「一人で活躍できたんだろうなぁ」——佐村河内守の作曲指示書をAIに渡したら74分の交響曲になった理由
総ノート数、約2万2000。
曲の長さ、74分。
生成にかかった時間は、わずか7分36秒でした。
2014年、「全聾の作曲家」として発表されていた佐村河内守氏の交響曲の数々が、実際には新垣隆氏の手によるものだったと発覚し、日本中を騒がせました。
あのとき佐村河内氏が新垣氏に渡していたとされる「作曲指示書」——曲のイメージをバッハやオルフといった作曲家の名前を挙げながら、言葉とチャートで説明したもの——を、あるnoteユーザーが2026年9月、OpenAIの最新モデルに読み込ませてみたのです。
結果は、3楽章・約74分の本格的な交響曲のMIDIデータでした。
生成されたMIDIファイルはnote.com上でダウンロードできる形で公開されており、書き出した音源はYouTubeで限定公開されています。
SNS運用やAI活用に関わる人にとっては、「どこまで具体的に指示を書けばAIに意図が伝わるのか」を考えるヒントにもなりそうな実験です。
先に結論をまとめると:
– noteユーザー「帰宅 / kitaku」氏が、佐村河内守氏の作曲指示書をOpenAIの「GPT-6 Astra」に読み込ませたところ、3楽章・約74分・総ノート数約2万2000のMIDIが7分36秒で生成されました
– 指示書に書かれていたのは実際の音符ではなく、曲の長さ・構成・4つの主題・参照する音楽様式(バッハやオルフなど)・終わり方といった「設計図」でした
– Xでは「AI作曲時代なら佐村河内氏は一人で活躍できた」という声が上がり、構想する人と実際に音にする人を分ける制作方法が2026年には身近になりつつあるという指摘も出ています
指示書だけで交響曲は生まれるのか、noteで始まった実験
この実験を投稿したのは、noteで「帰宅 / kitaku」の名前で活動しているユーザーです。
ふだんはAIを使った音楽プロジェクト「ララ・スノウ」や「春眠倶楽部」を手がけているとプロフィールに書かれています。
きっかけは、ネット上で見つけた佐村河内守氏の作曲指示書の画像でした。
ただし、その画像をそのままAIに渡したわけではありません。
まず画像をAIに読み込ませて文字起こしをし、判読しづらい部分を補いながら情報を整理。
元の構造や情報量をなるべく保ったまま、1枚の見やすい「設計図」としてデジタル化したうえで、GPT-6 Astraへのプロンプトとして使ったといいます。
なお、元の指示書の画像そのものはこの記事には掲載されておらず、実物を見たい人は「佐村河内守 プロンプト」などで検索してほしいと案内されていました。
Xでもこの話題は静かに広がっていて、こんな反応が見られました。
😅佐村河内守さん、AI作曲時代だったら一人で活躍できたんだろうなぁと思ってたのでこれは興味深い https://t.co/E6SQhmKnRL
— 中村@ZorosDrone (@ZorosDrone) 2026年9月7日
「AI作曲時代だったら一人で活躍できたんだろうなぁ」という見立ては、まさにこの実験が投げかけている問いそのものです。
ただ、ここで気になるのは、指示書に実際どんな内容が書かれていたのか、そしてAIがそれをどう解釈したのかという中身です。
調べてわかった、指示書とAIの生成プロセス
指示書には何が書かれていたのか
noteの記事によると、デジタル化した設計図につけられたタイトルは「交響曲 第一番『現代典礼』」。
全体は3楽章、合計74分で、次のような構成だったといいます。
- 第1楽章「祈り」20分
- 第2楽章「受難」30分
- 第3楽章「フィナーレ」24分
さらに、祈り/啓示/受難/混沌という4つの主題が設定され、それぞれにヴィクトリア、バード、グレゴリオ聖歌(いずれも中世〜ルネサンス期の宗教音楽の作曲家・様式)、バッハ、モーツァルト、オルフといった参照先の音楽様式が指定されていました。
「上昇していく音楽にすること」「祈りと啓示の部分は神聖さを失わないこと」「各主題に固有の性格を持たせること」「最後に4つの主題を統合すること」というルールも書き込まれていたそうです。
音符自体はほとんど書かれていなかった、というのがこの指示書の特徴です。
曲の長さ、構成、主題、意味、参照先、終わり方だけが、かなり細かく決められていたことになります。
GPT-6 Astraはどうやって74分の交響曲を組み立てたのか
整理した設計図をGPT-6 Astraに読み込ませ、この内容にもとづいて作曲し、DAW(音楽制作ソフト)のピアノ音源に割り当てればそのまま再生できるMIDI形式で出力するよう指示したといいます。
生成にかかった時間は7分36秒でした。
書き出されたMIDIを音楽制作ソフトに読み込んだところ、全体は約74分、単一のMIDIトラックで、総ノート数は約2万2000音。
拍子は7/8、5/8、4/4など一定ではなく、調性はニ短調を中心に、テンポも全編固定ではなかったといいます。
さらにMIDI内部には「Exordium(開始部)」「Passio(受難)」「Concordia(調和)」といったラテン語のセクション名まで書き込まれていて、単に74分ぶんの音符を並べたのではなく、時間の進行そのものを設計していたことになります。
こうした「プロンプトから作曲の意図を読み取らせる」という発想について、Xではこんな受け止め方もありました。
当時の佐村河内氏がやっていたことがAIにプロンプト読ませることみたいだよねというのはたびたび言及してるんだけど、同じようなこと考えてる人はそりゃいるよねと。なかなか興味深い話。
— 櫻井マヒロ (@mahiro3901) 2026年9月7日
ちなみにYouTubeでは最新が4年前ではあるけど氏の作品がアップされていたりする。 https://t.co/zK4YgI9jNh
当時の佐村河内氏がやっていたことはAIにプロンプトを読ませることに似ている、という見立てはたびたび語られてきたそうです。
今回の実験は、その見立てを実際に試して形にしたケースだと言えそうです。
AIに曲を作らせるとき、何を書けば伝わるのか
この実験が示しているのは、AIに音楽を作らせる際に効くのは「こんな雰囲気で」といった漠然とした指示よりも、曲の長さ・構成・主題・参照する音楽様式・終わり方を具体的に言葉で示すことかもしれない、という点です。
指示書には実際の音程やリズムはほとんど書かれておらず、それでも一貫した74分の曲が生成されました。
AI作曲サービスを試したことがある人なら、「イメージ通りの曲にならない」ともどかしさを感じた経験があるかもしれません。
今回のケースを踏まえると、曲調を言葉で伝えるだけでなく、時間配分や参照したい既存曲・様式まで書き込んでみると、AIの解釈の幅が狭まり、狙った構成に近づく可能性がありそうです。
結局、この曲は誰が「作曲」したと言えるのか
note記事の筆者は、今回の工程を次のように整理しています。
佐村河内守氏による構想 → 作曲指示書 → AIによる文字起こし・整理 → 筆者によるデジタル化 → GPT-6 Astraによる解釈と音符化 → MIDI → DAWによる発音
ここまで分解すると、「誰が作曲したのか」は簡単には答えられなくなります。
楽章構成や主題、時間配分、終結方法を決めることも作品を作る行為ですし、実際の音程やリズムを決めることもまた作曲だからです。
生成AIは、この二つの作業を別々の主体に分けられるようにした、という見方もできそうです。
佐村河内氏について、「プロデューサーに徹していれば良かったのではないか」という見方は、事件発覚後にたびたび語られてきました。
構想を練る人と、それを音に落とし込む人が別だという体制は、当時は特殊な事件として語られましたが、2026年にはAIを介してかなり身近な制作方法になりつつあるのかもしれません。
なお、生成されたMIDIファイルはnote記事内でそのままダウンロードできる形で公開されており、書き出した音源もYouTubeで限定公開されているとのことです。
曲自体の完成度をどう評価するかについて、記事の筆者は「これを作曲と呼ぶのか、実際に聴いた人に委ねたい」と明言を避けていました。
Shiritomo編集部の考察:構想と実装を分けて発注する発想は、コンテンツ制作全般に効く
この実験がおもしろいのは、あくまで一個人がnoteに投稿した検証であるにもかかわらず、SNSでの反応自体は決して大きくなかった点です。
取得できたポストのいいね数は9件・2件にとどまりました。
それでも一次情報のnote記事には365件の「スキ」が集まっており、拡散の起点はXではなくnote側にあったとみられます。
話題の火種がプラットフォームをまたいで移動するケースとして、SNS運用者は「バズの兆候をXだけで測らない」ことを意識する必要がありそうです。
もう一つの示唆は、指示書の設計思想そのものです。
「曲調」ではなく「構成・尺・主題・参照先・終わり方」を先に固めてから中身を任せるという発注の型は、記事構成や動画構成など、AIに何かを作らせる場面全般に応用できる考え方だと感じます。
まとめ
佐村河内守氏の作曲指示書は、2014年には「ゴーストライター事件」の証拠として語られましたが、2026年にはAIへのプロンプトの実例として読み直されています。
74分・約2万2000音の交響曲が生まれたという結果よりも、構想と実装を分けて発注するという発想そのものが、この実験の一番の収穫なのかもしれません。
さらに深掘りしたい方へ
今回の実験そのものは、GPT-6 Astraに佐村河内守の「作曲指示書」を渡したら、74分の交響曲を作った。
(note、帰宅 / kitaku氏)で詳しく読むことができます。
生成されたMIDIファイルのダウンロードや、書き出した音源へのリンクもこの記事内にまとまっています。

