人間には「HAPPY」、AIには「SORRY」——フォント1つでAIを欺く技術が登場
ぼんやりした輪郭の文字が、画面の奥でにじんでいます。
目を細めて見ると「HAPPY HUMAN」と読めます。
ところが同じ画像をChatGPTに読ませると、答えは「SORRY ROBOT」——。
同じ1枚の画像なのに、見る側によって読める文字が変わるのです。
そんなフォントが2026年7月17日に公開され、AIをよく触る人たちの間で話題になっています。
このフォントは「Decoy Font(デコイフォント)」。
名前の通り、AIに向けた”おとり(decoy)”の文字を仕込んだ書体です。
プロンプトを工夫してAIをうまく使いこなす方法が注目される一方で、今回は逆にAIに”見せたくないもの”を隠す発想が出てきたことになります。
画像内のテキストをAIに読み取らせたくない場面がある人にとっては、見逃せない動きです。
先に結論をまとめると:
– フォント開発サービスMixfontが「Decoy Font」を無料公開。
人間には本来の文字が見え、AIには別の”おとり文字”が見えるよう設計されている
– 高い解像度の輪郭線(おとり文字)と、ぼやけた低解像度の塊(本文字)を同じ場所に重ね、AIの画像認識は輪郭線を優先して読み取ってしまう仕組み
– ただし万能ではなく、高度な推論能力を持つAIエージェントには見破られる可能性があると開発元自身が認めている
何が起きたのか——GIGAZINEの紹介から広がった話題
Decoy Fontの存在は、ITニュースサイトGIGAZINEが日本語で紹介したことで国内でも一気に知られるようになりました。
GIGAZINEの一次情報によれば、Decoy Fontは無料のオープンソースフォントで、定番の等幅フォント「DejaVu Sans Mono」の字形をベースに作られています。
個人利用はもちろん、商用利用やクライアントワークでも無料で使える太っ腹な条件です。
この投稿への反応は静かではありませんでした。

人間には読めるのにAIには別の文字に見えてしまうフォント「Decoy Font」が登場 pic.twitter.com/EdRS8BuEDl
— GIGAZINE(ギガジン) (@gigazine) 2026年7月17日
いいね9万件超えというのは、テック系の話題としてはかなりの反響です。
「そんなことができるのか」という驚きと、「じゃあ実際に試してみよう」という好奇心の両方が入り混じっていたようです。
実際、海外のユーザーの中には、AI(Grok)に画像を見せて「この文字、読める?」と直接試す人も現れました。
Hey @grok, can you read the text on the image below? https://t.co/85PhvgwuCv
— Tran Mau Tri Tam ✪ (@tranmautritam) 2026年7月17日
ただ、なぜこんな不思議なことが起きるのか。
「AIが騙される」という言葉だけでは、実際にどういう仕組みなのか分かりません。
そこで公式サイトの技術的な説明を確認してみました。
調べて分かったこと
なぜ人間とAIで見える文字が変わるのか?
Mixfontの公式サイトによると、Decoy Fontは1つの文字の形の中に、性質の異なる2種類の情報を重ねています。
1つは、輪郭がくっきりした薄い線で描かれた「おとり文字」。
もう1つは、ぼんやりとにじんだ塊として背景に沈む「本当の文字」です。
専門的にはこれを「空間周波数(画像の中でどれだけ細かい模様が詰まっているかを表す指標)」の違いとして説明しています。
輪郭のようにコントラストがくっきりした高周波成分と、全体の濃淡でぼんやり形を作る低周波成分を、同じ場所に共存させているわけです。
画像認識AIは、輪郭のようなくっきりした線(高周波成分)を手がかりに文字を判定する傾向があります。
だからこそ、おとり文字の輪郭線を「これが答えだ」と読み取ってしまうのです。
一方、人間の目は距離を取ったり視力をぼかしたりすると、細かい輪郭よりも全体のぼんやりした塊のほうを自然に拾い上げます。
近くで見るか遠くで見るかで、答えが変わる仕組みです。

実際にGIGAZINEの検証では、Decoy Fontで作った画像をChatGPTとGeminiに見せたところ、両方ともおとり文字のほうを読み上げてしまったと報告されています。
これは目新しい発想なのか?
実は、AIに読ませたくない文字を隠す試み自体は、Decoy Fontが初めてではありません。
少し前には、開発者のEric Lu氏が「Ghost Font(ゴーストフォント)」という、動く点の集合で文字を描く別のプロジェクトを発表し、話題になっていました。
Ghost Fontは、文字を構成する点と背景の点をそれぞれ別方向に動かすことで、人間の脳が「動きの違い」から文字を瞬時に読み取れる一方、AIが静止画のフレームを1枚ずつ解析すると、ただのノイズにしか見えないという仕組みです。
海外メディアの報道では、あるAIモデルがこの文字の解読に19分間かけた末に、間違った内容を答えてしまったと伝えられています。
Decoy FontとGhost Fontは開発元も仕組みも別物ですが、「AIが得意とする読み取り方の”くせ”を逆手に取る」という発想は共通しています。
AIの画像認識がどんな特徴に反応しやすいかが分かってきたからこそ、こうした対策が次々と生まれているとも言えそうです。
誰にとって意味のある技術なのか?
Mixfont自身も、Decoy Fontは「保証ではない」と明言しています。
高度な推論能力やコーディング能力を持つAIエージェントであれば、最初の見た目に惑わされず文字を見抜ける可能性があるとのことです。
つまり現時点では、簡易的なAIの画像読み取りを一時的に迷わせる程度の効果と捉えるのが実情に近いでしょう。
それでも、個人情報が写り込んだスクリーンショットをAI学習用データから守りたい人や、Webサイトの内容をAIに無断で読み取られたくないと考えるクリエイター・企業にとっては、選択肢の1つになり得ます。
Shiritomo編集部の考察:AIとの「読み合い」はこれからも続く
今回の話題で興味深いのは、生成AIが普及したことで「AIにどう読ませるか」を工夫する人と、「AIにどう読ませたくないか」を工夫する人の両方が同時に増えている点です。
プロンプトエンジニアリングが前者だとすれば、Decoy FontやGhost Fontは後者の代表例と言えるでしょう。
SNS運用者にとっても他人事ではありません。
投稿画像に埋め込んだテキストがAI学習データとして無断で収集されることへの懸念は今後も強まっていくはずですし、逆にAIボットによる自動収集を意図的に避けたい企業アカウントも出てくるでしょう。
ただし今回の技術はまだ「一時しのぎ」の段階であり、AI側もすぐに対抗策を学習してくる可能性が高いです。
過去にも画像認識を欺くadversarial(敵対的)な加工技術が登場するたびに、AI側の対応がアップデートされてきた歴史があります。
今回も、いたちごっこの新しい1ページが始まったと捉えるのが妥当ではないでしょうか。
まとめ
人間とAIで異なる文字が見える「Decoy Font」は、AIの画像認識の”くせ”を逆手に取った実験的な技術です。
万能な防御策ではないものの、AIとの付き合い方を考えるうえで象徴的な出来事として、今後の展開に注目したいところです。