「頑張る意味が見いだせない」――月10時間浮かせても上司に黙り、恋愛アプリに使う社員たち
エンタメ企業に勤める20代男性のUさんは、社用の生成AIツールを使って自分だけの業務効率化ワークフローを組み上げ、月10時間ほどの業務削減に成功しました。
ところが、この事実を同僚にも上司にも一切報告していません。
浮いた時間はというと、恋愛マッチングアプリに充てているそうです。
「AIで仕事が楽になった」という話は、たいてい前向きな文脈で語られます。
ですが実態を調べていくと、成果を隠したまま静かに時間を取り戻す人が、特に若い世代で目立って増えていることが分かってきました。
SNS運用やAI活用を仕事にしている人にとっても、部下やメンバーが同じことをしていないとは言い切れない話です。
先に結論をまとめると:
– 米Ivantiの調査で、生成AIによる生産性向上を雇用主に「隠している」人が32%にのぼった
– 隠す一番の理由は「秘密があることの優位性を好むため」で、次いで「仕事が増える」「雇用主がAI活用ポリシーを定めていない」などが続く
– パーソル総研の別調査では、AIで浮いた時間の61.2%が結局また仕事に吸収される実態も判明している
AIで浮いた時間を、なぜ黙って自分のものにするのか
ITmedia NEWSが2026年9月14日に報じたところによると、Uさんが業務削減を報告しない理由はこうです。
「教えてもさらに仕事が増えるか、そうでなくてもノウハウ共有を求められるだけ。
評価制度上、仮にやったとしても自分の昇格や昇給にはつながりそうもないので、頑張る意味が見いだせない」
これは決して一人だけの特殊な事情ではないようです。
IT企業のIvantiが行った調査では、回答者の32%が「生成AIによる生産性向上を雇用主に隠している」と答え、この傾向は若い世代ほど顕著だったといいます。
さらに52%は「AIの支援を受けていると明かすと、かえって業務負担が増えるかもしれない」と懸念していました。
ただ、この数字だけでは「サボりたいだけなのでは」という印象で終わってしまいます。
そこで、日本企業の労働時間データも合わせて確認してみました。
浮いた時間はどこへ消えるのか?
パーソル総合研究所の調査によると、AIによって削減できた時間のうち61.2%は、再び別の業務に充てられていることが分かっています。
しかも、AIをよく使う人ほど残業時間が長くなる傾向まで見られたそうです。
つまり多くの職場では、効率化した分の時間は本人の余裕としてではなく、追加のタスクとして回収されやすい構造になっているというわけです。
こうした状況について、パーソル総研の田村元樹研究員はITmedia NEWSの取材にこう答えています。
「……共有しても報われる設計になっていない構造を踏まえれば、業務を効率化していること自体をあえて申告しない人が一定数いても不思議ではない」
同じ調査では、AI活用や周囲への教育・サポートへの貢献が「正式な業務や評価に位置づけられていない」と感じる人が32.5%に達しているという結果も出ています。
Uさんのケースと照らし合わせると、辻褄が合ってきます。
効率化を申告しない選択は、怠けているというより、評価される見込みのない申告を避ける、ある種の合理的な判断とも読み取れそうです。
この現象は今回だけの一過性なのか?
生成AIを職場で使うのに上司へ報告しない、という行動自体は今回はじめて指摘されたものではありません。
2025年12月には、デジタルメディア事業を手がけるインターグが20代・30代の社会人を対象にした別の調査を公表しています。
「AIを使ったことを伝えていない」人が約6割にのぼり、約4割が週に1回以上、業務で生成AIを使っているという結果でした。
ツールの浸透が進むほど、こうした「隠れ活用」も広がりやすい土壌がありそうです。
Shiritomo編集部の考察:隠れるのは「評価制度」への不信感の表れ
この一連の調査結果を見ていて感じるのは、問題の本質は生成AIそのものよりも、成果をどう可視化し評価するかという仕組みの側にあるということです。
SNS運用の現場でも、投稿分析やレポート作成にAIを使って浮いた時間を、上司への報告なしに次の企画立案へ回している、という話は珍しくありません。
パーソル総研は解決策として、上司が「成果物の管理者」から「人とAIの協働を整えるチューナー」へ役割を転換すること、AIを試した人が正当に評価される仕組みをつくることを挙げています。
裏を返せば、こうした転換が進んでいない職場ほど、AI活用の実態は水面下に潜り続けるということでしょう。
効率化を「申告する意味がある」と思ってもらえるかどうかが、今後のマネジメントの分かれ目になりそうです。
これはSNSアカウント運用の現場でも他人事ではありません。
投稿分析や画像生成、コメント対応の下書きなどにAIを取り入れて時間を浮かせているメンバーは、どの職場にもいそうです。
その運用改善のノウハウがチーム内で共有されず、担当者一人のものにとどまってしまうケースも十分に起こり得ます。
効率化を隠す動機を個人の側だけに求めるのではなく、申告した人が損をしない制度設計にできているか、企業側も一度点検してみる価値がありそうです。
まとめ
AIで浮いた時間を報告しない「AI版静かな退職」は、怠慢というより、報告しても報われない評価制度への静かな反応といえそうです。
ツールの導入だけでなく、それを申告できる仕組みづくりが、企業側に求められています。