NVIDIAの次世代AIラック「Kyber」、基板が作れず2028年へ延期の衝撃
78層。
エヌビディアの次世代AIラック「Kyber(カイバー)NVL144」の心臓部にあたる基板の層数です。
GTC(エヌビディア主催の開発者会議)でジェンスン・フアンCEOが自らデモをしてから、わずか3カ月。
その目玉製品が、量産開始を2028年まで延ばすことになりそうだと報じられました。
登場する組織を整理しておきます。
エヌビディアはGPU(画像処理用の半導体で、AI開発の計算基盤としても使われる)とAIサーバーラックを作る企業。
SemiAnalysisは半導体・サーバー業界のサプライチェーンを専門に調査するリサーチ会社で、今回の遅延情報の発信源です。
そしてイビデンは、そのエヌビディア向けに高密度基板を供給する日本の大手メーカーで、今回の報道で株価が大きく揺れた当事者にあたります。
Xで広がった疑心と株価への波及
火をつけたのはSemiAnalysisの投稿でした。

(日本語訳:ジェンスンがGTCでKyber NVL144をデモしてからわずか3カ月後、大きなつまずきに直面し、12カ月以上遅れて2028年にずれ込む。
以下でKyberがなぜ大幅遅延したのか、そしてNVIDIAのNVL72x2バックツーバック構成がなぜキャンセルされたのかを説明する)
MASSIVE DELAY: Just 3 months after Jensen demoed Kyber NVL144 at GTC, it has faced major setbacks and has been delayed by more than 12 months, pushing it back to 2028. Below, we explain why Kyber has faced massive delays and why NVIDIA’s NVL72x2 back-to-back rack architecture was… pic.twitter.com/VYduxnu01B
— SemiAnalysis (@SemiAnalysis_) 2026年7月5日
この投稿が引用元となり、CNBCも同様の内容を伝えました。
(日本語訳:エヌビディアの次の看板製品——2027年投入予定のRubin Ultraチップを収めるKyberラックスケールアーキテクチャ——が、リサーチ会社SemiAnalysisによれば12カ月以上遅れるという)
Nvidia’s next marquee product — the Kyber rack-scale architecture designed to house its 2027 Rubin Ultra chips — has been delayed by more than 12 months to 2028, according to research firm SemiAnalysis, the latest in a string of reported setbacks raising questions about the AI… pic.twitter.com/aoC6PRF964
— CNBC (@CNBC) 2026年7月6日
投稿を機に、半導体サプライチェーン関連の投資家アカウントが次々と反応を重ね、Kyberの遅延理由やRubin Ultraへの影響を解説する投稿が相次いで拡散しました。
単なる製品スケジュールの変更というより、エヌビディアの「毎年刷新」という開発ペースそのものへの疑いにつながった点が、今回の話題の広がり方の特徴だと言えるでしょう。
調べてみると「PCBミッドプレーン」の壁だった
SemiAnalysisの分析やCNBC、Tom’s Hardwareなど複数メディアの報道を確認すると、遅延の核心はKyber NVL144の中核部品である「PCBミッドプレーン(プリント基板でできた中継板:ラック内でGPUモジュール同士をつなぐ配線基板)」にありました。
78層という積層数は、商用コンピューティング製品としては過去最も複雑な基板のひとつとされ、現行の製造技術では量産レベルの歩留まり(不良品を出さずに作れる割合)を確保しにくいようです。
代替案として検討されていた「NVL72x2(既存のOberonラックを2台背中合わせに連結する構成)」も、クラウド事業者側が「2台を1台として運用するのは扱いにくい」と難色を示したことで見送られたと報じられています。
さらに次世代GPU「Rubin Ultra」も、当初予定していた4ダイ(半導体チップを複数貼り合わせる構成)版がTSMCのパッケージング技術の限界により断念され、2ダイ版に縮小。
性能はおおよそ半分程度になる見込みとのことです。
8ラックを光通信でつなぐ「NVL576」も、限定的な出荷にとどまる可能性が指摘されています。

株式市場の反応は早かったです。
イビデンの株価は最大10%程度下落したと報じられ、香港のKingboard Laminatesは18%安、台湾のElite Materialは10%安、韓国のSamsung Electro-Mechanicsも11%安と、PCB・基板材料関連の銘柄が軒並み売られました。
一方でエヌビディア自身の株価はほぼ横ばい(+0.8%程度)にとどまり、フィラデルフィア半導体指数(+3.2%)やAMD(+7.7%)、ブロードコム(+4.4%)に見劣りする動きだったようです。
エヌビディア広報は「我々のロードマップは変わっていない」と即座に反論。
Mizuhoのアナリスト、ジョーダン・クライン氏も「ノイズの域を出ない」との見方を示し、売り急ぐ必要はないとコメントしています。
SemiAnalysis自体も、現行世代のOberon・Rubinラックの出荷が続くことで2027年度後半のデータセンター向け売上はむしろ市場予想を上回るとの見立てを示しており、「Kyberが遅れても当面の需要はカバーできる」という見方が優勢なようです。
さらに深掘りしたい方へ
一次情報を確認したい方は、以下の報道もあわせてご覧ください。
- Nvidia’s next-gen AI rack system delayed to 2028 on manufacturing snags, SemiAnalysis says(CNBC)
- Nvidia’s Kyber rack for Rubin Ultra reportedly delayed to 2028(Tom’s Hardware)
- Nvidia’s Kyber NVL144 reportedly pushed back more than a year, Asian suppliers drop(the-decoder.com)
- NVDA Stock Climbs Over 1% — Nvidia Says Its AI ‘Roadmap Is Intact’ After Report Of Kyber Rack Delay(Yahoo Finance)
Shiritomo編集部の考察
今回の一件は、企業の公式発表ではなくリサーチ会社の一次分析がXへの投稿を起点に市場を動かした典型例です。
SemiAnalysisの投稿は数字と図解を伴う専門的な内容でしたが、それでも短時間で株価を動かすほどの拡散力を持ちました。
SNS分析の観点で見ると、こうした「未公式・専門特化アカウントの一次情報」は、フォロワー数の割に業界関係者への到達率が高く、引用リツイートによる二次拡散(今回で言えばCNBCなど大手メディアの後追い)で信頼性が補強される構造になっています。
企業の広報担当としては、専門アカウント発の投稿が業界内で先に拡散し切ってから公式否定を出しても沈静化効果は限定的になりやすく、初動での事実確認と発信スピードが問われる場面だったのではないでしょうか。
まとめ
エヌビディアのKyber遅延報道は、基板という地味な部材が最先端AIインフラの進化速度を左右し得ることを浮き彫りにしました。
真偽をめぐる攻防はまだ続きそうですが、少なくとも当面はOberon・Rubin世代の需要でしのげるというのが市場の暫定的な見立てのようです。