ダイソー1,100円イヤホンにANC、ボーズは有線へ11年ぶり回帰——音響ガジェットで起きた逆転【編集部まとめ】
1,100円。
16,500円。
41,800円。
この1ヶ月にShiritomo GADGETが取り上げたイヤホン・ヘッドホンの価格を並べると、金額の大小と技術の新しさが、思ったほど噛み合っていないことに気づきます。
1,000円台の商品にノイズキャンセリング(ANC)が載り、老舗ブランドは最新のワイヤレス機能を捨てて有線に戻る——この1ヶ月の記事を並べてみて、はじめて見えてきた共通項です。
先に結論をまとめると:
- ダイソー・DUNUなど「安い側」の製品に、数年前なら上位機向けとされていた技術(ANC・MEMSドライバー)が先に搭載されている
- ボーズ・AirPods 5など「高い側」の製品は、有線回帰や基本機能の強化という足元を固める方向に動いている
- 価格だけでスペックを予想する買い方は、今回取り上げた6つの事例では当てはまらないケースが目立つ
いま、イヤホン・ヘッドホンの価格と技術に何が起きているのか
音響ガジェットの世界には長年、「新しい駆動方式は高額機種にまず投入され、数年かけて値段が下がっていく」という相場観がありました。
ところが9月から10月にかけての新製品を見ると、この順番がそこまで単純ではなくなっています。
DUNUが4万円台の新作に初搭載したMEMSドライバーのように、本来はフラッグシップ向けの技術が中価格帯へいきなり降りてくる例が出てきました。
一方で、価格が上の製品が必ずしも「最新・最先端」に振っているわけでもありません。
ボーズが11年ぶりに有線イヤホンへ戻った判断や、Xで3万5000件超のいいねを集めた有線イヤホン支持の投稿は、どちらも「ワイヤレスが当たり前」という前提そのものを問い直す動きです。
安い側は高機能化し、高い側は基本に立ち返る——この1ヶ月だけを切り取ると、価格帯と技術の対応関係がねじれて見えます。
ここからは、この逆転現象を象徴する6つの事例を順に見ていきます。
価格だけ見て「これはこういう製品だろう」と判断すると、今回はけっこう外れます。
6つの事例から見える、価格とスペックのねじれ
1. ダイソーの1,100円イヤホンに、ANCが本当に入っていた
税込1,100円の完全ワイヤレスイヤホン「TWS009」に、アクティブノイズキャンセリングと外音取り込みモードが搭載されました。
ガジェット系インフルエンサーのHayaponlogさんが実機レビューで「ノイキャン→ちゃんと機能している」「総評→普通にコスパ良い」と評価した投稿は、1,300件を超えるいいねを集めています。
公式スペックによれば、Bluetooth Ver6.0対応・通信距離約10m、連続再生時間はANCオフで約4時間30分、ANCオン時で約3時間30分、ケース併用の最大再生時間は約15.5時間です。
ただし対応コーデックはSBCのみでAACには非対応という制約があり、iPhoneで音質を重視する人は接続方式を頭に入れておく必要があります。
ノイズキャンセリングという機能が、専用チップとコストが前提だった時代からどれだけ下の価格帯まで降りてきたかを示す事例です。
「ダイソー イヤホン」はGoogle広告キーワードプランナー(2026年8月時点)で月間27,100件と安定して検索されている言葉で、1,100円でANCが使えるという事実そのものが、価格帯の常識を揺さぶる一例になっています。
2. DUNUが4万円台に、まだ珍しい駆動方式をぶつけた
中国のイヤホンブランドDUNUは、自社初となるMEMSドライバー(半導体の微細加工技術で作る極小サイズの音響素子)を、フラッグシップではなく41,800円の「PRS 6」に投入しました。
構成はDD(ダイナミックドライバー:一般的なスピーカーと同じ構造の振動板)1基・BA(バランスド・アーマチュア:小型で高域再現に強い駆動方式)4基・MEMS1基の6ドライバー。
同時発表された26,980円の「PRS 5」は1DD+3BA+1マイクロプラナー(薄膜を振動させる平面駆動型ドライバー)の5ドライバー構成で、PRS 6はすでに9月10日に発売済み、PRS 5は9月末発売予定です。
ダイソーのTWS009が「ANCという機能」を安い価格帯に持ち込んだのに対し、DUNUの事例は「MEMSという駆動方式そのもの」を中価格帯に先出ししている点が異なります。
発売直後にはヨドバシAudioの公式アカウントがプレゼント企画を打ち、1,300件を超えるいいねを集めました。
家電量販店の音響ブランドが発売直後に販促を打つ規模感からも、新技術への注目度の高さがうかがえます。
3. ボーズは逆方向へ——有線に戻って11年ぶりの新製品
ボーズは2026年10月8日、約11年ぶりとなる有線イヤホン「Bose Noise Cancelling Wired Earbuds」を発表しました。
価格は税込16,500円、発売は10月23日です。
最大の特徴は、USB-Cケーブルから給電する仕組みにより本体にバッテリーを積んでいないこと。
充電切れでノイズキャンセリングが使えなくなる心配がなく、Bluetoothのペアリング作業も不要です。
クワイエット・アウェア・ANCオフの3モードを切り替えられ、ロスレス音源の再生にも対応します。
Bloombergの公式Xは、この製品を「有線のイヤホンが若い買い手の間で再び支持を集めているタイミングで、珍しい機能を投入した格好だ」(日本語訳)と伝えました。
ノイズキャンセリングという、これまでワイヤレス機種の目玉機能だった要素を、あえて有線に持ち込んだ設計判断です。
バッテリー劣化や充電切れという弱点そのものを、電源の仕組みを変えることで消してしまった点が、今回のボーズの事例の核にあります。
4. Technicsは逆に、スピーカーの技術をヘッドホンへ丸ごと移した
パナソニックのオーディオブランドTechnicsは9月30日、新型ワイヤレスヘッドホン「EAH-A1000」を発表しました。
これまでスピーカーの高音域再生に使われてきた「磁性流体」という技術を、初めてヘッドホンのドライバーに持ち込んだモデルです。
フラッグシップスピーカー「SB-R1」で採用した振動板のエッジ構造と、磁性流体によるボイスコイル制御を組み合わせた40mmドライバーを搭載しています。
発売日は11月19日で、直販ストアの表示価格は59,400円(税込)、量販店の実勢価格は6万円台前半から66,000円程度になる見込みです。
USB-C接続時にはロスレス再生に対応し、LDACも使えます。
バッテリーは最大45時間(AAC・ANC ON時)です。
ボーズが「機能を有線へ持ち込む」方向だったのに対し、Technicsは「スピーカー用の技術をヘッドホンへ持ち込む」方向に動いた点が対照的です。
どちらも、これまで別のカテゴリの製品に閉じ込められていた技術を持ってきた点では共通しています。
5. 「田舎者っぽい」発言が3万5000いいねに——有線を選ぶ理由が可視化された
9月20日、月城ルナさんが「有線イヤホン使ってるだけで『古すぎ』『田舎者っぽい』って言われた」と投稿し、200万インプレッション、いいね3万5000件超、引用1100件超という反応を集めました。
充電が要らないこと、なくしにくいこと、挿せばすぐ使える手軽さが支持された理由として挙げられています。
凛として時雨のピエール中野さんは自身監修の「有線ピヤホン3」(税込4万1800円、2022年にクラウドファンディング「うぶごえ」で1億円を集めたモデル)を挙げて後押しし、物理学者の菊池誠さんや歌手の柴田淳さんも賛同のコメントを寄せました。
米国の市場調査会社Circanaのデータを基にした報道では、有線ヘッドホン・イヤホンの売上は5年連続の減少を経て2025年にプラスへ転じ、2025年後半(7〜12月)は前年同期比で増加が加速したとされています。
ボーズの製品判断と、この投稿への反応の大きさは、同じ方向を向いています。
個人の投稿1件が集めた反応の規模が、業界側の販売データの動きと重なって見えるのが今回の事例の面白さです。
6. AirPods 5は「オープン型なのにANC」という、別の逆転を起こした
9月18日に発売されたApple「AirPods 5」は、耳を塞がないオープン型でありながら、ANC性能が前モデル「AirPods 4」比で最大50%向上しました。
価格は23,800円(税込)から、ワイヤレス充電ケース付きは27,800円です。
「逆に恐怖を感じるほどの無音なんやけど無音恐怖症なのかもしれん」という投稿が示すように、耳が塞がれていないという感覚と、周りの音がほぼ聞こえないという聴覚情報のずれに驚く声が相次ぎました。
ステム部分をスワイプするだけで音量調整できるようになった点や、バッテリー駆動時間が本体のみで最大5時間、ケース込みで最大22時間に伸びた点も、スペック表だけでは見落としがちな改善です。
密閉度を上げずにANCだけを強化したという設計は、「密閉してこそノイキャンが効く」という、これまでのイヤホン選びの前提をずらした事例といえます。
この1ヶ月の中では、価格ではなく構造そのものの逆転を起こした唯一のケースです。
6つの事例を1枚にまとめると
| 事例 | 価格・数字 | 効いたもの |
|---|---|---|
| ダイソー TWS009 | 1,100円、ANC・外音取り込み対応 | 専用チップ前提だったANCの低価格化 |
| DUNU PRS 6 | 41,800円、1DD+4BA+1MEMS | フラッグシップ技術の中価格帯への先出し |
| ボーズ 有線イヤホン | 16,500円、約11年ぶりの有線新製品 | USB-C給電でバッテリー切れの悩みを消す発想 |
| Technics EAH-A1000 | 直販59,400円、磁性流体ドライバー初搭載 | スピーカー技術のヘッドホンへの応用 |
| 有線イヤホン支持の投稿 | いいね3万5000件超、米国売上は2025年後半で前年比増加 | 「古い」とされた選択の再評価 |
| AirPods 5 | 23,800円から、ANC最大50%向上 | オープン型のままANCを強化する構造 |
Shiritomo GADGET編集部の考察:価格を見てから機能を見る習慣が、通用しにくくなっている
6つの事例を並べて見えるのは、「値段が上がるほど新しい」「値段が下がるほど機能が削られる」という単純な図式が、この1ヶ月のイヤホン市場では成り立っていないことです。
1,100円のANCと41,800円のMEMSは、技術が価格の下方向に流れた例。
16,500円の有線ボーズと3万5000いいねの有線投稿は、価格ではなく思想そのものが上方向から戻ってきた例です。
読者が明日からできることは2つあります。
まず、価格帯だけで「この値段ならこの機能は無いだろう」と判断せず、商品ページのスペック表まで確認すること。
次に、買い替えを検討するときは「ワイヤレスだから新しい」「有線だから古い」という前提を一度外し、充電の手間・紛失リスク・音質の安定感という自分の使い方に合う軸で選び直すことです。
価格と技術の対応がねじれている今は、思い込みで選ぶと損をしやすいタイミングでもあります。
まとめ
ダイソーの1,100円イヤホンにANCが乗り、ボーズは11年ぶりに有線へ回帰する——この1ヶ月のイヤホン・ヘッドホン市場は、価格と技術の対応関係が大きくねじれていました。
次に新製品を見るときは、価格のラベルより先に、中身のスペックを確かめてみるとよさそうです。
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