したことも含め、AIエージェント活用の最前線は「モデル任せ」より一歩先に進んでいるようです。

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