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16万6700個のニューロンでできた配線図だけでDOOMを操作、3000回死んでも上達しない理由

Shiritomo編集部 @shiritomoAI_jp 2026年9月17日 更新
16万6700個のニューロンでできた配線図だけでDOOMを操作、3000回死んでも上達しない理由

16万6700個。
ショウジョウバエの脳と全身の神経をつなぐニューロンの数です。

このデータがまるごとコンピューター上で動くようになった途端、エンジニアたちは競うようにゲームのコントローラーを握らせ始めました。
Apex Legendsを操作させた人、Dead by Daylightで生き残りを目指させた人、そしてDOOMやスーパーマリオ64に挑ませた人までいます。
AIの学習モデルの話ではなく、実在する生物の神経配線を「そのまま」動かした結果です。
SNS運用やAI活用の現場を追いかけている人にとっても、公開データがここまで速く遊び場に変わる例はそう多くありません。

先に結論をまとめると:
– ショウジョウバエの脳の全結線図「MaleCNS v1.0」(ニューロン16万6700個、シナプス約1億2500万件)を丸ごとシミュレーションに移植し、Apex LegendsやDead by Daylight、DOOMを操作させる実験がXで相次いでいる
– 学習済みAIモデルではなく、実在するハエの神経配線をそのまま電気信号として流した「配線の実演」で、知能や意識を再現したものではない
– DOOM実験は公開から数日で3000回近く挑戦しているが、生存時間はまだ伸びていない。
「動く」ことと「うまくなる」ことの間には距離がある

何が起きているのか

発端は2026年9月3日、HHMI Janelia、ケンブリッジ大学、Google Researchのチームが発表した論文です。
成体の雄ショウジョウバエについて、脳から腹部神経索まで含む神経系全体の配線図「MaleCNS v1.0」を公開しました。
これまでで最大級の動物コネクトーム(神経回路の完全な配線図)とされています。

データが公開されると、エンジニアたちが次々に「このハエの脳にコントローラーを持たせたらどうなるか」を試し始めました。
もっとも反響が大きかったのは、Apex Legendsの新レジェンド(プレイアブルキャラクター)「Axle」を操作させた投稿です。

YOLOv5(画像認識モデル)と事前学習データを使い、16万6700個のニューロンすべてに視覚情報を流し込んで操作させたといいます。
エイムアシストが効いていたためほとんどのニューロンは不要だったというオチも含めて拡散しました。
同じ手法を使った別の投稿者はDead by Daylightにも挑戦しており、こちらも一定の反応を集めています。
ただ、こうした投稿を眺めているだけでは「意識のある生物が本当にゲームをプレイしている」ように見えてしまいます。
実際の仕組みを一次情報で確認してみました。

調べて分かったこと

なぜ配線をつなぐだけでゲームが動くのか

MaleCNSを使った実験の多くは、AIのように重みを学習させているわけではありません。
ゲーム画面の映像を、ハエが実際に持つ視覚ニューロン(明暗を検知する約3335個のR1-R6細胞、色を処理する約811個のR8細胞など)向けの刺激信号に変換し、その刺激が実在する配線をたどって運動ニューロンまで伝わり、そのまま操作コマンドに変換される仕組みです。
いわば生物の配線そのものを動かしているだけで、ゲームを理解しているわけではありません。

DOOMに挑戦したDOOMFLYというプロジェクトは、CoinbaseのエンジニアAlex Wormuth氏(X: @nftechie_)が手がけたものです。

同氏は同じ配線図を使い、暗号資産取引に挑戦させる「Stonkfly」という別プロジェクトも公開しており、ゲームだけでなく金融データの処理にまで同じ手法を広げています。
DOOMFLYでは、ダメージを受けると2つの「PPL101ドーパミン細胞」(脳内で報酬・嫌悪の信号を伝える神経細胞)に人工的な嫌悪刺激を送り、「生存に有利な行動」を強化しようとする設計です。

DOOMやマリオは本当にうまく動いているのか

ここが今回の実験でもっとも見落とされやすいポイントです。
同じくハエの脳配線でDOOMを操作させる様子は、こちらの投稿でも公開されています。

AUTOMATONの報道によれば、DOOMFLYは公開から数日で約3000回の挑戦を重ねていますが、生存時間の延長はまだ確認されていません
一方、スーパーマリオ64への挑戦はJessica Paquette氏がGPT-6 Astraによるコーディング支援を使って製作したものですが、GIGAZINEの報道ではマリオが壁に何度もぶつかるだけで、意味のある操作には至っていないと伝えられています。
つまり「ハエの脳でゲームができた」という見出しだけを見ると誤解しやすいのですが、実態は「本物の神経配線を電気信号として動かしたら、ぎこちないなりに反応した」という段階です。
投稿の中でも「これは生きているハエの脳ではない」という注記が添えられているのは、こうした誤解を避けるためだと考えられます。
日本語圏でも、CNET Japanの報道を引用する形でこの話題が広まりました。

Shiritomo編集部の考察

今回の一連の動きで注目したいのは、論文発表からわずか数日で、研究データが「みんなで遊ぶ素材」に変わった点です。
オープンソースのAIモデルが公開直後に無数の派生プロジェクトを生むのと同じ構造が、生物学の生データでも起きています。
SNS上での拡散を見る限り、真面目な検証投稿と、ネタとして反応が伸びやすい投稿(ゲームや暗号資産への応用)が混在しており、いいね数の大小だけで「技術的にすごい」かどうかを判断すると誤読しやすい題材です。
今後、他の生物の神経データが公開された際にも同様の「誰が最初に変なことをやるか」という競争が起きる可能性が高く、拡散のスピードそのものが新しい研究発表の受け止められ方を左右しつつあると言えそうです。

まとめ

ショウジョウバエの脳の配線図がそのままDOOMやApex Legendsを操作する光景は衝撃的ですが、中身は学習済みAIではなく実在する神経配線を電気信号でなぞった実演です。
「動く」ことと「うまく動く」ことの間にはまだ距離があり、今後どこまで洗練されるかが見どころになりそうです。

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