ChatGPTに「ありがとう」は性能低下?アルトマン発言の真相
ChatGPTに向かって「ありがとう」と打ち込んだこと、ありませんか。
私はけっこうあります。
長い作業を手伝ってもらったとき、思わず「助かりました、ありがとう」と送っていることに気づいて、ちょっと笑ってしまうこともあります。
でも最近、その「ありがとう」がOpenAIに数千万ドルの電力コストをかけているというアルトマンCEOの発言が再び話題になっていました。
さらに「礼儀正しい言葉を使うと精度が落ちる」という指摘まで出てきて、少し気になって調べてみました。
6月6日、日本のXで「ChatGPTに『ありがとう』とつけるとプロンプトが長くなって精度が下がる」という趣旨の投稿が広まりました。
「効率重視なら不要」派と、「AIにも礼儀を」派が真っ向から対立する展開です。
この議論、どちらが正しいのでしょうか。
「数千万ドル、well spent」——アルトマン発言の原点
話の発端は2025年4月に遡ります。
あるXユーザーが「OpenAIはユーザーが『please』や『thank you』と書くことで、どれだけ電気代を損してるんだろう?」と投稿しました。
これに対し、OpenAIのサム・アルトマンCEOが直接返信しています。
「数千万ドル規模。
でも価値のある出費だよ(well spent)——いつ何が役に立つかわからないし」

この回答のトーンが絶妙でした。
コスト増を認めながらも、それを肯定的に捉えている。
アルトマン自身は「礼儀正しいユーザーを責める気はない」という姿勢を示していたのです。
ただし、この「数千万ドル」という数字は厳密な計算ではなく、アルトマン自身がやや軽い調子(”tongue-in-cheek”)で答えたものだと、TechCrunchなどは指摘しています。
気の利いた返しと受け取るべきで、正確な見積もりとして扱うには注意が必要です。
1回の「ありがとう」はLED電球3分分——実際のコストを調べてみた
では、実際のコストはどのくらいなのでしょう。
Hugging Faceのリサーチャーが発表したブログ記事「Saying Thank You to a LLM Isn’t Free」では、LLaMA 3–8Bモデルで1万件の会話を測定した結果、1回の「thank you!」への返答にかかる電力は平均約0.245 Whと計算されています。
これは5WのLED電球を約3分間つけっぱなしにするのと同程度のエネルギーです。
1回だけ見ると、ごくわずかです。
でも、世界中で毎日何億ものプロンプトが処理されていることを考えると、積み重ねで無視できない量になります。
ChatGPT全体の1クエリあたりの消費電力はアルトマンが開示したところによると約0.34 Wh。
普通の検索(0.0003 Wh)と比べると桁違いに高く、AIの電力消費の重さが改めてわかります。
なお、arXivに2025年に投稿された論文「SMALL TALK, BIG IMPACT: THE ENERGY COST OF THANKING AI」も、「礼儀正しい短文」の積み重ねが地球規模の電力消費につながる可能性を論じており、この問題は学術的にも注目されています。

では、「ありがとう」で精度は本当に落ちるのか
ここが今回の議論の核心です。
今回話題になった投稿の主な主張は「余計な言葉でプロンプトが長くなると、モデルが本来の指示に集中しにくくなる」というものです。
これは理屈としては理解できます。
LLM(大規模言語モデル:AIに文章を大量に読み込ませて作られた言語処理モデル)はプロンプト全体のコンテキストを処理するため、無関係な言葉が増えると、大事な指示への「注意」が分散する可能性はゼロではありません。
実際、過度に丁寧な言い回しが正答率をわずかに下げるという研究結果も複数存在します。
ただし「わずかに」がポイントで、差がでるのは非常に微妙なタスクや長いプロンプトの場合です。
日常的な質問に「ありがとう」と一言添えただけで、急に回答が劣化することはまずないでしょう。
それより重要なのは指示の明確さです。
「ChatGPTには礼儀より明確さが大事」というのは多くのプロンプトエンジニアが指摘するポイントで、「お願いします。
なんとなくいい感じにして」より「以下の要件を満たしてください:①〜 ②〜 ③〜」のほうがはるかに有効です。
「礼儀派」と「効率派」——どちらも正しい
Xの議論を見ていると、この話題への反応は大きく二つに分かれていました。
一つは「AI相手でも礼儀は大事」という意見です。
「習慣として礼儀を保つことが、人間関係にも影響する」「AIに感謝する気持ち自体に意味がある」という声が多く集まりました。
もう一つは「AIはツールだから効率優先でいい」という立場で、「コスト面でも精度面でも不要な言葉を省くべき」という考え方です。
どちらが正解かは、使い方と目的による、が正直なところです。
長い作業セッションで精度を最大化したい場面では、余計な言葉を省いた簡潔なプロンプトが有効。
一方で、日常的なちょっとした質問で「ありがとう」と打つことが自分の習慣や心地よさにつながるなら、それは個人の選択です。
アルトマンの「well spent」という言葉はそのニュアンスをうまく捉えていると思います。
コストはかかる。
でも、それを責める気はない、と。
さらに深掘りしたい方へ
- Saying Thank You to a LLM Isn’t Free — Hugging Face Blog
- ChatGPTへの「ありがとう」が数千万ドルに?——innovatopia.jp
- Sam Altman reveals how much energy one ChatGPT query really consumes——ComputerUser
まとめ
「ChatGPTへのありがとう」問題を掘り下げてみると、電力コストは実在するものの1回あたりは微量、精度への影響も一般的な使用では軽微という結論でした。
大切なのは礼儀の有無より、指示の明確さです。
とはいえ、習慣として礼儀を大切にしたい気持ちはまったく否定される必要もありません。
あなたはどちら派ですか?