「家を売ることを考えて」——xAIデータセンターの騒音訴訟、市長が住民に告げた本音
夜通し響く高周波のファン音と、床から伝わる低周波の振動。
窓を閉め切っても眠れない夜が、もう1年以上続いている——。
米ミシシッピ州サウスヘイブンの住民たちが、そう訴えて起こした裁判が動き出しています。
相手はイーロン・マスク氏率いるxAIとSpaceX。
街の外れに建った巨大データセンター「コロッサス」が原因です。
AIの計算能力を支えるための施設が、なぜ住民の生活を脅かす存在になったのか。
そして、当の市長が住民に何を告げたのか。
今回はこの騒動の中身を調べました。
先に結論をまとめると:
– サウスヘイブンの住民3人が6月8日、xAIとSpaceXなどを相手に、データセンターの発電施設が出す騒音・振動を巡る集団訴訟を起こした
– 発電用のガスタービンは6月時点で50基以上に増え、うち27基は連邦の大気汚染防止許可を取得していないと指摘されている
– 市が示した対応策は騒音の是正ではなく「家を売ることを検討してはどうか」という提案で、住民の不満はさらに強まっている
何が起きたのか
きっかけとなったのは、データセンターの騒音を記録した動画がXで拡散したことでした。
これデータセンターの騒音サンプルとしてすごく分かりやすいな、この音の中で生活しろと?という投稿が、9,000件を超えるいいねを集めています。
これデータセンターの騒音サンプルとしてすごく分かりやすいな。
— いかぽん (@ikapon1) 2026年9月6日
この音の中で生活しろと? https://t.co/9lRRY4qDwI
172万回以上表示されたこの投稿をきっかけに、「こんな施設は存在しない」「フェイクだ」といった疑いの声も上がりました。
それに対しては、実在する騒音問題だと具体的に説明する投稿も広がっています。
動画の実在性を疑う声に対しては、施設名や経緯を挙げて反論する投稿も広がりました。
「こんなデータセンターは存在しない」「フェイクだ」とか言ってる奴は無知の知ったかぶりなので無視していい
— 芝浦C (@jjugdy2433yc2c) 2026年9月6日
xAIのガスタービン発電機を併設したデータセンター「コロッサス」は去年から深刻な騒音問題を起こしているpic.twitter.com/1KJggLUoEo https://t.co/70M2Usq7ox
投稿者は、xAIのガスタービン発電機を併設した「コロッサス」が去年から騒音問題を起こしている実在の施設だと説明しており、日本のユーザーからも「受忍限度を超えている」といった反応が相次ぎました。
ただ、X上の投稿だけでは実際の訴訟がどこまで進んでいるのか分かりません。
そこで一次情報を確認してみました。
調べて分かったこと
訴訟の中身はどうなっているのか
Mississippi Free PressやThe Hillなどの報道によると、サウスヘイブンの住民3人(Jason Haley氏、Preston Herrington氏、Taylor Logsdon氏)が6月8日、xAI・SpaceX・関連会社のMZX Techを相手取り、集団訴訟を米ミシシッピ州北部地区連邦地裁に提起しました。
訴えの内容は、発電施設が「近隣に絶え間ない騒音・振動という迷惑行為(ニュイサンス)」をもたらしているというものです。
原告側はこの集団訴訟の対象を1万人を超える住民と見積もっています。
なぜガスタービンがそんなに増えたのか
このデータセンターは「コロッサス」と呼ばれ、電力需要の急増に伴ってガスタービンの増設が続いており、6月時点で50基以上が設置され、うち27基は連邦の許可を得ないまま稼働していると指摘されています。
環境保護団体Earthjusticeは、隣接する「コロッサス2」施設について、連邦の大気清浄法(クリーンエアアクト)で義務づけられた許可を取らないままタービンを稼働させているとして提訴しました。
電力網の増強が追いつかないまま、自前の発電設備で急場をしのぐ拡張の仕方が、今回の摩擦の根っこにあるようです。
住民はどう対応すればいいのか
CBSニュースの報道で特に注目されたのが、サウスヘイブン市長の対応です。
眠れない夜が続くと訴える住民に対し、市長が示した助言は「家を売ることを検討してはどうか」というものでした。
行政による規制強化や補償ではなく、住民側に移住を促す形になっており、報道後は「本末転倒だ」との批判が強まっています。
AIインフラの拡大が地元行政の対応能力を超えてしまっている状況が、この一言に表れているといえるでしょう。
Shiritomo編集部の考察:AIの「見えないコスト」が可視化された事例
AIの進化を語るとき、私たちはモデルの性能や料金には注目しても、それを支える電力・発電設備が周辺住民に与える負荷にはなかなか目を向けません。
今回の訴訟は、その”見えないコスト”が具体的な数字と住民の声として表面化したという点で、AI業界全体にとっても他人事ではない事例です。
日本でもデータセンターの新設・拡張計画が相次いでいますが、電力調達の手段として非常用発電機や自前のガスタービンに頼る動きが広がれば、同様の摩擦が起きる可能性はゼロではありません。
AIインフラへの投資を語る記事の多くは供給側の数字が中心になりがちですが、今後は「誰の生活圏に、どんな設備が置かれるのか」という受け手側の視点も欠かせなくなりそうです。
まとめ
xAIのデータセンターを巡る騒音訴訟は、AIの計算資源を支える裏側で、実際に生活を脅かされている人がいることを浮き彫りにしました。
訴訟の行方とあわせて、AIインフラ拡大のペースに周辺環境への配慮が追いついているか、今後も注視する価値がありそうです。