AI企業が中古本をスキャン後に破壊する手法が議論に
背表紙を切り落とされた古い本のページが、高速スキャナーに次々と吸い込まれていく——。
スキャンが終わった紙の束は、そのまま断裁機へ送られて廃棄されます。
この作業を進めていたのは、Claude(クロード)を開発するAI企業Anthropic(アンソロピック)です。
普段何気なく使っているAIチャットボットの「賢さ」の裏側にこうした調達の実態があると知ると、AIサービスを見る目が少し変わるかもしれません。
先に結論をまとめると:
– Anthropicは2024年初頭から「Project Panama(プロジェクト・パナマ)」という社内プロジェクトで、数十万〜200万冊規模の中古本・希少本を購入し、スキャン後に物理的に破壊していました
– 2026年7月、米連邦地裁は「合法的に購入した本のスキャン利用は公正利用(著作権者の許可なしに著作物を使える例外規定)にあたる」と判断しましたが、海賊版書籍の使用については別途約15億ドル(日本円で2000億円超)の和解金支払いで決着しています
– 一方で欧州の古書販売業者からは「戦争や火災を生き延びた希少本が失われかねない」との懸念が上がっており、AIの進化と文化遺産の保存がぶつかり合う構図になっています
何が起きたのか、Xで広がった衝撃
Xでは、この件を報じたメディア記事をきっかけに「AI企業が本を裁断している」という話題が急速に広がりました。
誰が・何を・なぜ・どうしたのかを整理すると、Anthropicが訓練用の「クリーンなテキストデータ(著作権処理済みで安心して使える文章データ)」を確保するために中古本・希少本を大量購入し、内容をスキャンした後に原本を廃棄した、という流れです。
日本語の投稿の中でも、次のツイートは大きな反響を呼びました。

本を書く仕事をする人間にとって、正視に耐えない映像と話。AI企業が200万冊の書籍を調達して「AIを訓練」つまり学習させたあと「知的財産権の訴訟を避けるためにそれらを破壊」つまり裁断。他のメディアでも同種の記事を見た。希少な古書も裁断される。AIって一体なんなんだ。https://t.co/Cyqe6DYKVF
— 山崎 雅弘 (@mas__yamazaki) 2026年7月29日
投稿者は「AIって一体なんなんだ」と率直な戸惑いを綴っており、この話題に触れた多くの人の共通の感覚を代弁しているように見えます。
ただ、SNS上の反応だけでは「本当にそこまでのことが行われていたのか」「法的に問題はなかったのか」までは分かりません。
そこで一次情報を確かめてみました。
調べて分かったこと
Project Panamaとは何だったのか?
裁判資料によると、Anthropicは2024年2月ごろ、Google Booksの提携責任者だった人物を採用し、「世界中の本を入手する」という任務にあたらせました。
社内文書には「破壊的に世界中の本をスキャンする取り組み」と記され、担当者が「この取り組みが知られたくない」という理由でコードネームを使っていたことも明らかになっています。
実際の手法は、油圧式の裁断機で本の背表紙を切り落とし、産業用スキャナーでページを1枚ずつ読み取るというものでした。
購入・破棄された書籍の規模は報道によって50万冊から200万冊まで幅がありますが、いずれにしても「数十万冊単位」であることは共通しています。
裁判所はなぜ「問題なし」と判断したのか?
2026年7月21日、米連邦地裁のウィリアム・アルサップ判事は、Anthropicが合法的に購入した本を裁断・スキャンして原本を廃棄する行為について、フェアユース(公正利用)にあたると判断しました。
理由は、デジタル化によって新たなコピーが増えるわけではなく、あくまで「紙から電子への置き換え」にすぎないという考え方です。
ただし、この判断が適用されるのは合法的に購入した本に限られます。
Anthropicは別途、著作権者に無断で入手した海賊版書籍700万冊超をAIの訓練に使っていたことも判明しており、こちらについては著者団体との間で約15億ドルを支払う和解が2026年7月27日に承認されています。
希少本・絶版本はどうなるのか?
問題視されているのは規模の大きさだけではありません。
オランダ・ドイツ・スイス・スペインなどヨーロッパの古書販売業者からは、AI企業とみられる取引先から通常の何倍もの一括注文が入るようになったという証言が相次いでいます。
あるオランダの業者はシンガポールの企業から約3000タイトルの注文を受けたと明かしており、注文はISBN(国際標準図書番号:本を識別する世界共通の番号)単位で機械的に処理されるため、その本が世界に数冊しか残っていない希少版かどうかを誰も確認していない、という指摘もあります。
こうした懸念は英語圏のXでも広がっていました。
AI企業が高速機械で稀少本の背表紙ごと切り落とし、原本を粉砕しています。
ISBNdbという仲介サービスが最大100万冊単位の注文を匿名で仲介しており、2022年より前に出版された本は「AI生成文章に汚染されていない」という理由でむしろ価値が高いとされている——おおむねそのような趣旨の投稿です。
🦔AI companies are bulk-buying rare books, scanning them through high-speed machines that cut the spines off, and shredding the originals. A service called ISBNdb facilitates orders of up to a million books and keeps buyers anonymous. Pre-2022 books are premium because they're… pic.twitter.com/0YPd8N2oi5
— Hedgie (@HedgieMarkets) 2026年7月27日
戦争や火災をくぐり抜けて生き残ってきた版が、今度はAIの訓練データとして裁断されるかもしれない——皮肉な巡り合わせだと感じた人も多かったようです。
イーロン・マスク氏も自身が関わるAIチームに対し、「希少本は図書館に保存したうえで時間をかけて丁寧にスキャンすべきだ」と、より慎重な方法を取るよう指示したと伝えられています。
Shiritomo編集部の考察:AIの「学習データ調達」は今後も監視対象になる
この一件から見えてくるのは、AI企業にとって訓練データの調達が「合法か違法か」だけでなく「倫理的にどう見えるか」というブランドリスクの領域に入ってきているということです。
フェアユース判断が出たとはいえ、「原本を破壊する」という映像的にインパクトの強い事実がXで拡散すれば、法的な白黒とは別に企業イメージは傷つきます。
SNS運用担当者にとっての教訓は、自社や取引先の「データ調達プロセス」も炎上リスクの一部として捉えておく必要がある、という点でしょう。
過去にもGoogle Booksのスキャン事業が図書館関係者から批判を浴びた例がありますが、今回は「原本が消えてなくなる」という不可逆性が加わったことで反応がより感情的になっています。
今後はAI各社が訓練データの調達方法を自ら説明する動きが増えていくのではないでしょうか。
まとめ
Anthropicによる中古本・希少本の購入とスキャン後の破棄は、法的には公正利用と判断された一方、文化遺産の喪失という新しい懸念を生み出しました。
AIの進化の裏側でどんなデータ調達が行われているのか、今後も注視していく必要がありそうです。