スタローンが流暢な日本語を話すAI動画に、吹替の現場が反応
シルベスター・スタローンが、字幕なしで日本語を喋っている。
しかも、本人の声のまま——。
2026年8月11日、そんな動画に触れた投稿が386件のいいねを集めました。
投稿したのは、Netflix配信作品などの吹替版演出を手がける萩野洋平さん(@hagihey)です。
SNSで発信を続けるクリエイターにとって、声を自動で多言語化できるこの技術は「言語の壁」を一気に下げる可能性を持っています。
一方で、日本の吹替文化を支えてきた現場が今どう受け止めているかにも、運用のヒントが隠れていました。
先に結論をまとめると:
– MetaのInstagramリール向けAI翻訳機能は2026年7月15日から日本語に対応し、声質・トーンを保ったまま自動で吹き替え、口の動きを合わせるリップシンクも任意で有効化できる
– 全ての公開アカウントが無料で使え、投稿者が動画ごとに「翻訳」をオンにするオプトイン方式
– 萩野洋平さんの投稿をきっかけに、吹替の演出家や視聴者から「技術の凄さ」と「人間の演技でしか出せない深み」への両方の声が上がっている
Netflix吹替の演出家が投げかけた「悲観的になるのは簡単」という言葉
萩野さんの投稿はこうでした。
「笑けるくらい凄いけど、笑ってられないくらいの緊急事態。
ついにAI音声翻訳で、スタローンが日本語を喋り出した!しかもちゃんとご本人の声で」。
そのうえで「悲観的になるのは簡単なんですが…個人的には、今の吹替だからこそ出来ることはまだまだあると思ってます」と続けています。
笑けるくらい凄いけど、笑ってられないくらいの緊急事態。ついにAI音声翻訳で、スタローンが日本語を喋り出した!しかもちゃんとご本人の声で。
— 萩野洋平 (@hagihey) 2026年8月11日
悲観的になるのは簡単なんですが…
個人的には、今の吹替だからこそ出来ることはまだまだあると思ってます。
というかあります。#フキカツ… https://t.co/tQNC4aHYdJ
萩野さんは自身のタイムラインで、これまでNetflix作品の吹替版演出を複数手がけてきたことを明かしており、「#フキカツ」というタグで日本の吹替文化を発信する活動も続けています。
今回の投稿は128件のリツイート、5万件を超えるインプレッションを記録し、単なる技術ニュースではなく「現場の当事者の言葉」として広がった様子がうかがえます。
いいね数に対してインプレッションが約130倍という比率は、フォロワー以外にも幅広く届いたことを示しています。

ただ、この投稿だけでは、AIが実際にどこまで「本人の声」を再現しているのか、そしてこの機能がどんな条件で使えるのかまでは分かりません。
そこでMeta公式の発表を確認しました。
この動画はどうやって作られているのか?
Metaは2026年7月14日(米国時間)、Instagramのリール向けAI翻訳機能に日本語・韓国語・フランス語・ドイツ語・イタリア語の5言語を追加すると発表しました。
日本では7月15日から利用可能になっています。
この機能はもともと2025年8月に英語・スペイン語で始まり、ヒンディー語やポルトガル語など段階的に対応言語を広げてきたものです。
Meta AIがリール動画の音声を翻訳し、クリエイター本人の声質やトーンを保ったまま吹き替えを行います。
翻訳後の音声に口の動きを合わせるリップシンク機能も用意されていますが、これは投稿者が任意でオンにする設定であり、すべての翻訳動画に自動で適用されるわけではありません。
利用条件も確認できました。
対象はフォロワー数の条件なく、すべての公開アカウントです。
料金は無料。
投稿時に「リール動画を翻訳」というボタンをオンにすることで有効になるオプトイン方式で、投稿後にオフへ切り替えることもできますが、同じ動画で翻訳を再度オンに戻すことはできない仕様のようです。
関連ツイートの中には、この仕組みに触れたこんな投稿もありました。
「スタローンの声で翻訳された内容の音声を喋ってるのか そのうち口もCGでリップシンクしだすなこりゃ」
スタローンの声で翻訳された内容の音声を喋ってるのか
— daddyscar 目指せ-5kg (@daddyscar) 2026年8月11日
そのうち口もCGでリップシンクしだすなこりゃ https://t.co/hjx9YCWwZ2
実際には、リップシンク自体はすでに用意されている機能です。
それだけ機能の広がりが早く、多くの人が「まだ先の話」と感じるスピード感で実装が進んでいることがうかがえます。
声を無断で使われる心配はないのか?
インスタは投稿する本人がオンにしないとAI翻訳されない――この点を指摘した投稿もありました。
インスタは投稿する本人がオンにしないとAI翻訳されないらしいし映画と違って吹替もないのでそういう意味ではこの技術は素晴らしいし革新的!
— なおと🏰🏴☠️🤠 (@naotwo_k) 2026年8月11日
ただこの方もおっしゃるように人間だからこその演技や表現が俺は好きだし数年前のSAG-AFTRAのストライキを考えると映画等への導入は慎重にならなきゃだね… https://t.co/eDYvzrhZLF
このユーザーは「映画と違って吹替もないのでそういう意味ではこの技術は素晴らしいし革新的」としつつ、「人間だからこその演技や表現が俺は好きだし、数年前のSAG-AFTRAのストライキを考えるとこの方も慎重にならなきゃ」とも書いています。
SAG-AFTRA(米国の俳優・声優の労働組合)は2023年に約118日間のストライキを行い、同年11月の暫定合意で、AIによる「デジタル・レプリカ」(本人の声や演技をAIで複製・改変したもの)を作る際には本人の同意と報酬を必須とする条項を勝ち取った経緯があります。
日本にはまだ同様の枠組みは整っていませんが、海外の労働組合がすでにAIと声の権利をめぐって具体的な合意を結んでいるという事実は、今回の話題を考える上での参考になります。
日本の吹き替え文化は消えてしまうのか?
技術の完成度自体に驚く声も広がっています。
スタローンのAI吹替を見て、技術の進歩の速さに改めて驚きました。
— 西 健亮/Kensuke Nishi (@Nishikensuke) 2026年8月11日
『声質の完璧な再現』という領域においては、もはや太刀打ちするのが難しいレベル。
効率化や多言語化が進む中、現場でも「声優の技術や日本の吹き替え文化は今後どうなるのか」という議論を耳にする機会が近年増えてきました。 https://t.co/9mY4NYZCHk
このユーザーは「声質の完璧な再現という領域においては、もはや太刀打ちするのが難しいレベル」としながら、「現場でも『声優の技術や日本の吹き替え文化は今後どうなるのか』という議論を耳にする機会が近年増えてきました」と述べています。
萩野さん自身も投稿の中で「今の吹替だからこそ出来ることはまだまだある」と、技術に脅威を感じつつも人間の演技の価値を信じる姿勢を見せていました。
今回集まった反応を見る限り、悲観と楽観のどちらかに一気に振れるのではなく、両方の見方が同時に語られているのが実態のようです。
Shiritomo編集部の考察:明日からやることは2つ
まず確認したいのは、現時点のInstagram AI翻訳はオプトイン方式だという点です。
自分の声が勝手に多言語化されて公開される心配は、少なくとも今は小さいと言えます。
ただし関連記事で扱った「Muse Image」のように、Metaは他機能でオプトアウト方式(初期設定でオン、利用者側が拒否を申請する仕組み)を採用した実績もあります。
今後この翻訳機能の設計方針が変わらないか、注視しておく価値はあるでしょう。
もうひとつは活用の視点です。
多言語で発信したいクリエイターやブランドアカウントにとって、声質を保ったまま無料で翻訳できる機能は明確なメリットになります。
その一方で、萩野さんの投稿が支持された理由は「技術への驚き」だけでなく「人間の演技への信頼」を同時に語った点にありました。
機能の紹介だけで終わらせず、自分の言葉で得失を語る投稿の方が、共感を集めやすい構造は今回も変わらなかったと言えそうです。
まとめ
Metaのリール向けAI翻訳は、日本語対応から1カ月足らずで吹替の現場にも届く話題になりました。
技術への驚きと、人間の演技への信頼——今回のXでの反応は、そのどちらか一方だけでは語りきれないことを教えてくれます。


