推し活にハマるのは「心の穴」のせい? 1,147人調査が示す社会不安との関係
「社会不安レベルが高い人ほど、極端な推し活に陥りやすい」。
科学ニュースメディア・ナゾロジーがXにこう投稿したところ、わずか数日で130万インプレッション、1万2000件を超えるいいねが集まりました。
ブックマーク数も2,400を超え、保存して後で読み返したいと考えた人が多かったことがうかがえます。
推し活といえば、Instagramのストーリーズで日々の応援を発信したり、Xで感情を共有したりと、いまや多くの人にとって日常的なSNS活用のひとつです。
だからこそ「なぜ人は推しにここまでのめり込むのか」という問いは、ファン心理を理解したいSNS運用者・マーケターにとっても他人事ではありません。
先に結論をまとめると:
– 中国の大学生1,147人を対象にした調査で、社会不安が高い人ほど「セレブ崇拝(celebrity worship)」に陥りやすいという相関が確認されました
– その関係は「スマホ依存」を経由して強まる、という統計的な媒介構造が示されています
– ただしこれは中国の大学生という限られた集団を対象にした横断調査であり、日本の推し活文化にそのまま当てはめられるかは慎重に見る必要があります
Xでの盛り上がり——「わたしのことじゃん」という反応の連鎖
科学ニュースメディア・ナゾロジーの公式アカウントが投稿したのは、「社会不安レベルが高い人ほど極端な推し活に陥りやすい」という調査結果の紹介でした。
若者の間で広がる過度な推し活やインフルエンサーへの盲信を心理学では「有名人崇拝」と呼ぶこと、そして中国の研究チームが社会不安の強さとこの状態の関係を報告したことが、短い文章にまとめられています。

社会不安レベルが高い人ほど「極端な推し活」に陥りやすいhttps://t.co/qJNapROl5c
— ナゾロジー@科学ニュースメディア (@NazologyInfo) 2026年7月31日
近年は若者を中心に過度な推し活、インフルエンサーへの盲信が増えています。こうした現象は心理学で「有名人崇拝」と呼ばれており、中国SNHは社会不安レベルが高い人ほどこの状態に陥りやすいと報告しています。 pic.twitter.com/cqAfICQNmN
引用ツイートには「わたしのことじゃんこれ」「号泣」といった、自分自身を重ねる反応が並ぶ一方で、「オタクをやばい人みたいに扱うな」という反発の声もありました。
賛同と反発が同時に起きるくらい、多くの人が自分ごととして受け止めたことがコメント欄からは見えてきます。
ただ、投稿1本の紹介文だけでは「本当にそんな研究があるのか」「どこまで確からしいのか」は分かりません。
ここから先は、元になった学術論文まで遡って確認しました。
本当にそんな研究があるのか?
はい、実在します。
2023年10月31日付で学術誌『BMC Psychology』に掲載された、陝西師範大学心理学部の研究チームによる論文です。
19〜26歳の中国の若者1,147人を対象にオンラインアンケートを実施し、社会不安・スマホ依存・家庭の社会経済的地位(SES)・セレブ崇拝の度合いを測定しています。
主な結果は次の3点でした。
- 社会不安と社会経済的地位は、それぞれセレブ崇拝と正の相関がある
- 社会不安は「スマホ依存」を介して間接的にセレブ崇拝を強める
- 家庭の社会経済的地位が高いほど、この関係の強さが変化する(調整効果がある)
なぜスマホ依存が間に挟まるのか?
研究チームが根拠にしているのは「吸収-依存モデル(Absorption-Addiction Model)」という心理学の理論です。
人は対人関係や社会的なつながりが十分に満たされないとき、その「空白」を埋めるためにセレブへの没入で代償しようとする、という考え方です。
社会不安が強い人ほど対面でのやり取りを避け、スマホの中の世界(SNSでの発信・視聴)に時間を費やしやすくなり、その延長でセレブやインフルエンサーへの関与が深まっていく——という流れが仮説として描かれています。
この結果はどこまで信じていいのか?
科学メディアZME Scienceも同じ研究を取り上げていますが、記事は「この発見は中国の特定の人口層に焦点を当てたものであり、知見は塩を一つまみ添えて受け取ってほしい」と、一般化には注意を促しています。
対象が中国の大学生1,147人に限られている以上、日本の推し活文化や、大学生以外の年代にもそのまま当てはまるとは言い切れません。
また今回の調査はある時点でのアンケート結果を分析したものなので、「社会不安が先にあってセレブ崇拝を引き起こす」という時間的な前後関係まで証明されたわけではない点にも注意が必要です。
ZME Scienceの記事も、推しへの関心が「インスピレーションの範囲内にとどまっている限りは問題ない」と結んでいます。
実際、引用ツイートの中には研究結果をそのまま鵜呑みにしなかった声もありました。
ネガティブ思考で将来への不安も抱えているのに推し活にハマった経験がないという投稿者は、自分の実感と統計的な傾向とのズレを率直に言葉にしています。
読んで思ったんだけど私は
— Task オタク社長(Morita Yuichiro) (@task_likes_inc) 2026年8月1日
・根がネガティヴで
・将来に不安を感じているし
・自信もないんだけど、
それでも推し活にハマったことがないのは何故だろう https://t.co/bn0VCHHZ1n
こうした「当てはまらない例」の存在も踏まえると、研究が示すのはあくまで集団としての傾向であり、一人ひとりの推し活の理由を説明し尽くすものではなさそうです。
Shiritomo編集部の考察:ファンの熱量は「心配の種」ではなく「理解すべきデータ」
この研究が示すのは、推し活そのものが良い悪いという話ではなく、熱量の高いファン行動の背景には「満たされない何か」が関わっている場合があるという視点です。
SNS運用者やインフルエンサーマーケティングに携わる立場からすると、これはフォロワーの熱心な反応を「エンゲージメントが高い」という数字だけで見るのではなく、その裏にある心理的な動機まで想像するきっかけになります。
過度な依存を煽るような演出は短期的な数字を伸ばせても、フォロワーとの関係を長期的に健全なものにするとは限りません。
推しとファンの関係を「一方通行の消費」ではなく「安心して没入できる居場所」としてどう設計するかは、これからのファンマーケティングの重要な論点になりそうです。
まとめ
社会不安が高い人ほど極端な推し活に陥りやすいという研究結果は実在し、スマホ依存がその橋渡し役になっているようです。
ただし対象は限定的なので、「自分や周りに当てはまるかも」と感じても、過度に一般化せず一つの視点として受け止めるのがよさそうです。
さらに深掘りしたい方へ
研究の詳細を確認したい方は、以下も参考にしてください。