9万6千人の帝人がチーム運用へ、「フォロワーが増えません」と自虐するキャステム――企業公式Xの「中の人」に起きていたこと【編集部まとめ】
「フォロワーの皆様へ」。
帝人の公式Xがこの一文で始めた投稿に561件のいいねがついたのは10月20日のことでした。
同じ月、広島の精密部品メーカー・キャステムは「フォロワーが増えません。
助けて下さい」と自虐し、1,800件超のいいねを集めています。
北海道の松尾ジンギスカンは〆のうどん動画で、東洋水産は「あとは万バズよろしくお願いします」というメモ風の自虐で、それぞれ反応を引き出していました。
この1ヶ月に公開した記事を並べてみると、企業公式アカウントの「中の人」をめぐる6つの出来事に、共通する構造が見えてきます。
SNS運用・マーケティングを担う読者が、明日の投稿づくりに使える発見です。
先に結論をまとめると:
– 企業公式Xで反響を集めたのは、宣伝文句ではなく「中の人」の本音・自虐・体制の変化だった
– 一人運用の強さは属人化のリスクと表裏一体で、帝人のチーム運用化がその転換点を示した
– 「技術はすごいのにフォロワーが増えない」というジレンマは、バズと登録者増加が別物であることを改めて示している
いま、企業公式Xの「中の人」に何が起きているのか
企業公式Xのタイムラインは、新商品の告知やキャンペーンの数字で埋まりがちです。
けれど、この1ヶ月に取り上げた記事を並べると、むしろ反響が大きかったのは「商品」ではなく「中の人」そのものに焦点が当たった投稿でした。
松尾ジンギスカンの〆うどん動画、東洋水産の自虐メモ、グローリーをはじめとする企業群の天気投稿、帝人のチーム運用化、ウェルネオシュガーの開設初日キャンペーン、キャステムのミニノギス自虐——。
業種も規模もまったく異なる6社が、同じ1ヶ月のあいだに「宣伝色を薄めた発信」で反応を集めていました。
フォロワー数といいね数ってあんま比例しないという投稿が1,368いいねを集めたように、SNS運用の現場では「数字が伸びる投稿」と「フォロワーが増える投稿」が必ずしも一致しないという悩みが根強くあります。
今回の6社の事例は、その悩みへのヒントと、逆に突きつけられた限界の両方を映しています。
ここからは6つの出来事を順に見ていきます。
この1ヶ月、企業公式Xの「中の人」に起きた6つの出来事
1. 肉の日前夜、松尾ジンギスカンが見せた季節マーケティングの定石
10月28日の夜、松尾ジンギスカン公式Xが投稿したのは、ドーム型の鉄鍋の縁でかぼちゃと玉ねぎが煮える、〆のうどん動画でした。
投稿が伸びた裏には、翌29日の「肉の日」という毎月恒例の語呂合わせ記念日があるとみられます。
1978年に全国食肉事業協同組合連合会が制定した記念日で、ゼロから企画を立てずとも「今日は何の日か」という話題に乗れる仕組みです。
結果はいいね1,025件、インプレッション101,351回。
計算すると、インプレッションのおよそ1%が「いいね」を押した規模で、バズというより着実な反応でした。
この記事のツボは、カレンダー上の小さな記念日を、投稿の口実としてどう使い回すかという発想そのものにあります。
2. 東洋水産「あとは万バズよろしくお願いします」が見せた自虐の効き目
同じ10月、東洋水産の公式Xは正反対の方向から反応を集めました。
10月9日、新商品の写真に添えたのは「あとは万バズよろしくお願いします、のメモを置くのは禁じられています」という自虐の一文です。
担当者は以前から「マルオ」というキャラクターとして認知されており、2025年2月の「私、マルオじゃないんです…」投稿で他社アカウントまで巻き込んだ経緯があります。
今回も1,148いいねが集まり、引用には「達成したらマルオが自腹で」と便乗する投稿まで現れました。
松尾ジンギスカンが記念日という外側の口実を使ったのに対し、東洋水産は担当者自身の内側の本音を見せる方向で読者の心をつかんでいます。
3. グローリーたちが続ける、宣伝ゼロの「天気を言い合う」習慣
松尾ジンギスカンや東洋水産のように毎回ネタを仕込むのは、実はSNS担当者にとって大きな負担です。
その悩みに別の角度で応えていたのが、精密機器メーカーのグローリーをはじめとする複数の企業公式Xでした。
「今日の姫路市は気持ちの良い青空が広がっています」。
商品名も宣伝文句もない、この一文だけの投稿が、印刷のアクセアや電子部品のアルプスアルパインなど業種の異なる企業の間で10月も続いていました。
宣伝ばかりのタイムラインはミュートやフォロー解除の対象になりやすい一方、天気報告は取材も企画も要らず毎朝数分で作れます。
ハッシュタグをたどれば同じ悩みを持つ他社の「中の人」どうしがつながる、という副産物も生まれているとみられます。
4. 帝人、9万6千人を集めた一人運用からチーム運用への区切り
ネタの作り方に悩む担当者が多いなかで、帝人の公式Xは別の悩みを公表しました。
10月20日、「フォロワーの皆様へ」と始まる投稿で、10月末をもって単独運用からチーム運用に切り替えることを発表したのです。
2016年の開設以来、一人の担当者が自虐を交えた親しみやすい発信を積み重ね、BtoB企業でありながら2026年3月時点で9万6,256人のフォロワーを集めてきたアカウントです。
561いいね・124件の返信という反応の大きさは、この変化への関心の高さを物語っています。
発表には具体的な理由は書かれていませんが、担当者の異動や休職でアカウントの「声」が失われる属人化のリスクは、一人運用の企業アカウントが共通して抱える課題です。
5. 開設初日に動いた、ウェルネオシュガーの「改めて、はじめまして」
属人化の悩みとは対照的に、ウェルネオシュガーは「アカウントを立ち上げたばかりでも人は動くのか」という問いに答える事例でした。
2023年の経営統合、2026年10月1日の東洋精糖との合併を経て生まれたこの会社は、10月19日に新設の公式Xで最初のプレゼント企画を始めます。
参加条件はフォローとリポストの2ステップだけ。
開始24時間でリポスト・引用は5,704件、10月22日時点のインプレッションは640,967回に達しました。
「改めて、はじめまして」という告知文は言葉遊びではなく、社名も会社の形も変わった企業が生活者に挨拶し直す意味が込められていたといいます。
商品そのものはすでに家庭の台所にあったからこそ、新しいアカウントでも初日から人が動いたと言えそうです。
6. キャステム「フォロワーが増えません」が突きつけた、バズと登録者増の距離
一方で、積み重ねても伸びないという現実を見せたのがキャステムでした。
10月27日、広島の精密部品メーカーが投稿したのは、名刺に収まるほど精巧なミニチュアのノギス(長さを測る工具)の写真と、「名刺に入るミニミニノギスつくれる技術があるのにフォロワーが増えません。
助けて下さい」という一文です。
1,805いいね、インプレッション79,846回を集め、新潟の金型メーカーなど他業種の企業アカウントが同じ自虐フォーマットで便乗するミームにまで広がりました。
投稿時点のフォロワー数は約18,600人。
技術を体感できるノベルティを過去にも重ねてきた会社だけに、「フォロワーが増えません」は謙遜ではなく、本音の嘆きに近いものだったと見られます。
バズっても登録者が増えるわけではない、という事実をいちばん率直に示した事例です。
6個の事例を1枚にまとめると
| 事例 | 数字 | 効いたもの |
|---|---|---|
| 松尾ジンギスカン | いいね1,025・インプレッション101,351 | 「肉の日」という既存の記念日への便乗 |
| 東洋水産 | いいね1,148 | 担当者「マルオ」自身への自虐 |
| 企業公式の天気投稿 | 業種の異なる企業3社が参加 | 宣伝ゼロのゆるい投稿習慣 |
| 帝人 | いいね561・フォロワー9万6,256人 | 単独運用からチーム運用への転換発表 |
| ウェルネオシュガー | 24時間でリポスト・引用5,704件・10月22日時点でインプレッション640,967 | フォロー&リポストのみの開設記念企画 |
| キャステム | いいね1,805・フォロワー約18,600人 | 技術力と「伸びない」現実のギャップ |
Shiritomo編集部の考察:明日からやることは2つ
6つの事例を並べて見えてくるのは、企業公式Xで反応を集めているのが「商品の情報」ではなく「中の人の素の状態」だという構造です。
季節の記念日に乗る、担当者キャラを自虐する、宣伝せずに天気だけ伝える——手法は違っても、どれも読者に「これは広告ではない」と感じさせる仕掛けでした。
同時に、帝人とキャステムの2社は、この手法の限界も映しています。
帝人は一人運用の強みを9万人超のフォロワーに育てた一方、属人化のリスクと向き合ってチーム運用へ切り替えました。
キャステムは何度バズっても登録者数はなかなか伸びないという現実を自ら公表しています。
「刺さる投稿」と「資産になるフォロワー」は別の指標で動いています。
キングオブコント2026王者のYouTubeサムネが動画の中身より画像そのものへの賞賛を集めた例とも重なる構造でしょう。
明日からできることは2つです。
ひとつは、カレンダーの記念日や社内の本音など、企画コストの低いネタを定期的な投稿のストックとして持っておくこと。
もうひとつは、バズった投稿の反応を「フォロワー増加」の数字と分けて記録し、両方を別の目的のKPIとして追うことです。
まとめ
宣伝を削り、記念日や自虐、天気といった小さなきっかけに頼る企業公式Xの工夫は、この1ヶ月だけでも6つの形で現れていました。
バズることと、フォロワーが積み上がることは、やはり別の物語のようです。





