SNOWに措置命令、SUUMOに7万いいね——この1ヶ月、SNSの広告に規制の目が集中していました【編集部まとめ】
70件を超えるX投稿、71,020件のいいね、12,589件の苦情——数字だけ並べると、それぞれ無関係な出来事に見えます。
ですがこの1ヶ月、SNS上の「広告」と「子どもの安全」をめぐって、消費者庁・JARO・そして政府7府省庁までもが立て続けに動いていました。
SNS運用やインフルエンサー施策に携わる人にとっては、他人事では済まされない1ヶ月です。
先に結論をまとめると:
– SNOWの措置命令からSUUMOの加工写真炎上まで、”広告と気づかれない表示”が次々と法令違反の疑いを指摘されました
– JAROへの苦情は過去最多、政府はGoogle・Meta・X・TikTok・LINEヤフーの5社に本人確認の強化を要請しました
– 子どものSNS利用にも規制の手が及び始めており、運用担当者は「表示」と「安全設計」の両方を見直す段階に入っています
いま、SNS広告と安全性に何が起きているのか
きっかけを1つに絞るのは難しいですが、流れをたどると輪郭が見えてきます。
8月6日、消費者庁がSNOWの運営会社にステマ規制で措置命令を出しました。
その8日後にはSUUMOの物件写真にAI加工の”盛りすぎ”疑惑が広がり、71,020件のいいねを集めました。
個別の炎上に見えたこの2件は、実は同じ根っこを持っています。
「広告や加工であることを、消費者が気づける形で示しているか」という一点です。
同じ時期、JAROが公表した2025年度の苦情件数は12,589件と過去最多を更新し、ネット広告への苦情が初めて6割を超えました。
表示のトラブルは、もはや一部の炎上事例ではなく、業界全体で膨らんでいた数字だったことになります。
そして8月に入ってからは、政府の動きも本格化しました。
高市総理の偽サイト詐欺をきっかけに7府省庁がプラットフォーム5社へ本人確認の強化を要請し、子どものSNS利用を守る規制法案の方針づくりも動き出しています。
ここからは、この1ヶ月に起きた8つの出来事を順に見ていきます。
消費者庁からインスタまで、この1ヶ月SNSに突きつけられた8つの規制
1. インフルエンサーの”台本”が、景品表示法違反に問われた
8月6日、消費者庁は写真加工アプリ「SNOW」を運営するSnow CorporationとSNOW Japanに、ステマ規制(景品表示法上の「ステルスマーケティング告示」)に基づく措置命令を出しました。
対象は70件を超えるX投稿で、2025年4月ごろから始まり、一部は2026年6月まで表示され続けていたといいます。
今回の一件が重かったのは、単に対価を渡していたからではありません。
「今流行ってるAI生成画像、SNOWでやってみた」という投稿の文面そのものを、会社側が指定していた点です。
感想を書いてもらうのではなく”台本”を用意していたことが、ステルスマーケティングと認定された核心でした。
案件投稿を依頼する側にとっては、対価の有無より「誰が文面を決めたか」が問われる、という教訓が残ります。
2. 「これ普通に景品表示法違反だと思うんだ」、7万いいねが暴いた不動産写真の加工
SNOWの措置命令から8日後の8月14日、今度はSNSユーザー自身が”審判”になりました。
不動産ポータルサイトの物件写真について「これ普通に景品表示法違反だと思うんだ」と指摘した投稿に、71,020件のいいねと693万インプレッションが集まったのです。
調べてみると、不動産公正取引協議会連合会の規約では「電柱や隣接建物の消去」「存在しない眺望の合成」は、注記があってもなくても不当表示にあたるとされていました。
一方で「搬入可能な家具の配置」のように、消費者が判断できる注記付きの加工は認められています。
線引きの基準は加工の有無ではなく、消費者が正しく判断できる材料が示されているかどうかでした。
違反が認定されれば、売上の3%にあたる課徴金の対象にもなり得ます。
3. 100万インプレッションの日傘投稿、批判の的は美肌効果ではなく「PR」の文字の小ささだった
8月1日、ヘアケアブランドで知られるI-ne社の新ブランド「XTGR」の日傘を着用したインフルエンサー・ひめかさんの投稿が、約100万インプレッションを集めました。
称賛されていたのは日傘の美肌効果でしたが、数時間後には話題の中心が一変します。
ストーリー右上に小さく書かれた「PR」の文字に、閲覧者が気づき始めたのです。
法律上は「広告であることの明示」という最低条件を満たしていたとしても、読者が気づける表示になっていなければ意味が薄れてしまいます。
Instagramには「タイアップ投稿ラベル」という、見た人が見落としにくい位置に自動表示される公式機能があります。
手書きのPR表記だけに頼ると、法律のクリアとSNS上の信頼のクリアは必ずしも一致しないと分かる事例でした。
4. ネット広告への苦情が初めて6割を超えた、その内訳
日本広告審査機構(JARO)が2026年7月に公表した2025年度の苦情件数は12,589件と、設立以来最多を記録しました。
中でもネット広告への苦情は前年度の1.7倍に増え、初めて全体の60.9%を占めています。
SNOWや日傘の一件は個別の炎上に見えても、実は業界全体で膨らんでいた不満の一部だったことになります。
内訳を見ると、電子コミックなど電子書籍・動画配信業種の性的表現への苦情が909件、ダークパターン(利用者を意図せず不利な操作へ誘導するUI設計)への苦情も前年比163.8%の1,027件に達しています。
特に目を引くのが、生成AIで著名人になりすました投資詐欺広告への苦情で、前年比478.8%という突出した伸び率を記録しました。
5. 消えていたのは3年半分、LINE広告の「消してはいけない記録」
7月24日、LINEヤフーはLINE広告に関するユーザー記録の一部を、2022年12月から2026年6月まで約3年半にわたって誤って削除していたと発表しました。
漏えいではなく、本来保存すべき記録を消しすぎていたという逆方向のミスです。
削除されていたのは、個人情報保護法が第三者への提供時に保存を義務づけている「第三者提供に係る記録」でした。
情報漏えいや配信への実害は確認されていないとされていますが、ユーザーが開示請求をした場合、対象期間分の履歴が不完全になる可能性があります。
実害は見えていないのに、検証の手段そのものが3年半分失われていたという点が、この件の重さを物語っています。
LINE広告でターゲティング配信を行う運用担当者にとっても、他人事とは言い切れない話です。
6. 「45,000円が1日で30万円に」、高市総理の偽サイトが政府を動かした
首相官邸のホームページを模した偽サイトに、「日本政府が開発した金融ソリューションにより、45,000円をたった1日で300,000円に変えることができます」という文言が並んでいました。
高市総理の映像を無断で使ったこの手の偽サイト・偽広告は2026年に入ってから何度も確認され、ついに8月7日、政府が動きます。
警察庁・金融庁・消費者庁・デジタル庁・総務省・法務省・経済産業省の7府省庁が、Google・Meta・X・TikTok・LINEヤフーの5社に対し、広告主の本人確認強化と詐欺広告の迅速な削除を共同で要請しました。
読売新聞の報道では「7府省庁が連携してこのような要請を行うのは初めて」とされています。
背景にはSNS型投資詐欺の2025年被害額、約1,274億7,000万円(前年比46.3%増)という数字があります。
5社は10月16日までに対策方法を報告する予定です。
7. 「利用禁止」ではなく「安全設計」、子どものSNS規制が動き出す
高市総理が動いたのは広告主の本人確認だけではありません。
黄川田仁志こども政策担当大臣に対し、子どものSNS利用を守るための規制法案の方針を年末までにまとめるよう指示しました。
多くのSNSが今も登録時の生年月日の自己申告だけで年齢確認を済ませている状態に、切り込む動きです。
検討されているのは、利用そのものの禁止ではなく、アカウントの初期設定を非公開にする、知らない大人からのDMを制限する、年齢にふさわしくない投稿をレコメンドに出さないようにするといった、年齢に応じた安全設計です。
法案提出の目標は2027年の通常国会。
SNS運用担当者にとっては、10代ユーザーへのリーチ方法そのものを見直す準備期間に入ったと言えそうです。
8. 検索履歴から親へ通知、インスタが夏休み明けに合わせて始めた機能
政府や業界団体だけでなく、プラットフォーム自身も動いています。
Metaの日本法人は8月17日、13〜17歳のInstagramユーザーが自殺や自傷行為に関連する語句を短期間に繰り返し検索すると、保護者へメールやSMSで通知が届く新機能を発表しました。
実際の提供開始は8月14日から。
夏休み明けは子どもの自殺者数が増える傾向がある時期で、そこに合わせた導入です。
通知を受け取るには、保護者があらかじめ「ペアレンタルコントロール」(子どもの利用時間やアカウントを保護者側から管理できる機能)で子どものアカウントと連携させておく必要があります。
この機能は2026年2月に米国など4カ国で先行導入されており、海外の自殺予防の専門家からは「通知だけでは対話の準備ができない」という指摘も出ています。
検索した後に気づく仕組みより、そもそも有害な情報に行き着きにくくする設計が優先されるべきだという論点は、日本でも今後参照されそうです。
8個の事例を1枚にまとめると
| 事例 | 数字 | 効いたもの |
|---|---|---|
| SNOWのステマ措置命令 | 70件超のX投稿 | 会社側が指定した投稿文言 |
| SUUMOのAI加工写真 | 71,020いいね/693万imp | ユーザー自身の指摘 |
| ひめかさんの日傘投稿 | 約100万imp | 小さすぎたPR表記 |
| JARO苦情件数 | 12,589件(過去最多) | ネット広告苦情60.9% |
| LINE広告データ誤削除 | 約3年半分 | 保存義務のある記録の欠落 |
| 政府7府省庁の要請 | 45,000円→30万円詐欺 | 5社への本人確認強化要請 |
| 子どもSNS規制方針 | 2027年通常国会目標 | 年齢に応じた安全設計 |
| インスタ自殺検索通知 | 13〜17歳対象 | ペアレンタルコントロール連携 |
Shiritomo編集部の考察:明日から確認すべきことは3つ
8つの事例を並べて見えてくるのは、規制の矛先が「表示の仕方」から「仕組みそのもの」へと移っている流れです。
SNOWの措置命令では対価の有無より”誰が文面を決めたか”が問われ、SUUMOの一件では加工の有無より”消費者が判断できる材料があるか”が問われました。
どちらも、法律のクリアと読者の納得のクリアは別物だと突きつけています。
明日からできることは3つです。
1つ目は、インフルエンサー案件で文言を指定していないか、依頼メールを見直すこと。
2つ目は、公式のタイアップ表示機能を使い、手書きのPR表記に頼らないこと。
3つ目は、10代ユーザー向け施策があるなら、DM制限やレコメンド制限が始まった場合の代替導線を今のうちに考えておくことです。
規制は”起きてから対応する”には手遅れになりやすい領域です。
まとめ
SNSの「広告」と「子どもの安全」をめぐる規制は、この1ヶ月で一気に具体化しました。
表示の仕方も仕組みも、”あとで直す”では間に合わない段階に入っています。







