「まだ続けろ」——ChatGPTへの4回の指示が、30年破れなかった数学予想を崩した
58対60。
この「2」の差が、1999年に提唱されてから約30年間、誰にも崩せなかったグラフ理論の未解決問題を突き崩しました。
反例を組み立てたのはOpenAIのChatGPT Pro(GPT-5.6 Pro)で、研究者が送った指示は合計4回・58単語だけだったといいます。
途中でAIが手を止めかけた場面もあったようです。
それでも人間が「続けろ」「まだやれるはずだ」と促し続けた結果、数時間後に反例が完成しました。
AIに何をどう指示すれば成果が引き出せるのか——今回の一件は、その具体例として読み解けます。
先に結論をまとめると:
– 深圳の数学者Dmitry Rybin氏が、ChatGPT Pro(GPT-5.6 Pro)を使い1999年提唱の「Dinitz-Garg-Goemans予想」の反例を発見しました
– 反例は7ノード・9エッジの有向グラフで、分割可能なフローのコスト58に対し、1本道に絞ったフローは必ずコスト60以上になることを示しています
– AIが行き詰まった場面で人間が「続けろ」と促し続けたことが突破口となった一方、査読はまだ完了していません
Xで広がった「続けろ」の一言
きっかけは、深圳を拠点にする数学者Dmitry Rybin氏がXに投稿した一連のツイートでした。
Rybin氏は香港中文大学(深圳)の博士課程に在籍しつつ、AIスタートアップの共同創業者でもある人物です。
氏はChatGPT Proに「Dinitz-Garg-Goemans予想」という1999年提唱のグラフ理論の問題を投げかけ、約5時間で反例を完成させたと明かしました。
この予想は、「複数のルートに分けて流せる輸送計画(分割可能フロー)を、1本のルートだけを使う計画(分割不可能フロー)に組み替えても、総コストを増やさずに済ませられるか」を問うものです。
物流の最適化などにも関わる基礎的な問題で、約30年にわたり反証も証明もされていませんでした。
このニュースを海外のAI系インフルエンサーがいち早く拾い、拡散させています。

(日本語訳: GPT-5.6 Proがまた30年来の数学予想を打ち崩したかもしれない。
研究者のDmitry Rybin氏によれば、このモデルがDinitz-Garg-Goemans予想の反例を見つける手助けをしたという。
複数ルートに分けられるフローを、1ルートに絞っても総コストを増やさずに変換できるかを問う問題だ、という内容)
GPT-5.6 Pro may have just killed another 30-year-old math conjecture…
— Wes Roth (@WesRoth) 2026年7月22日
researcher Dmitry Rybin says the model helped find a counterexample to the Dinitz-Garg-Goemans conjecture.
the problem asks whether a flow that can be divided across several routes…
can always be… https://t.co/G6ZFFJ6v7k pic.twitter.com/GDSAkArYWA
投稿は瞬く間に拡散し、コメント欄には「励ますだけのAIサポーターがいれば最強」「まるで熱血コーチだ」といった、粘り強い後押しを面白がる反応も広がりました。
ただ、話題になった数字の中身——コスト58と60が具体的に何を意味するのかは、この段階では判然としません。
そこで一次情報を確かめてみました。
調べて分かったこと
反例の中身はどうなっているのか?
Rybin氏が公開した内容によると、反例となるグラフは7つのノード(頂点)と9本の有向エッジ(矢印付きの経路)からなる比較的小さな構造でした。
3つの配送先に対してそれぞれ2つのルートが用意されており、経路の組み合わせは合計2の3乗、つまり8通りしかありません。
専門家でなくても総当たりで検証できるほどコンパクトな反例だったといいます。
この構造の中で、複数ルートに分けて流す「分割可能フロー」の最小コストは58でした。
ところが、1つの配送先につき1本のルートしか使えない「分割不可能フロー」に組み替えようとすると、どの組み合わせを選んでも最小コストは60以上になってしまいます。
たった2という差ですが、この差こそが「コストを増やさずに変換できる」という予想を覆す決定打になりました。
AIはなぜ「続けろ」で反例を見つけられたのか?
複数の報道によると、Rybin氏がChatGPT Proに送った指示は合計4回、単語数にして58語ほどだったといいます。
内容も「研究を続けろ、完全で無条件の反例を見つけろ」「もう十分だ、やってみせろ」といった、具体的な数式や戦略を指定しない簡潔な催促が中心でした。
AIが手を止めそうになった場面では「お前が出せる最善は完全な反例のはずだ」と後押しし、最終的に反例を完成させたと伝えられています。
複雑なプロンプト設計をせずとも、AIに広い探索空間をしらみつぶしに試させ、「まだ甘い、続けろ」と粘り強く要求し続けることが突破口になった格好です。
数学コミュニティの反応も早く、Rybin氏の反例をさらに一般化しようとする投稿も見られました。
(日本語訳: 「Rybinの反例は、同じ7ノード構造上に成り立つ無限のパラメータの集合のうちの1点に過ぎない」という趣旨の、高度に技術的なコメント)
Hello Rybin's Dinitz-Garg-Goemans counterexample is one point of an infinite 3-parameter family on the same 7 nodes.
— Hensen Juang (@basedjensen) 2026年7月22日
Pick integers b, m, g >= 1 with m <= b-g and m(b-m) > (b+m)g.
Demands: t1 = t3 = b+m, t2 = b (so d_max = b+m).
Capacities = the fractional flow; costs on 3 arcs:… https://t.co/2A1rx7Wi4O
数式の羅列が中心の専門的な内容のため、ここでは「反例が孤立した一例ではなく、より広い法則の一部である可能性が示された」という点だけ押さえておけば十分でしょう。
この反例は「確定」したのか?
ここは慎重に見る必要があります。
Rybin氏はChatGPTとのやり取り全文と証明書、検証用データを公開していますが、数学専門誌による正式な査読はまだ完了していません。
海外メディアの中には「公開された会話記録に、具体的な証明の全過程が明確には示されていない」と慎重な見方を示す報道もありました。
反例自体は8通りの経路を総当たりで確認できるシンプルな構造のため独立検証は進んでいるとみられますが、現時点では「未確定・査読前」の成果として捉えるのが妥当です。
Shiritomo編集部の考察:AIへの指示は「具体性」より「粘り強さ」で決まることもある
今回の一件で興味深いのは、Rybin氏が高度なプロンプトエンジニアリング(AIへの指示文を工夫して精度を上げる技術)を駆使したわけではなかった点です。
彼が送ったのは「続けろ」「まだやれる」といった、ごく簡単な催促の繰り返しでした。
これはSNS運用やAIを使ったコンテンツ制作の現場にも示唆があります。
担当者はつい、最初から完璧な指示文を作り込もうとしがちです。
しかし今回のケースが示すのは、AIが出した答え(あるいは諦めかけた反応)に満足しない姿勢の大切さでした。
「本当にそれが限界か」と粘り強く問い直す姿勢こそが、AIの潜在能力を引き出す鍵になり得ます。
投稿文をAIに作らせるときも、一発で採用せず「もっと具体的にできないか」と何度も揺さぶりをかけることで、思わぬ精度の高い出力にたどり着くことがあります。
人間側の「まだ足りない」という粘りが、成果を左右する場面は今後も増えていきそうです。
まとめ
わずか58語・4回のやり取りと、7ノードの小さなグラフが、30年間誰も崩せなかった数学の壁を動かしました。
反例が正式に認められるかはこれからですが、「続けろ」という粘り強い後押しが、AIの限界を押し広げたという構図は、AI活用のヒントとして覚えておいて損はなさそうです。
さらに深掘りしたい方へ
反例発見の経緯やプロンプトのやり取りの詳細は、Diggの報道でも紹介されています。

