母の声の電話に「一瞬、体が固まる」——SNS動画からAIが声を複製する詐欺が広がる
「じゃあ、お母さんの誕生日、言ってみて」。
深夜、母親を名乗る声で事故に遭ったことを告げる電話がかかってきたとき、とっさにそう聞き返した人がいます。
母にしか答えられないはずの質問のつもりでした。
電話は、突然切れました。
実家にかけ直すと、母は普通に眠っていて無事だったといいます。
9月13日、この体験がX上で共有され、大きな反響を呼びました。
声の主は、半年前に家族旅行の動画をSNSに上げていた際の、母親の声をAIで再現したものだったといいます。
先に結論をまとめると:
– 9月13日、母親の声を騙る詐欺電話を受けたという体験談がXで3000件超のいいねを集めて広がった
– 声のサンプルは、半年前に本人が投稿した家族旅行のSNS動画から取られていたとみられる
– 専門家は「声を信用しない」「家族だけの合言葉を決める」「別の電話番号にかけ直して確認する」という対策を呼びかけている
何が起きたのか
Xに投稿されたのは、次のような体験談でした。
「じゃあ、お母さんの誕生日、言ってみて」と聞いた。
母にしか答えられない質問のつもりだった。
電話は、突然切れた。
すぐに実家に電話した。
母が普通の声で出た。
「どうしたの、こんな時間に」
母は事故に遭っていなかった。
数分前まで、寝ていたと言っていた。
「じゃあ、お母さんの誕生日、言ってみて」と聞いた。母にしか答えられない質問のつもりだった。
— Gift (@gifttyk) 2026年9月13日
電話は、突然切れた。
すぐに実家に電話した。母が普通の声で出た。「どうしたの、こんな時間に」
母は事故に遭っていなかった。数分前まで、寝ていたと言っていた。…
投稿者は後日調べて、電話の声がAIで作られた母親の声だったらしいと気づきます。
半年前にSNSへ上げていた家族旅行の動画から、声のサンプルが簡単に取れる状態だったとのことです。
警察に相談したものの「未遂だから」とそれ以上は動いてもらえず、SNSの動画はすぐに非公開にしたと明かしています。
「今でも、母の声で電話がかかってくると、一瞬、体が固まる」という投稿者の言葉には、多くの反響が寄せられました。
似た手口は海外でも報告されているのか、調べてみました。
調べて分かったこと
海外でも報告されている似た手口
同様の手口は、日本国外でも報告されています。
この人は妻から電話かかってきて、「財布を忘れちゃって、ガソリン代を払うためにカードの情報を教えて」と言われた。
でも、その妻は一緒に家にいた。
この人は妻から電話かかってきて、「財布を忘れちゃって、ガソリン代を払うためにカードの情報を教えて」と言われた。
— バイリンガルニュース (@Bilingual_News) 2026年9月13日
でも、その妻は一緒に家にいた。… https://t.co/CptllkQvpb
これはアメリカでの体験談を日本語で紹介した投稿です。
引用元となった英語の投稿本文を確認すると、投稿者は”Same voice, bit… off, weird cadence but 100% sounded just like her”(同じ声だが少し違う、テンポも変だが100%妻の声に聞こえた、という趣旨)と述べ、続けて”Must be some sort of voice deepfake. The responses were too fast for ai, I think it was a voice filter.”(何らかの音声ディープフェイクのはず、応答が速すぎるのでAIではなく音声フィルターだったのではないか、という趣旨)と、その場で違和感を覚えつつも判断に迷ったことを綴っていました。
日本の事例と共通するのは、「本物の声にそっくりだが、どこか微妙に違う」という違和感が、被害を防ぐ最後の手がかりになっている点です。
なぜSNSの動画が声の素材になるのか
セキュリティの専門家によると、ボイスクローニング技術はここ数年で急速に進み、わずか3〜10秒程度の音声データがあれば、無料の音声生成ツールでも本人そっくりの声を作れるようになっています。
詐欺師が声の素材を手に入れる手段としてよく使われるのが、YouTubeやTikTok、Instagram、Xに投稿された動画やライブ配信、留守番電話の挨拶メッセージだといいます。
今回のケースでも、半年前に公開されていた家族旅行の動画が、声のサンプルの出どころだったとみられています。
どう見抜けばいいのか
専門家が挙げる対策は、大きく3つに整理できます。
1つ目は「声そのものを信用しない」こと。
2つ目は、家族だけで共有する合言葉(コードワード)をあらかじめ決めておくこと。
3つ目は、かかってきた電話にその場で応じず、いったん切ってから、自分の知っている番号にかけ直して本人確認をすることです。
今回の投稿者が「お母さんの誕生日」を尋ねたのも、この2つ目の対策に近い行動だったといえます。
実際に本人であれば、かけ直した電話でつじつまが合いますが、偽物であれば、詐欺師側は何も知らないか、電話をかけていないと答えることになります。
Shiritomo編集部の考察:公開範囲の見直しも自衛になる時代
今回の件で見過ごせないのは、詐欺の材料になったのが、悪意のない普通の投稿——家族旅行を記録した動画だったという点です。
SNSに声入りの動画を公開すること自体が、無自覚のうちに声の素材を差し出す行為になりかねません。
投稿者が「SNSの動画はすぐに非公開にした」と明かしているように、公開範囲や投稿内容を見直すことも、これからの自衛策の一つになりそうです。
一方で、家族旅行の思い出をSNSで共有すること自体を過剰に萎縮する必要もないでしょう。
むしろ大切なのは、本物か偽物か声だけでは区別がつかない時代になったという前提に立ち、家族間で確認の手段をあらかじめ用意しておくことです。
合言葉を決める、かけ直して確認するといった手間は、実際に電話を受けてから考えるのでは間に合いません。
平時のうちに家族と話し合っておく価値がありそうです。
まとめ
母親の声を騙るAI音声詐欺の体験談が9月13日にXで広がり、声のサンプルが半年前の家族旅行動画から取られていたとみられることが明らかになりました。
海外でも同種の手口が報告されており、専門家は「声を信用しない」「合言葉を決める」「かけ直して確認する」という基本の対策を呼びかけています。