Kimiに聞いたつもりが、答えていたのはClaudeだった――Anthropicが暴いた中国各社の”蒸留”の中身
約30万件。
中国Moonshot AIのチャットボット「Kimi」が、5,380個の偽アカウントを経由してClaudeに転送していたリクエストの件数です。
Anthropicが9月10日に公開した脅威レポートで、この手口が詳細に報告されました。
Kimiに質問したつもりのユーザーは、実は裏で動いていたClaudeの回答を、Kimi自身の回答として受け取っていたことになります。
ふだんAIチャットを使っている人にとっては、自分が触っているサービスの「中身」が本当にそのAIなのか、という話にもつながってきます。
先に結論をまとめると:
– Moonshot AIの「Kimi」が、偽アカウント経由でユーザーの入力をClaudeに転送し、回答をKimi自身のものとして表示していた
– Alibaba・DeepSeekなど他の中国系AI企業でも、同様に大量のリクエストをClaudeへ回して自社モデルの学習に使う「蒸留」が確認された
– Anthropicはこれらをすべて検知・停止し、監視活動や兵器開発に絡む悪用事例も同じレポートで報告している
何が起きたのか
Anthropicは10日、生成AI「Claude」の悪用に関する脅威レポートを公開しました。
柱の一つが、Moonshot AIが提供する「Kimi」経由で約30万件のリクエストをClaudeに転送し、その回答をKimiのものとして表示していたという指摘です。
Anthropicは自社サービスを中国国内から直接使えないようにしていますが、Moonshot側はシンガポールや日本を拠点にしているとみられる5,380個の偽アカウントを使い、この制限をすり抜けていたとされます。
このニュースは、X上で複数の日本語アカウントが取り上げたことで一気に広がりました。
中国AI「Kimi」、利用者の入力をClaudeに転送し、Claudeの回答を利用者に表示か–Anthropicが報告 https://t.co/7egyd8Ao2L
— CNET Japan (@cnet_japan) 2026年9月11日
Kimiを使っていたユーザーが実は知らぬ間にClaudeとやり取りしていた、という構図のわかりやすさが、拡散の一因になったとみられます。
ただ、「約30万件」という数字だけでは、どれほど組織的な仕組みだったのかまだ実感が湧きません。
そこで一次情報を確かめてみました。
調べて分かったこと
どうやってClaudeへ転送していたのか?
海外メディアの報道によると、Moonshotはある10日間で、主にAnthropicの上位モデル「Opus」宛てに約30万件のリクエストを送っていたとされています。
Anthropicは中国国内からの自社サービスへのアクセスを禁じているため、Moonshotはシンガポールや日本の所在地に見せかけた5,380個のアカウントを用意し、この制限を回避していたようです。
転送で得られたClaudeの応答は、Kimi自身の出力を改善するための学習データ(=蒸留)として使われていたと報じられています。
Xでも、レポートの内容を整理して伝える投稿が反響を呼んでいました。
DeepSeekやKimiが実は裏でユーザー入力をClaudeに送り、そのやり取りを蒸留に使っていて、マリでは2500万SIM規模の国家監視網が作られ、北イエメンでは誘導ロケットの制御ソフト開発に使われ、湖南省では約50組織へのサイバー攻撃に使われ、中国系活動では反体制派やウイグル人の追跡・分析に使われ、… https://t.co/xGIoLtWq5U
— bioshok⏸️ (@bioshok3) 2026年9月11日
なお、この投稿では監視活動や兵器関連への悪用など、レポートに含まれる他のカテゴリーにも触れられていますが、個々の事例の詳細は現時点で編集部として一次情報の裏を取り切れていません。
Anthropic側は、検知した悪用事例を停止したうえで当局と情報共有したと説明しています。
他の中国企業も同じことをしていたのか?
Moonshotだけではありません。
海外メディアの報道では、Alibaba(Qwenブランド)が5月から7月にかけて1億5,100万回、DeepSeekが7月の14日間で1,210万回、Xiaomiも40万回超のリクエストをClaudeに送っていたことが確認されたとされています。
いずれも「自社の看板モデルを鍛えるために、競合の応答を借りる」という同じ構図です。
この報道を受けて、Xでは日本語での反応も広がりました。
Anthropicが自社AIに関する脅威インテリジェンスレポートを公開したのですが、かなり凄まじいことが書かれています。
— 今井翔太 / Shota Imai (@ImAI_Eruel) 2026年9月10日
各国の軍事利用や蒸留の事実のほか、
「中国のAIサービスが、実は裏でClaudeに一部入力をルーティングし、Claudeの出力をユーザーに見せ、学習にも使っていた」
というのは中々… https://t.co/bmD76gmIqk pic.twitter.com/VwglJAMCVu
複数の企業で同時に似た手口が使われていたという点は、単発の不正というより、業界内である程度広がっていた慣行だった可能性を示しています。
Shiritomo編集部の考察
今回の件で興味深いのは、Moonshotが単に技術を盗んだのではなく、「ユーザーに気づかれない形」で運用していた点です。
Kimiの利用者は、自分がClaudeとやり取りしていることを知らされないまま、その体験を評価していたことになります。
AIサービスを選ぶ際、私たちは応答の質やスピードを基準にしますが、その裏側でどのモデルが動いているかまでは検証しようがありません。
今回はAnthropic側の監視によって明るみに出ましたが、同じような構図が他のサービスにも潜んでいる可能性は否定できません。
SNSでAIの比較レビューをする際も、「本当にそのサービス独自の技術か」という視点を持つ価値がありそうです。
まとめ
Anthropicの脅威レポートは、Moonshot・Alibaba・DeepSeekといった複数の中国AI企業が、Claudeの応答を無断で自社モデルの学習に転用していたことを明らかにしました。
表向きは別のAIとして提供されていたサービスの裏側で、実際には何が起きていたのかを知るきっかけになった出来事です。