「アタリまでAIで作った」——イラストレーターの告白が問いかけたもの
「これ、自分で描いたって言っていいのかな」。
7月5日、イラストレーターの鈴りんごさんがXに投稿した一言が、絵を描く人たちの間で静かな議論を呼んでいます。
投稿されたのは「ジュンコ」という女性キャラクターのハグシーンのイラスト。
完成度は高く、多くの反応が集まりました。
ただし鈴りんごさん自身は、その仕上がりが「実力以上に見える」ことに危機感を覚えていたといいます。
理由は、下描きの「アタリ(絵の構図・位置関係を決めるおおまかな線)」の段階でAI生成画像を参考にしていたことでした。
アタリとは何か、なぜ告白が話題になったのか
アタリとは、キャラクターのポーズや配置を決めるための、いわば設計図にあたる下描きです。
イラスト制作の最初の工程であり、ここが崩れると清書をどれだけ丁寧に描いても不自然な絵になってしまいます。

鈴りんごさんは、このアタリの部分にAIで生成したハグシーンの画像を参考にして手描きのラフを作成し、時短を図っていたと明かしました。
当初は「封印」を宣言するほど戸惑っていたものの、周囲から「理想的な使い方」「3Dモデルや写真を参考にするのと同じ」といった声が寄せられたことで、活用を続ける決意をしたそうです。
Xでの反応
この投稿は、イラスト界隈でAIとの向き合い方を考えるきっかけになりました。
今回描いたジュンコ、実力以上に上手く見えるから逆に怖い
— 鈴りんご🍎 (@SUZUR1__2nd) 2026年7月5日
アタリの段階まではAIも使ってるから実際100%一から自力で描いたとは言い難いし
反応の多くは「それはズルではない」という擁護派と、「学習元の倫理は別問題」という慎重派に分かれています。
前者は、写真や3Dモデルを参考にする行為とAI生成画像を参考にする行為に本質的な違いはないという立場です。
後者は、参考にする画像そのものが他者の作品を学習したAIによって作られている点を問題視しています。
調べてみると——「アタリ×AI」はすでに定着しつつある手法だった
今回の件を調べていくと、AIで生成した線画やラフを「アタリ」として使い、そこから手描きで清書するという手法自体は、すでにイラスト制作の現場である程度広がっていることが分かりました。

模写練習の分野では、もともと「アタリを描く練習に慣れると、ポーズが同じで服装や髪型が違う絵でも自分で描けるようになる」という考え方があります。
AIが作ったラフを下描きに使うやり方は、この延長線上にある応用と捉えることができます。
一方で、AIが生成した絵をそのまま写し取る「トレース」に近い使い方については、「観察力や創造力が養われにくい」という懸念も根強くあります。
つまり今回の議論の核心は、「AIを参考資料として使うか」「AIの出力をなぞるだけになっていないか」という、程度の差にあると言えそうです。
鈴りんごさんのケースは、あくまでアタリ止まりで清書は手描きだったことが、「理想的な使い方」という肯定的な反応につながった一因ではないでしょうか。
イラスト制作の現場では、以前から3Dモデルの人形(デッサン人形)や実写のポーズ写真を参考にする文化が根付いていました。
ポーズを取らせて構図を確認し、そこから自分の手で描き起こすという手順自体は、道具が変わっても本質的には同じです。
違いがあるとすれば、AI生成画像は「誰かの絵」を学習した結果として作られている点であり、参考にする素材そのものの成り立ちが、写真や3Dモデルとは異なります。
この点が、擁護派と慎重派の意見が分かれる本当の境界線と言えそうです。
今回のように制作工程の一部を公開する動きは、イラストレーターがAIとの距離感を手探りで決めている過程そのものだとも言えます。
禁止か解禁かの二択ではなく、「どの工程まで頼るか」を個々のクリエイターが線引きしていく段階に、今まさに差し掛かっているのではないでしょうか。
さらに深掘りしたい方へ
SocialReport編集部の考察
今回の一件は、クリエイター個人の「制作プロセスの開示」が、フォロワーとの信頼関係を左右する時代になったことを象徴しています。
AIを使ったこと自体よりも、それをどこまで正直に開示するかが評価の分かれ目になっている点は、SNS運用全般にも通じる示唆です。
企業アカウントやブランドが生成AIを活用したコンテンツを発信する際も、同様の構図が起こり得ます。
制作過程を隠すよりも、「どの工程で何を使ったか」を先回りして説明する姿勢のほうが、炎上リスクを下げつつ好意的な反応を得やすい傾向があるからです。
鈴りんごさんが「封印」から「継続」へと方針転換できたのも、周囲との対話を通じて透明性を確保できたことが大きいでしょう。
AI活用が当たり前になるほど、発信者に求められるのは技術力そのものより、開示のタイミングと言葉選びなのかもしれません。
まとめ
AIをどこまで、どう使うか。
鈴りんごさんの告白は、答えのない問いに一つの実例を投げかけました。
禁止するでも黙って使うでもなく、工程を見せながら周囲と一緒に線引きを探っていく——そんな向き合い方が、これからのイラスト制作の標準になっていくのかもしれません。
正直に開示する姿勢が、AI時代のクリエイターとフォロワーの関係を支える鍵になりそうです。