「なんて可愛いの」——ライバル厩舎の2頭が、同じ馬運車で凱旋門賞へ向かっていた理由
薄暗い馬運車(競走馬を運ぶための専用トラック)の中、網に顔を突っ込んで乾草を頬張る2頭の馬。
「むしゃむしゃ」というテロップと、飼い葉をくわえたまま首を振り回す1頭に添えられた「なんて可愛いの❤️😘❤️」の一言。
ある競馬ファンアカウントがこの動画のワンシーンを4枚の画像にして投稿すると、わずか数時間で「いいね」2,438件、インプレッション5万3,000件超えに達しました。
投稿者が添えたコメントはこうです。
「皆っ!!!テラちゃんの近藤旬子オーナーのInstagramみて…!!2人とも可愛い💕😭」。
SNS運用に携わる人なら気になるのは、この何気ない“食事シーン”がなぜここまで広がったのかという点です。
調べてみると、単なる可愛い動物動画では終わらない背景がありました。
先に結論をまとめると:
– 元になったのは競走馬「アドマイヤテラ」馬主・近藤旬子さんのInstagramリール(短尺動画を投稿できる機能)。
それをファンアカウントがX(旧Twitter)に転載したことで拡散した
– 動画に映る2頭は、10月4日の凱旋門賞(フランス・パリロンシャン競馬場)に出走するアドマイヤテラとメイショウタバル。
所属厩舎はライバル同士だが、同じ馬運車に同乗して現地へ向かっていた
– 「無編集の日常カット」が持つ説得力の強さと、ファンアカウントによる再編集・再投稿が拡散を後押しした構図が見えてきました
Xでの盛り上がり
投稿にあった4枚の画像を見ると、狭い馬運車の中で2頭が並んで乾草をむしゃぶる様子が収められています。
テロップには「2頭で仲良く食事Time😋」「テラさんむしゃぶりついて振り回す😋」とあり、これは投稿者の言葉ではなく、もとの動画自体に焼き込まれたキャプションです。
つまりこの投稿は、馬主本人が制作したInstagramリールのスクリーンショットを、ファンがそのままXに“輸入”したものだとわかります。
皆ッ!!!テラちゃんの近藤旬子オーナーのInstagramみて…!!2人とも可愛い💕😭 #アドマイヤテラ #メイショウタバルhttps://t.co/fCTCepJJ7u pic.twitter.com/AoT09LQwdH
— まんちん🐶 (@hime_keiba_0314) 2026年9月8日
リプライやリツイートの反応を見る限り、目立った批判的な声はなく、素直な「かわいい」への共感が広がった形です。
ただ、この可愛らしさだけでは説明がつかない部分がありました。
なぜ所属厩舎の異なる2頭が、同じ馬運車に同乗していたのかという点です。
調べて分かったこと
なぜ「ライバル」の2頭が同じ馬運車に乗っていたのか
複数の競馬メディアの報道によると、アドマイヤテラ(牡5歳・栗東所属、友道康夫調教師)とメイショウタバル(牡5歳・栗東所属、石橋守調教師)は、2026年10月4日にパリロンシャン競馬場で行われる凱旋門賞への出走のため、9月8日に栗東トレーニングセンターを出発しました(サンケイスポーツ/Yahoo!ニュース)。
2頭は検疫厩舎(海外へ渡る前に健康状態を確認する専用の厩舎)から落ち着いた様子で現れ、同じ馬運車に乗り込んだあと、同日夜に成田国際空港からフランスへ向かう予定だったといいます。
所属厩舎は違っても、同じ目的地・同じ便で移動するため馬運車を共有するのは合理的な選択です。
見送ったメイショウタバル担当の石橋調教師は「今日は運動だけ行いました。
メンタルは安定しているし、朝早い時間に他の馬がいないのもよかったかも」とコメント。
アドマイヤテラの友道調教師も「栗東には在厩10日ぐらいだったので、整えるイメージでした。
日本競馬とは種類が違う、あちらの競馬に適性があるのではということでの遠征です」と語っています(馬トク報知/Yahoo!ニュース)。
同じタイミングで競馬メディアの公式アカウントも「2頭で乾草食べてるなんて可愛いが過ぎる!!!」と、ほぼ同じ場面を伝えていました。
いざ、仏蘭西へ!
— 日刊ゲンダイ 競馬 (@gendai_keiba) 2026年9月8日
メイショウタバル、アドマイヤテラと成田国際空港の馬専用・ホースストールに乗り込みました。
タバルさん担当の上籠調教助手より。
いや、それにしても2頭で乾草食べてるなんて可愛いが過ぎる!!!
行ってらっしゃい!#メイショウタバル #アドマイヤテラ#凱旋門賞 pic.twitter.com/6nH86v5JpU
なお、動画で「テラさん」と呼ばれているのはアドマイヤテラを指しています。
もう1頭についてはテロップ内での明示はありませんが、投稿のハッシュタグ(#アドマイヤテラ #メイショウタバル)と上記の報道内容から、メイショウタバルであると考えられます。
アドマイヤテラは2024年の菊花賞3着、2025年の目黒記念で重賞初制覇を果たした実力馬。
長旅の直前に見せた無防備な“食いしん坊”な一面が、普段のレース映像とのギャップになっていたことも見逃せません。
Shiritomo編集部の考察:無編集の「日常」が持つ強さ
この投稿が伸びた要因は、内容そのものの可愛さだけではありません。
SNSマーケティングの視点で見ると、「本人が制作した一次コンテンツを、熱量の高いファンが“翻訳”して届ける」導線の強さが際立ちます。
馬主のInstagramアカウントは競馬ファンの間でも全員がフォローしているとは限りません。
そこにファンアカウントが「見て!」という一言を添えて再編集・転載することで、Instagramの外側にいた層にまでリーチが広がっています。
企業公式アカウントが同じ内容を「凱旋門賞出走のため本日出発しました」と発表しても、ここまでの反応にはならなかったでしょう。
テロップ付きの飾らない日常カットのほうが、整えられた告知よりも人の感情を動かしやすいという実例です。
ブランドアカウントの運用でも、公式発表と並行して「編集前の素材」を出す余地がないか、検討する価値がありそうです。
まとめ
「なんて可愛いの」という一言から広がった投稿の正体は、凱旋門賞に挑む2頭の競走馬が、旅立ちの夜に見せた気の抜けた一コマでした。
可愛さの裏には、ライバル厩舎の垣根を越えた長旅の合理性と、ファンによる“翻訳”の力があったといえそうです。