AIプロンプトが絵師の画風に似てしまったら、「直せば済む」で終われるのか
「梨を盗んで売るようなものだ」。
フリーイラストサイトを運営するしぐれに氏の画風に酷似したAI生成画像をめぐって、Xでこんな厳しい言葉が投げかけられました。
指摘を受けた側は謝罪し、プロンプトを修正して収束したように見えますが、話はそこで終わりでよいのでしょうか。
AIでイラストを作る人にとって、この一件は「知らなかった」では済まされないリスクを含んでいます。
先に結論をまとめると:
– しぐれに氏の利用規約は生成AIの学習・入力・参照利用を明確に禁止しており、業界内でも比較的厳格な条件です
– 著作権法上、AIの学習自体は原則自由ですが、生成物が既存作品に「類似」し「依拠」していれば侵害になり得ます
– 「画風だけ真似したつもり」でも偶然似てしまえば依拠性を問われる可能性があり、事前の画像検索など自衛策が実務上重要です
「夏の買い物する女性」が炎上の引火点になった
事の発端は、AIデザイナーを名乗るひーさん(@ane5mama)が2026年8月1日ごろに投稿した、AIイラストの作例でした。
「夏の買い物をする女性」といったプロンプトで生成した画像を、実用的な作例として紹介する内容です。
意図しない形ではありましたが
— ひーさん AIデザイナー×営業マン (@ane5mama) 2026年8月1日
既存のイラストレーターさんの画風に似てるとご指摘いただきました。
安心して
使えるようにプロンプトを
再構築しました!
こちらになります!!!!! https://t.co/6fpJ1LCvn6 pic.twitter.com/TNxnSE4S3P
素朴でかわいらしい女の子のタッチは、多くの人が一度は見たことがあるはずです。
フリーイラストサイト「shigureni free illust」を運営するしぐれに氏(@sgrn4902)の作風にそっくりだと、Xで比較画像とともに指摘が広がりました。
しぐれに氏のイラストは商用利用OKという太っ腹な条件で知られており、企業のプレゼン資料やブログでよく見かける存在です。
その分「見慣れた画風」であることも、今回すぐに似ていると気づかれた一因かもしれません。

指摘を受けたひーさんは、意図せず似てしまったとして謝罪し、プロンプトを修正したと説明しています。
一見、これで一件落着に見えます。
ただ、Xでの反応を見ていくと、単純な謝罪では収まらない論点が浮かんできました。
調べて分かったこと
なぜ「プロンプトを直すだけ」では不十分だと言われたのか
今回の件で目立ったのが、指摘を受けたら黙ってプロンプトを変えるだけで済ませる、という対応そのものへの批判でした。
←AI しぐれに氏→https://t.co/XP1W1zS4PD
— SION (@bboy_sion) 2026年8月2日
な?こういうものなんだよなぁ生成AIって
で指摘されたらごめんごめんプロンプト変えまーすだろ https://t.co/JoCzDQ0u5i pic.twitter.com/shminf1YiT
この指摘の背景には、しぐれに氏の利用規約が生成AIに関して比較的厳しい内容になっている事情があります。
実際にshigureni.comの利用規約を確認したところ、イラストを生成AIの学習に利用する行為、生成AIに読み込ませて画像等を生成する行為、そこで生成されたコンテンツを利用・公開・配布・販売する行為が明確に禁止されていました。
画風変換や生成塗りつぶしなど、生成AIによって表現を変化させる加工についても許可されない編集として明記されています。
つまり、しぐれに氏の作品を実際にAIに読み込ませていたかどうかとは別に、「似た画風のものを生成AIで作って公開する」という行為自体が、規約上グレーというより黒に近い扱いになっている可能性があるということです。
プロンプトを直して次の画像を似せないようにするのは再発防止として当然ですが、それだけで「元の指摘は解決した」と見なしてよいのか、という疑問が残ります。
法律上はどう整理されているのか?
ここで気になるのが、AIによる画風の模倣がそもそも著作権法上どういう扱いになるのか、という点です。
文化庁が公表している「AIと著作権に関する考え方」を確認すると、整理は次のようになっています。
まず、生成AIが既存の作品を学習データとして取り込む段階について、著作権法第30条の4(情報解析等のための利用を、著作権者の許諾なしに認める規定)により、原則として許諾は不要とされています。
ただし、学習の際に「その著作物をそのまま出力させる」ことを目的にしていた場合は、この規定の対象外になり侵害になり得るとされています。
一方、生成された画像を実際に利用・公開する段階では話が変わります。
既存の著作物と「類似性」(表現上の本質的な特徴が共通していること)があり、かつ「依拠性」(既存作品を認識した上で参考にしたと言えること)があると認められれば、著作権侵害になり得る、というのが文化庁の整理です。
単にアイデアや作風の傾向が似ているだけでは足りず、具体的な表現の共通性が問われます。
依拠性の判断では、利用者が既存作品をプロンプトに入力していた場合や、その作品がAIの学習データに含まれていたと分かる場合には、依拠性が推認されやすくなるとされています。
逆に、利用者側が「その作品は学習データに含まれていない」と示せれば、依拠性が認められにくくなる方向に働くとも整理されています。
「画風だけ真似したつもり」でも危ないのはなぜか?
ここで実務上厄介なのが、「画風を真似するだけなら著作権侵害にならない」という一般論と、今回のような「偶然似てしまった」ケースとのギャップです。
弁護士による解説記事では、画風だけを真似するつもりで、結果的に既存の著作物と似たものが生成されてしまった場合、依拠性が認められれば違法になり得ると指摘されています。
しかも、主役級のキャラクターだけでなく、脇役や背景の一枚に既存作品と似た表現が混ざってしまっても、公開すれば侵害になる可能性があるという点が実務的な落とし穴だとされています。
「〇〇風」というプロンプト自体は多くの場合セーフでも、出てきた結果がたまたま特定作品に近づいてしまえば、意図の有無にかかわらずリスクが生じるということです。
この点を踏まえると、ひーさんが「意図せず似てしまった」と説明したこと自体は、依拠性の判断で不利にならない方向の主張として理解できます。
ただし、しぐれに氏の画風がAI学習禁止を明示した上で広く知られている存在である以上、「知らなかった」という主張がどこまで通用するかは、ケースバイケースの判断になりそうです。
Shiritomo編集部の考察:AI活用者がやるべき自衛策は2つ
今回の件は、AIでイラストを作って発信する立場の人にとって、他人事では済まない教訓を含んでいます。
編集部として実務的に有効だと考える対策は2つです。
1つ目は、生成した画像を公開する前に画像検索にかけることです。
プロンプトに具体的な作家名を入れていなくても、結果として既存作品に似てしまうことは起こり得ます。
公開前の画像検索は完全な安全策ではありませんが、依拠性を問われるリスクを下げるうえで最も手軽な一手です。
2つ目は、指摘を受けたときの対応を「プロンプト修正」だけで終わらせないことです。
プロンプトの調整は再発防止として必要ですが、すでに公開・配布した画像そのものの扱い(削除・非公開化)まで含めて対応しないと、指摘した側からは「本質的な問題を認めていない」と見なされやすくなります。
今回、批判の声が広がった一因も、まさにこの対応の速さと範囲だったのではないでしょうか。
AI活用を仕事に取り入れる人が増えるほど、こうした線引きの感度がそのまま発信者の信頼につながっていくはずです。
まとめ
今回の一件は、AI活用者にとって「画風は真似してもいい」という理解だけでは足りないことを示す事例でした。
学習段階の自由と、生成物を公開する段階での類似性・依拠性の判断は別の話であり、悪意がなくても結果として既存作品に近づいてしまえばリスクが生じます。
プロンプトを直す前に、まず何が起きたのかを正確に切り分けて対応する姿勢が、今後ますます求められそうです。
さらに深掘りしたい方へ
- AIと著作権について(文化庁) — 著作権法第30条の4の位置づけと「AIと著作権に関する考え方」の全体像
- ご利用について(shigureni free illust) — AI学習・入力・生成物利用に関する禁止事項の一次情報
- 一般論「画風はセーフ」の落とし穴(新清水法律事務所) — 画風のみを真似する意図でも偶然類似した場合のリスク解説

