「もうちょっと頑張って」――未公開Claudeが押し上げた100年越しの数学記録
「頑張れ」「自分を信じて」。
Anthropicの研究者がそう声をかけ続けた相手は、人間ではなくAIでした。
650通りのアイデアを試してすべて失敗した後、Claudeは60体のサブエージェントを呼び出しました。
3100万トークンを費やし、100年以上にわたり数学者を悩ませてきた未解決問題に新しい数字を刻んだのです。
AI活用に関心がある読者にとって、この話は「AIが数学の難問を解いた」という一言では終わりません。
何十体ものAIを同時に走らせて未解決の課題に挑む、その進め方自体に学べるところがあります。
先に結論をまとめると:
– Anthropicの未公開Claudeモデルが、リーマンゼータ関数の非自明な零点(複素数の解)のうち、リーマン予想を満たすものの割合の下限を41.6%から67.2%へ引き上げました
– リーマン予想そのものの証明には至っておらず、Anthropicも「この手法が予想の証明に直結するとは見ていない」と明言しています
– 60体のサブエージェントが2,400のシェルコマンドと数百のPythonスクリプトを走らせ、既存の数学的アプローチを組み合わせる新しい道筋を見つけました
何が起きたのか
きっかけは、Anthropicのスタッフ、Jarred Sumner氏がふと未公開の研究版Claudeにリーマン予想を「本気で攻めてみて」と持ちかけたことでした。
リーマン予想とは、素数がどのように分布するかを説明する重要な未解決問題で、証明できれば数学のノーベル賞とも呼ばれるフィールズ賞級の成果とされています。

Claudeは直接的な証明には至りませんでしたが、関連する数値の記録を大きく更新しました。
この一連のやり取りをXで再現した投稿が話題になっています。
人間「Claude君、リーマン予想を本気で攻めてみて」
— 西村/learningBOX/競プロアカ (@ynishi2015) 2026年8月11日
Claude未公開モデル「650案くらい試したけど全部ダメでした」
人間「もうちょっと頑張って」
Claude「分かりました。60人くらいのClaudeを召喚して1日半考えます」
Claude「リーマン予想そのものは無理でしたが、… https://t.co/hXJp4R2x3X
この投稿では、Claudeが650個のアイデアをすべて失敗させた後、「60人くらいのClaudeを召喚して1日半考えます」と応じるやり取りが紹介されています。
最終的にリーマン予想そのものは解けなかったものの、関連する記録を伸ばしたという流れです。
調べて分かったこと
どうやって記録を伸ばしたのか?
Anthropicの公式発表によると、プロセスは大きく2段階でした。
まず650個のアプローチを試し、すべて行き詰まりました。
次に、約60体のサブエージェントを調整役として動かしました。
2,400個のシェルコマンドを実行し、数百個のPythonスクリプトを作成、既知のゼータ関数の零点に対して数千回の数値検証を実施しています。
この過程で生成されたトークンの総量は3,100万にのぼります。
Claudeが見つけたのは、まったく新しい数学理論ではありません。
ゼータ関数に関する既存の研究——Baluyot氏やGoldston氏、Suriajaya氏らの近年の論文——を組み合わせたのです。
正の値を取る部分と負の値を取る部分を別々に扱うのではなく、一つの関数空間としてまとめて扱うという発想の転換でした。
この工夫によって、下限を41.6%から67.2%まで、25.6ポイント引き上げることに成功しています。
本当にリーマン予想の証明に近づいたのか?
ここは慎重に見る必要があります。
Anthropicの数学者Levent Alpöge氏とRalph Furman氏が結果を検証しました。
Claude自身も、形式検証ツール「Lean」を使って機械的に確認できる形の証明を作成しています。
外部からは、ゼータ関数研究の専門家であるBrian Conrey氏とDan Goldston氏が論文を検証し、妥当性を認めたと報じられています。
ただし、Anthropicは「Claudeが使った技法がリーマン予想の証明そのものにつながるとは期待していない」と明確に述べています。
67.2%という数字は、あくまで関連する下限値の改善であり、リーマン予想の完全な証明との間には、依然として大きな理論的な隔たりが残っています。
数字だけを見ると「予想まであと少し」という印象を持ってしまいそうですが、実際にはそう単純な話ではないということです。
この成果をXで見た人の中には、AIと人類の知識の関係について独自の解釈を投稿する人もいました。
なるほど、【人類は知識を積み上げすぎて、もう人間だけでは“つなげ切れない”】んよな、論文も定理もアイデアも全部すでに存在しているのに、それらを横断して接続できる人間がいなかっただけで、今回のClaudeはその隙間を埋めたとも見える、つまり「新しい数学をゼロから発明した」というより、人類が… https://t.co/yQREHbFHNU
— paji.eth (@paji_a) 2026年8月11日
この投稿が指摘するように、Claudeがやったことは「新しい数学の発明」というより、既存の研究の断片を横断的につなぎ合わせる作業に近いといえそうです。
Shiritomo編集部の考察:明日からやることは2つ
この事例からSNS担当者やAI活用者が持ち帰れるのは、数学の成果そのものよりも「複数のAIエージェントを並行稼働させて難題に当たらせる」という進め方です。
ポイントは2つあります。
1つ目は、一つのAIに一度で正解を求めるのではなく、まず複数の切り口を並行して試させて失敗を早く出し切ること。
2つ目は、行き詰まった時に人間が細かい指示を出さなくても、「もう少し頑張って」という励ましだけでAI側が自律的に次の一手を組み立てられる場面がある、と分かった点です。
実際の業務では650通りも試す余裕はありませんが、「複数案を並行で走らせ、有望な筋だけを深掘りする」という発想自体は、コンテンツ制作や分析業務にも応用できるでしょう。
まとめ
未公開のClaudeがリーマン予想そのものを解いたわけではありませんが、関連する数値の記録を大きく塗り替えたことは事実です。
数字の伸びに注目が集まりがちですが、Anthropic自身が慎重な姿勢を崩していない点も含めて受け止めておきたいところです。
